書籍づくりの現場ではどのような作業が行われているのか。実際に本を出版した著者と、その担当編集者のインタビューを公開します。企画の経緯から執筆・編集・デザイン・売り方まで、生の声をお届けします。
書籍:『可能性〈ジーニアス〉を見つけよう』(講談社)
可能性(ジーニアス)を見つけよう 世界のエリートから学ぶ自分の枠を突破する勇気
講談社
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編集者:唐沢 暁久さん(講談社)
───本書の著書である石角友愛さんは、ハーバードビジネススクール卒業後、シリコンバレーで起業されるなど、グローバルで活躍されています。
あらためて、編集者からみたビジネス書作家としての石角さんの魅力を教えてください。
唐沢暁久さん(以下、敬称略):石角さんには、本気でクロスボーダーに働こうとしている人しか持っていないリアリティがあります。
この本気度の高さが最大の魅力です。
日本人離れした自由な発想には突破力の強さを感じます。
───タイトルにある「可能性〈ジーニアス〉」とはどんなものか、簡単にご説明ください。
また、このようなタイトルになった経緯や意図についても教えてください。
唐沢:「ジーニアス」という言葉から、人は普通、アインシュタインやジョブズのような「天才」をイメージします。
人間にはジーニアスを持つ人と持たざる人の二通りがいるという認識が一般的だと思います。
しかし石角さんが学んだハーバードビジネススクールでは、「ジーニアスは誰もが持っている」と教えるといいます。
だから、「あなたのジーニアスは何?」と学生に呼びかける。
この教えで石角さんは人生を切り開いたそうです。
タイトルはここから取りましたが、この含意での「ジーニアス」をあえて日本語にすると「可能性」ではないかと考え、今のようなタイトルにしました。
実はこのハーバードの教えのエピソードは、石角さんの前作『ハーバードとグーグルが教えてくれた人生を変える35のルール』(ソフトバンククリエイティブ)にも書かれていて、私はそれに感銘を受けて、石角さんの本を作りたいと思ったのでした。
───本書の第1章では、ジーニアスの見つけ方として“石角流セルフアセスメント・テスト”が紹介されていました。
簡単なテストで自身のジーニアスの傾向が見えてくるというものですが、唐沢さんは16個のなかでどのタイプでしたか?
また、その診断でどんな発見がありましたか?
唐沢:私の診断結果は「INTP」でした。
「思想家タイプ」です。
それぞれのタイプについて説明があるので、詳しくは本書を読んでいただければと思いますが、残念ながら私の場合は、「人から理解されるのに時間がかかる」という部分が見事に当てはまりました(苦笑)。
また、人とつながることに関心がない個人主義者であるという診断ですから、本当はサラリーマンにも向いていないのでしょう。
ただし「複雑な理論をわかりやすくする能力が優れている」という指摘は、書籍編集者という職業を選択したこと自体は間違いではなかったと思わせてくれました。
欠点が多い私でも「ジーニアス」は持っているのだというのが発見です。
───グローバルに活躍するために必要な語学力以外のスキルが多く紹介されていました。
石角さんは、まずはリベラルアーツを学ぶことが大切だとおっしゃっていましたが、唐沢さんにとって「これも!?」という意外なスキルはありましたか?
唐沢:石角さんは、まずスキルをソフトスキルとハードスキルの2つに分け、ソフトスキルを「オプティミスト」「オンゴーイング・ラーニング」「オーガナイズド」「オープンマインド」「オーナーシップ」の頭文字を取った「5つのO」にまとめています。
スキルとして意外でもあり、今の自分に足りないなとも思ったのは、「オーナーシップ」、つまり「私がこのプロジェクトを動かしているという意識」でした。
結果が出なくても会社のせいや環境のせいにしない、すべて自分の責任。
その分言い訳できないけれど、自分が仕事の「所有者」になったほうが面白い。
「この程度できていればいいか」と慢心することがないから成長できるのでしょうね。
石角さんがグーグル本社で働いていたときは、しょっちゅう「自分のドッグフードは自分で食べろ」と言われたそうです。
「自分の責任で製品化できるまで検証する」という精神。
クロスボーダーに働くとは、会社の社員としての自分よりも、一人のプロとしての自分を大切にすることなのでしょう。
───本書の制作にあたって、何か苦労されたことはありますか?
また、著者の石角さんに、執筆前や執筆中にアドバイスされたことがあれば教えてください。
唐沢:石角さんはシリコンバレー在住なので、帰国したとき以外の打ち合わせはメールです。
やりとりの中心は、コンテンツの一貫性をきちんと作ることでした。
非常にロジカルな全体構成になったと思っています。
───本書はどのような方に読んでもらいたいと思われますか?
唐沢:想定読者は、「リアルに海外で働く・働きたい女性」です。
日本で働くか、海外で働くか、という選択ではなく、自分の「ジーニアス」にぴったり合う仕事、自分にとって本当に価値があり意味がある仕事が海外にあるなら(日本にないなら)、そのために迷わず海外で働く時代。
リンダ・グラットンも『ワークシフト』(プレジデント社)で描き出したこのような働き方は、これからの日本でも当たり前になるのだと私は思います。
その時代の変化を敏感にとらえている若い女性に、ぜひ読んでいただきたいと思います。
───本書のカバーデザインは、手のひらにリンゴという写真が印象的でした。
このカバーデザインや販促方法などは、どのような工夫をされたのでしょうか?
唐沢:石角さんの既刊2冊は文字中心のカバーデザインだったので、今回はその路線を変え、写真中心にして、ビジネス・セルフヘルプの本であることを読者に強く訴えようと考えました。
写真自体は装幀家の井上新八さんの提案です。
井上さんの装幀は、書店さんの店頭で戦っていけるデザインだと私は考えていて、その力をお借りしました。
───普段企画を考える際、どんなことを大事にされていますか?
また、今後手がけてみたいテーマがあれば、教えてください。
唐沢:どんな編集者も同じだと思いますが、“誰の何を解決するか”が企画を考える際の中心です。
今後のテーマについては秘密なので(笑)、ものすごく曖昧に言うと、石角さんの企画同様、クロスボーダーなところに興味を持っています。
今回のサッカーのワールドカップにおける日本代表と本当に強い国の戦い方の違いを見ても、いろいろなことがわかりますよね。
その前に自分が、居酒屋で飲んでばかりいないで、もっとクロスボーダーな人間にならないといけないのですが。
───「一緒に本をつくってみたい」と思う著者はどんな人物ですか?
逆に、「こんな著者とは一緒につくりたくない」と思うのは、どんな人物ですか?
唐沢:石角さんのように出し惜しみしない人です。
とくにビジネス書ではマーケティング思考に長けた著者がいて、あれこれ戦略を考える人もいるのですが、まずはありったけのものを出してほしいと思います。
───最後になりますが、ビジネス書作家を目指すメルマガ読者のみなさまに、メッセージをお願いします。
唐沢:以上をまとめると、石角さんの魅力は「本気度の高さ」「突破力の強さ」「出し惜しみしない」の3つになるわけですが、それを皆さんも指針にしてほしいと思っています。
誰でもビジネス書作家になれるなどと甘いことは言えませんし、地道な勉強も必要ですが、この3つがない人よりも、ある人のほうが、チャンスをものにする確率が高いはずです。
───唐沢さん、ありがとうございました!
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