作家を目指すあなたへ

「売れる本」と「売れない本」を分ける「読者の視点」とは?

「パレートの法則」というのを聞いたことがあるだろうか?「8対2の法則」と言えばわかる人も多いかもしれない。これは出版業界にも当てはまる。出版された本のうち、8割は損をし、2割の成功で8割分の損を補っているということだ。8割2割という数字は別としても、その売れる本と売れない本は、いったい何が違うのだろうか?

 

翻訳エージェントで鍛えられた、「売れる本」を見抜く目利きの力

14年前に、欧米のシステムを模したエージェント会社を始めた私たちには、この仕事をうまくやっていく根拠のない自信があった。いや、正確に言うと、根拠は少しだけあった。それは企画を見極める「目」だ。

 

翻訳版権を扱うイングリッシュ・エージェンシーには、海外から毎日二十冊以上の書籍が送られてきた。日本市場への翻訳版権の売り込みのためだ。私はイングリッシュ・エージエンシーでの最後の約二年間、毎日それらすべての本の著者プロフィール、目次、梗概に日を通した。

 

著者プロフィールからはその著者が持つ視点が、目次からは構成が、梗概からはコンセプトが読みとれる。その情報を基に、どんな視点で、どんな構成で、どんなコンセプトならよい本になるのか、世間を騒がせる本になるのか、売れる本になるのかを予想していた。そしてその企画はどこの出版社のどの編集者が興味を持つのか。

 

そして、「これは」と思った作品を日本の出版社に売り込んだ。それが数カ月後に書棚に並ぶと、今度は売れ行きの傾向を見た。これにより、自分が立てた予想の当否を検証したのだ。

 

自分の予想が当たると素直に嬉しかったし、はずれるとその理由を考えた。そんな目利きの訓練を一日二十冊、二年間で約一万冊もこなした。こうして売れる本、可能性のある作家を見極めるための「目」が鍛えられたのだ。もっとも当初は、当たりはずれに一喜一憂する部分が大きかったが……。しかしこれで、私はお金をもらいながら、お金に替えられない大切な経験とスキルを手に入れた。そんな機会を与えてくれたイングリッシュ・エージェンシーには心から感謝している。

 

そうしていつしか、自分でも作家志望者に対してアドバイスできるようになっていた。たとえば精神科医の最上悠さんと会ったときのことだ。本を出したいと言うので、その思いを30分ほど聞いた。「だったら、タイトルは『こうすれば、うつから抜け出せる』でいきましょう。構成は五章立てにして、序章に典型的な臨床事例を持ってきて、一章は……」という話が自然に出るといった具合だ。

 

そのうち、書籍になりそうなネタを持っている人と少し話せば、「出版社は〇〇で、装丁に△△さんのイラストを持ってきて、タイトルは口口で、構成はこんな感じで……」などと、即座に思いを巡らすようになった。

「売れる本」は作れるのか?

ときどき「『売れる本』と『売れない本』の違いはあるのか?」と問われることがあるが、その質問には「ある」と答えている。あるにはあるが、しかしそれは万能ではない。ただ言葉を濁しているのではなく、本当にそのように答えるしかないのである。

 

いくつもの出版社さんとお付き合いをしながら業界の様子を見ていると、明らかに売れる本を出す出版社や編集者は存在する。重版率の高い編集者も存在する。だからといって100%はない。どんなに売れている出版社で、どんなに売れている編集者に担当してもらったとしても、その本が100%売れるという保証はない。こればっかりは、実際に出版して、書店に並んでみて、読者に手に取ってもらい、世間のリアクションを待ってみるほか、結果を知る方法はないのだ。

あなたの言葉が読者に届かなければ、本は売れない

本は情報を伝える手段である。著者が持つ情報を、読者に届ける。何かに困っている人がいたとして、その人が必要としている情報を、わかりやすい言葉(理屈)で届け、その人の問題を解決してあげる。それこそ本に求められていることである。

 

「売れる本にするためには、何を書いたらいいのだろう?」と思っている人がいるなら、まずはそのことを考えてみてほしい。どうすれば、あなたの言葉を読者に届けられるのか、著者は必死に考える必要がある。ここでは、考えるときのヒントを2つお伝えしようと思う。

 

1つ目は、人が何に困っているかを知ること。そして、どのくらいの人がその解決方法を求めているかを考えること。もし100人の人が求めている内容と、100万人が求めている内容だったら、どちらが売れるだろうか?言わずもがなである。

 

2つ目は、わかりやすい言葉で伝えること。どれだけ重要な情報だったとしても、その意味が伝わらなければ、相手には届かない。

 

「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」

 

というのは、いのうえひさし氏の有名な言葉だから知っている人も多いだろう。

 

私は、わかりやすい言葉というのは、話し言葉に近いと思っている。たとえば、身近にいる小さな子どもに対して語りかけるようにするイメージだ。あなたの話は相手にちゃんと届いているだろうか?

 

本を出す人間は、「読者の視点」を忘れてはいけない。読者に心に届くからこそ、本は売れていくのである。私自身も企画に迷ったときには、立ち返りたいと思っていることである。

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鬼塚忠

アップルシード・エージェンシー代表。大学在学中に英国留学し、卒業後は働きながら、4年間で世界40か国を巡る。帰国後、海外の本を日本に紹介する仕事を経て、独立。「作家のエージェント」として、多くの才能を発掘している。自身でも小説を執筆し、著書に『Little DJ』『カルテット!』『花いくさ』『風の色』等がある。

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