パソコンかたかた。
真夜中にお仕事を加速させるひと。
わたしはベッドに横たわりながら彼女の背中を眺めていた。
彼女はフランス語を日本語に変換しては、軽快な早さで打ち込んでゆく。
かたかた…かたかた……と。
時折、それに混じるフランス語の囁き。
わたしは気分が悪くて、起き上がることが出来ないのだけれど、こうして耳を傾けていると気持ちが和らいでゆく。
フランス語って子守唄みたい。微睡みと陶酔を含んでいる。
わたしが目覚めたことに気がついた彼女は、何も言わずに、目の前の床にそっと、ラナンキュラスを置いてくれた。
お気に入りのシャガールの絵を背景にして。
淡い淡い橙色
ろうそくの灯りみたい。
柔らかな羽のような花びらは幾重にも重なって、気分もほどけてゆく…
視覚的に美しいものを見ることが、癒しになるっていうことを、知っているひとなんだ。
ラナンキュラス越しに照らされる夜の静けさは美しくて、いつまでもいつまでも眺めていたかった。