例えばベートーベンの交響曲第九番の冒頭2小節だけを聞いて、ああ、これはカラヤン/ベルリンフィルだなと分かる人はどれくらいいるのだろうか。
そんな人いないよ、と言えないところがクラオタの凄さであるが、今日はそんな話ではない。
カラヤンとベルリンフィル、バーンスタインとウィーンフィル、カールベームとウィーンフィル、フェルトベングラーとバイロイト、そして小沢征爾とサイトウキネンなどなどなど、、、、、これら全てのベートーベンの第九録音のどれがどれであるか、音を聞かなくても識別できる国際規格番号があるのだ。
全ての録音物はISRCという個別のナンバーを持っている。
自主制作でCDを作ろうと思っている演奏家だけでなく、ボカロ音源をアップしているアマチュアのクリエイターにも、ぜひこのISRCを知っておいてほしい。
ISRCとは
「International Standard Recording Code」の略称で、日本語で「国際標準レコーディングコード」といいます。レコーディング(オーディオレコーディング及び音楽ビデオレコーディング)の識別に利用される唯一の国際標準コードです。ここで言う「レコーディング」とは「収録及び編集の作業によって得られた成果」をさし、バージョン違い(リミックス)やタイム違いをはじめとする「視聴覚的に識別できるもの」は全て異なるレコーディングとして扱われます。1つのレコーディングは1つのISRCによって識別されます。異なる複数のレコーディングに同一のISRCを付けたり、単一のレコーディングに複数のISRCを付けたりすることはできません。また、一度付番したISRCを変更することはできません。(一般社団法人日本レコード協会ウェブサイトより抜粋)
私もレーベルを立ち上げてアルバムを制作するまで、ISRCという言葉はもとより、録音物に番号がついていることすら知らなかった。
ISRCは音楽のユーザーサイドでは、この番号をほとんど目にすることはない。
CDのジャケットに印字されているわけでもないし、ブックレットに記載されているわけでもない。
では、どこにあるかというと、CDの中の電子データとしてである。
このISRCは12文字の英数字として構築されている。
例えば、「ISRC JP-QQ0-16-34567」となっており、内訳は、国名コード(日本はJP)、登録事業者コード(3ケタ)、年次コード(西暦の下2ケタ)、レコーディング番号(5桁)である。
なぜISRCが必要なのか
この第九が指揮者誰で、オケはどこ、ということだけを判別したいためにISRCがあるわけではない。
例えば、ドラマやラジオなどの放送でその楽曲の一部分が使われた場合にも、「いついつ、何分、この音源を使いました」という管理がISRCを使って行われている。
つまり、音源の二次使用料を原盤権者に支払う仕組みの一つなのである。
さらに、現在ではiTunesなどダウンロード販売や、これから日本でも活発化するであろうストリーミング配信の業者は、楽曲の管理にISRCを使っている。
音源を制作する側にとっては、放送等の二次使用料徴収と配信管理、この二つの面からISRCは必要である。
ISRCの取得方法
自主制作でCDを作る場合や、アマチュアで音源を制作しているクリエーターは、個人でもISRCの取得が可能である。
レコーディングとマスタリングが終わって、楽曲が完成したら、ぜひ日本レコード協会のISRCホームページで申請を行ってほしい。
個人で申請する場合は、戸籍謄本や印鑑証明など必要書類も多いので、CD販売を決めたら、早めに登録することが肝心である。
サブスクリプションなど、今後音楽配信が日本でも活発になることを考えると、ぜひこのISRCの取得をお勧めしたい。
クラシックオタクのためのISRC利用法
さて、音源制作側にとってISRCは使用料の徴収などで今後大きな役割があるが、ユーザーサイドではどうだろうか。
特にクラシック音楽愛好家にとって、嬉しい使い方が存在するのである。
同じ楽曲でも、指揮者とオケが違えば購入するのが当たり前のクラシック音楽ファンの皆様。
そしてさらに、コンプリートボックスやら、作曲家の全集やらが出たら、また買ってしまうあなた。
元の収録が同じものでも、トラックダウンやマスタリングが違えばISRC番号は違うのである。
ISRCを調べてみれば、あら、嬉しい。これとそれは別物!と胸を張ってコレクションを増やした言い訳ができるのだ。
逆に、全く同じ原盤の使い回しかよ、と泣く羽目にもなるのでご注意いただきたいのだが。
ISRCを調べるには、「音楽の森」というサイトも使うことができる。
一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)、公益社団法人日本芸能実演家団体協議会(芸団協)、一般社団法人日本レコード協会(JIAJ)の三団体が運営している音楽情報データベースサイトから情報を見ることもできる。
クラオタの皆さまにおかれましては、ISRCのこんな楽しみ方もできるということを、心の片隅にでも置いていただければ甚だ幸いである。