書籍づくりの現場ではどのような作業が行われているのか。実際に本を出版した著者と、その担当編集者のインタビューを公開します。企画の経緯から執筆・編集・デザイン・売り方まで、生の声をお届けします。
書籍:『あなたが部下から求められているシリアスな50のこと』(実務教育出版)
実務教育出版
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著者:濱田 秀彦(はまだ ひでひこ)さん
ヒューマンテック代表取締役。1960年生まれ。
早稲田大学教育学部卒業後、住宅リフォーム会社に就職し、最年少支店長を経て大手人材開発会社に転職。トップ営業マンとして活躍する一方で社員教育のノウハウも修得。96年に独立し、現在はマネジメント、コミュニケーション研修講師として階層別教育、プレゼンテーション、話し方などの分野で年間150回以上の講演を行っている。これまで指導してきたビジネスパーソンは1万7000人を越える。
───前著『あなたが上司から求められているシンプルな50のこと』を出版された後、“部下”の立場の方々からの意見・上司への要望が多く寄せられたことが、本書の企画につながったと伺いました。
あらためて、本書出版の経緯を教えてください。
濱田秀彦さん(以下、敬称略):前著の執筆中、読者層である部下の皆さんに草稿を見せて感想を聞きました。
その際、部下の皆さんは
「たしかにここに書いてある通りだと思う。ただ、僕らも上司に言いたいことがある」
と、口々に上司への不満を述べました。
それを聞いているうちに、部下の要望も上司に知らせる必要があるのではないか、と考えこの企画に至りました。前著が重版になっていたこともあり、比較的スムーズに企画は通り出版できました。
───部下指導に関するテーマの本は定番で、多くの類書がありますが、今回それらと差別化するにあたって、注意された点はどんなことですか?
また、著者の濱田さんが実際に研修講師として日々現場で体験されていることが、今回のご執筆において、どんな点で生かされたと思われますか?
濱田:部下指導の本は、大別すると「上司は鬼になってビシビシやらなくてはダメ」というハード系のもの、「部下の自主性を引き出すコーチング的アプローチでなくてはダメ」というソフト系のものに分けられます。ただ、どちらも上司の“べき論”が中心で、相手である部下が不足しています。
そこで、部下の視点を中心に上司を考えようというのが本書の主旨です。
執筆する上で注意した点は「部下はこう思っていますよ」というだけでなく、それをどう解釈し、具体的にどのようにマネジメントに活かせばよいのか、を記すことです。
例えば、部下は「じっくり話を聞いてほしい」と願っています。そのまま受け取ると、長時間、部下の話を聞かなくてはならないということになります。
しかし、部下が求めているのは、時間的な長さではなく、共感的な聞き方なのです。
「傾聴」という方法をとれば、1分間でも、部下は「よく聞いてもらった」と感じます。
本書では「目を見て、相手の話すペースにあわせて頷き、あいづちの言葉を添える」という傾聴の方法を明日からマネジメントの場で実践できるレベルまで解説しています。
執筆するにあたっては、研修講師として出会った1万人の部下の皆さんとの会話が、大いに役立ちました。中でも研修後の懇親会でアルコールの入った状態で聞いたホンネ話は貴重でした。
───部下が上司に求めていることに対し、それぞれどう対応すればいいかをわかりやすく丁寧に書かれている本書ですが、執筆にあたり工夫されたことや、苦労されたことはありますか?
また、編集者やエージェントからはどんなアドバイスがありましたか?
濱田:工夫したのは、上司の立場も尊重することです。
例えば、先ほどの「じっくり話を聞いてほしい」という部下の要望に対し、上司が直感的に思うのは「この忙しいのに、長い時間、要領を得ない部下の話なんか、聞いてはいられない」ということです。
私も、かつて企業の管理職でしたから、その気持ちはよくわかります。ただ、そういう気持ちは読む上でのバリアになります。
そこで、「こういう気持ちになるのは当然ですが」と上司の皆さんを尊重しつつ、「そうはいってもこうした方が、あなたのプラスになるんですよ」と展開しようと考え、すべての項をそうしました。
編集担当の方、エージェントの方からは、「具体例」についてアドバイスをいただきました。リアルな事例を出そうとするあまり、論点からずれたり、冗長な記述になっている部分があり、そういう部分を指摘してもらいました。相手はプロですからご指摘は的確です。気づかされることが多々ありました。
───本書はどのような方に読んでほしいと思われますか?
濱田:部下の気持ちがわからず困っている上司の皆さんはもちろんのこと、「自分は部下のことがよくわかっている」と思っている方にも読んでほしいです。
本当にわかっているか、検証してほしいのです。
私もかつてマネージャーだった頃、部下のことはわかっているつもりが、実はそうではなかったという経験がありますので。
───本書の発売後、周囲やネット上などで、どんな反響がありましたか?
印象に残る感想や意見などがありましたら、教えてください。
濱田:面白かったのは、部下の皆さんの反響です!「上司に読ませたい」という声が多く、なかには「フセンをつけて上司の机にそっと置いておこうと思う」というのも(笑)。
上司の皆さんのご意見としては、「べき論、精神論が中心のツラい本かと思ったら、こちらの立場もわかった上での具体論が書かれているので読んでいて腹に落ちやすかった」という声がありました。
どちらも、本書の意図通りでしたので、嬉しかったです。
───ご自身の原稿内容を多くの方に理解していただくために、ご執筆の際に注意していること、気をつけていることはありますか?
濱田:月並みですが校正には力を入れています。自分の書いたものを客観的に見られるよう、2~3日放置して気分を変えてから読むように。そしてこれを2回繰り返しています。
これらにかかる時間を考慮したスケジューリングも欠かせません。
───濱田さんは、すでに10冊のご著書を出版されていますが、書き続けるために大切だと思われることはどんなことでしょうか?
濱田:次々にやることですね。1冊書くと精力を使い果たし、少しのんびりしたいと考えるのですが、エージェントが「次の企画は?」と尻を叩いてくれます(笑)。それがなければ、途中で止まっていたとホンネで思います。
───次回はどんなテーマについて執筆したいと思われていますか?
濱田:少し視点を変え「仕事で評価される人の共通点」を書きたいと思っています。前回の「あなたが上司から求められているシンプルな50のこと」では、上司の期待を知り、応えるのが中心でした。
次は、それに加え、組織から求められるもの、市場価値を高めることまで広げ、「どこに行っても正当に評価される自分作りのための、すぐにできる言動の改善」をテーマにしたいと思っています。また、最近世に増えている、考え過ぎて行動できない分析型タイプの本も企画中です。
あとは、ちょっと趣味的なのですが、「粋(いき)がわかる100の物語」的な本を書きたいと思っています。今の若い皆さんは粋がどういうことなのかわからないという方が多いので、江戸っ子の私が粋の文化を伝承したいと思いまして。粋を語るのは野暮なのは承知の上で(笑)
───最後になりますが、ビジネス書作家を目指すメルマガ読者のみなさまに、メッセージをお願いします。
濱田:一冊のビジネス書を完成させるには、数多くのリアルなネタが必要です。私の経験では、読者から最も共感を得られるネタは、自分が一番つらかった頃の話です。
いま仕事でつらい思いをしていて、それを辛うじて乗り越えることができれば、最高のネタになります。いまのお仕事で奮闘することは、ビジネス書の作家としての大切な準備だと私は思います。
───濱田さん、ありがとうございました!
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