書籍づくりの現場ではどのような作業が行われているのか。実際に本を出版した著者と、その担当編集者のインタビューを公開します。企画の経緯から執筆・編集・デザイン・売り方まで、生の声をお届けします。
書籍:『「バブル女」という日本の資産 永遠の勝ち組'世代の消費を読む』(世界文化社)
「バブル女」という日本の資産 永遠の勝ち組’世代の消費を読む
世界文化社
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著者:牛窪 恵さん
世代・トレンド評論家。マーケティングライター。インフィニティ代表取締役。
1968年東京都生まれ。日本大学芸術学部卒業後、大手出版社勤務を経て、2001年マーケティング会社インフィニティを設立。
2005年に「おひとりさま(マーケット)」が、2009年に「草食系(男子)」が新語・流行語大賞に最終ノミネート。
著書に『大人が知らない「さとり世代」の消費とホンネ』(PHP研究所)ほか、多数。テレビやラジオのコメンテーターとしても活躍中。
───牛窪さんは、世代・トレンド評論家、マーケティングライターとしてご活躍されていますよね。
牛窪恵さん(以下、敬称略):おかげさまで、講演やテレビ、ラジオなどのコメンテーター出演なども増えているのですが、本業は企業や一般の方々を取材して新聞や雑誌、または本に「おひとりさま」「草食系男子」などキーワードを立てて記事を書くのが仕事です。
───マーケティング会社も経営しておられますが、マーケティングとは?
牛窪:はい、多くはまず大手クライアント様のご依頼でスタッフと調査設計をし、グループインタビューやデプス(個別)インタビュー、定量調査などを行ないます。
そして最終的に新商品や新店舗の開発にともなうご提案までが業務内容です。
スタッフは、契約スタッフも合わせて40人ほど。毎日なんらかの調査に走り回っています。
───牛窪さんご自身もバブル世代ということですが、この世代の特徴は?
牛窪:バブル世代には「新人類(現50~55歳)」「真性バブル世代(44~49歳)」の2世代があり、私は後者の真性バブルです。
青春時代の80年代後半~90年代半ば、日本は超右肩上がりのバブルに湧き、「24時間戦えますか」の流行語にあるとおり、朝から晩までバリバリ働かされました。
今思えば異常な時代でしたが、でも人々の心に「頑張ればいいことがある」との思いや「遊び(のりしろ)」があった。
同時に、トレンディドラマに代表される「恋愛至上主義」の時代で、デートスポットが全盛を極めました。
───なぜ彼女たちが、日本の資産となるとお考えになったのでしょうか?
牛窪:1つは世間的に「男は女におごるべき」との概念があり、男性に投資してもらえた世代だから。
「アッシー、メッシー、ミツグ君」がクルマで湾岸のレストランに連れて行ったり、ティファニーやカルティエのリングをプレゼントしてくれたりした時代です。
もう1つは、会社が経費で社員を料亭やホテルで食事させたり、ボーナスを潤沢に出すなど余裕があったから。
だからこそ、海外旅行やグルメ、ワインといった「本物体験」を重ねることができた女性も大勢います。
私はそこまでいい思いをしていませんが(笑)、会社からもカレからも少なからず投資を得たのが、バブル女性なんです。
───つまり、その「本物体験」こそが、資産だと?
牛窪:はい。
美味しいお酒やいいクルマ、オシャレなスポットなど「お金を使えばいい体験ができる」と知った世代。だから今も、消費に抵抗がありません。
また、自身でも「ケイコとマナブ」の第一世代として習い事に精を出し上昇志向を高めました。
ゆえにアラフィフ年齢になったいまも(私自身も含めて)、「私はイケてる」「もっとキレイになれる」など、根拠なき自信を持ち続けている。そのために、積極的に消費もします。
彼女たちは日本を支える大事な資産なのだから、「イタイ」と揶揄するより気持ちよくさせて「リターン(配当支出)」をもらいましょうよ、と言いたかったのです。
───本書は、約80名のバブル世代の女性を取材されただけあって、男社会や世間体、良妻賢母でいなければという呪縛、内なる敵と闘ってきた彼女たちのリアルな姿を知ることができました。
牛窪:ありがとうございます。
昨秋発刊の女性誌「GOLD」(世界文化社)の立ち上げに関わったこともあり、約80人のバブル女性に取材したのですが、どの女性も驚くほどパワフルでドラマチックな人生を送っていました。
ただ驚いたのは、私より少しお姉さんな「新人類」の女性たちが、私たち以上に「男女不平等」に苦しんでいたことです。
1986年に施行された男女雇用機会均等法も、まだ当時は浸透する企業が非常に少なく、男性並みに働けば「女のクセに」とののしられる。
私もそうでしたが、当時のOLは当たり前のように、何十人分ものお茶汲みやコピー取りをさせられ、20代後半で「結婚しないの?」「まだいたの?」と肩叩きに合うのも常でした。
───「はじめに」に出てくるDINKSのユウコさん(50歳)は、強烈でしたね。
牛窪:ええ。
彼女は開口一番「毎日、4階の会社の窓から飛び降りようと思っていた」と言いました。
有名大学を出て大手企業に就職、仕事への希望に燃えていたのに、来る日も来る日も一人で100人分のお茶を淹れさせられてばかり。
飛び降りることで、会社にではなく「日本」に対して「女性をいつまでこんなに冷遇するの?」と抗議したかった、というのです。
でも彼女は転職を重ねながら、今も働き続けています。
先輩たちの壮絶なパワーと女性が働く道筋をつけて下さったことに、改めて感動と感謝でいっぱいです。
───本書執筆にあたり、内容の構成や文章の書き方など、何か苦労されたことはありますか?
その際、編集者やエージェントからはどんなアドバイスがありましたか?
牛窪:今回、離婚や不妊、あるいはアラフィフ年齢からの恋愛など、かなり踏み込んだお話にもふれています。
なのでリアルなエピソードを保ちつつも、人物を特定されないように気をつけました。
また取材段階では、高級ブランドやホテル、外車メーカーや老舗百貨店など、バブル女性を狙う有力企業にもセンシティブなお話を伺ったので、そのアポ~取材、執筆、校正までが少し大変でした。
でも編集者やエージェントの方々が、そうした細々したことのフォローをしてくださいました。
なにより、私が「どうしても」とお願いしたデザイナーさん(マルプデザイン)に交渉して、素晴らしいカバーを創り上げてくださいました。
───本書はどのような方に読んでほしいと思われますか?
牛窪:もちろん当のバブル女性の皆さまや、彼女たちをターゲットと考える企業の方々にはぜひ読んで頂きたいですが、もう一つ、ぜひ「下の世代」の男女にもお読み頂けると嬉しいです。
なぜバブル女性たちが、今も根拠なき自信を持ち続けているのか。
また、涼しい顔をしたセレブ妻や髪を振り乱して働くバリキャリの先輩も、実は陰でこれほど失敗と挫折を繰り返しながら、でも踏まれても転んでも立ち上がってきた。
若い世代から「人間、元気さえあれば何度でもやり直せるんだ、と感じて勇気が出た」「胸が熱くなった」というお声も、たくさん頂戴しました。
自分で言うのもナンですが、読むだけで元気になれる本だと思います(笑)。
───本書の発売後、周囲やネット上などで、どんな反響がありましたか?
印象に残る感想や意見などがありましたら、教えてください。
牛窪:今回、バブル世代の流行年表やヒット商品、ユーミンやサザンといったヒット曲も数多く登場するので、やはりバブル世代の女性から「当時が懐かしくなった」「あのとき結婚しておけばよかった」、あるいは「私のことを言われてるのかと思った」「周りにもこんな女性、いるいる!」など、本当に多くの声を頂きました。
また、日経新聞や朝日新聞、あるいは「AERA」(朝日新聞出版)、「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社)やNHK等のテレビ番組など、マスコミでも大きく取り上げて頂いたほか、企業の方からも「商品開発のバイブルにします」など嬉しいお声が寄せられ、感謝、感謝です。
───牛窪さんは、これまで多くのご著書を出版されていますが、原稿内容を多くの方に理解していただくために、ご執筆の際に注意していること、気をつけていることはありますか?
牛窪:男女の幸せと苦悩、成功と挫折、その「両面」をキチンと描くこと。
そしてそれを概念ではなく「マーケット」の必然性から語ること、でしょうか。
私は哲学者やジェンダー論を語る大学教授ではなく、マーケッターでありマーケティングライターです。
「おひとりさまマーケット」を書いた時もそうでしたが、私が「女が結婚しなくて何が悪い!」と声高に叫んでも、それは単なる「感想」でしかない。
でも、経済や市場の観点から、「彼女たちを狙わなければ、マーケットは縮小する一方ですよ」と、マーケッター目線で言うことには意義がある。
そのために、人物取材だけでなく企業取材も相当数、盛り込んでいます。
───企画のテーマを考えるうえで、どんなことをヒントにされていますか?
また、次回はどんなテーマについて執筆したいと思われていますか?
牛窪:マーケットの観点から描くのが常なので、「団塊世代が定年を迎える」とか「バブル女性がそろそろ子育てから手が離れる」とか、そろそろ大きなマーケットの動きがありそうだぞ、という頃を見越して、2~3年前から取材に入ることが多いです。
でも私のなかでは「日本を元気にしたい!」との思いがものすごく強いので、次はぜひ、私が「熟メン」と呼ぶアラフィフ男性をテーマにした本を書きたいと思っています。
今の時代、女性は放っておいても元気なんですが、男性は本当にナイーブで、彼らにぜひ活力を取り戻して欲しいので!
───本作りにエージェントが関わるメリットにはどんなことがあると思われますか?
牛窪:一般の方々の場合は、出版社に企画を持ち込む段階からお手伝い頂けるメリットが、非常に大きいと思います。
私の場合は、企画や執筆、編集段階は「自分でやりたい人」なので(笑)、その後の契約面(部数の交渉ほか)をお任せしたり、出版後の書店さま廻り、書店イベントなどでお世話になっています。
特に書店さまとはこれまで、直接お会いしてお話できる機会がとても少なかったので、あらためて現場のお声が聞けて本当に嬉しいです。
───最後になりますが、ビジネス書作家を目指すメルマガ読者のみなさまに、メッセージをお願いします。
牛窪:大学生の4割が「本を読まない」と言われる時代ですが、それでも本は人の心を動かし、ムーブメントを起こし、社会を変えるチカラが確実にあります。
皆さまが「このことは、もう誰でも知ってるだろう」と思っていることも、実は意外に世間の方々には新鮮で、驚きや感動を与えることもある。
私が「おひとりさまマーケット」や「草食系男子」の本を書いたときもそうでした。
ぜひ「本を書いてみたい」という意欲がおありなら、ダメ元で知り合いの出版社さんやエージェントにご相談してみてください。
───牛窪さん、ありがとうございました!
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