書籍づくりの現場ではどのような作業が行われているのか。実際に本を出版した著者と、その担当編集者のインタビューを公開します。企画の経緯から執筆・編集・デザイン・売り方まで、生の声をお届けします。
書籍:問題解決に効く「行為のデザイン」思考法
CCCメディアハウス
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「行為のデザイン」とは、プロダクトやサービスを利用する人の行動に着目し、改善点を見つけて、より美しく、使いやすくする手法のこと。デザイナーだけでなく、商品開発に関わる開発者、技術職、営業職など、それぞれの専門知識やアイデアを発掘、共有することで、開発スピードを上げ、画期的なサービスやプロダクトを生み出すことができます。
グッドデザイン賞をはじめ国内外で多数の受賞歴をもつ著者が、10年にわたり試行錯誤を重ねてきた成果をご紹介します。
著者:村田智明(ムラタ チアキ)さん
1959年、鳥取県生まれ。大阪市立大学工学部応用物理学科卒業後、三洋電機のデザインセンター入社。86年に『株式会社ハーズ実験デザイン研究所』を設立。自身で立ち上げたブランド『METAPHYS(メタフィス)』のプロダクトは、グッドデザイン賞特別賞をはじめ、国内外で50点以上を受賞。現在は、デザイナー、プロデューサーとして活躍するほか、京都造形芸術大学教授、大学院SDI所長を務める。ユーザー心理行動分析法による商品開発メソッド「行為のデザイン」を指導するワークショップは、多くの企業や行政地域振興施策にも導入されている。著書に『ソーシャルデザインの教科書』(生産性出版)。
───村田さんはプロダクトデザイナーとして、これまでオムロンの初代「スポットアーム」や、マイクロソフトの「Xbox360」などを手がけられ、ご自身でも「METAPHYS(メタフィス)」というブランドを立ち上げています。
そんななか、本書タイトルにあります「行為のデザイン」を指導するワークショップにも注力されていらっしゃいますが、このワークショップを始められたのは、なぜでしょうか?
村田智明さん(以下、敬称略):かつてデザインの通常業務のほとんどは、仕事を依頼される時点で企画や仕様が決まっていて、その外観や色を決めるだけの仕事が大半でした。しかも、できるだけ安く、たくさん売れるデザインをしてほしいというのです。
でも、よく考えると、その企画や仕様では上手くいかず、事業目的も達成できないという状況が予測できる場合も少なくありません。そして、その事実に薄々気づいていながらも、「これはもう社内で決まっていることだから……」と言いわけし、泥沼に入り込む企業がどれだけ多いことか。
本来、デザインは企業都合のウィークポイントを補うものではありません。事業戦略など上流部分から関わることで、問題の根幹を解決し、ビジネスを成功に導く事ができるもの。そういったデザイン思考の経営戦略に気づいてほしいと考え、企業向けにワークショップを始めました。
本書を執筆するに至ったのも、こうした想いからです。
───では、あらためて「行為のデザイン」思考法とは何か、教えていただけますか?
村田:色、形の部分的なデザインだけではなく、事業全体を俯瞰するようなグランドデザインを問うとき、プランやリサーチも今までの方法ではいけません。
では、どういった方法で事業を成功に導くグランドデザインを生み出すべきなのでしょうか。
その方法論は、その事業に関わる全ての関係者(ステークホルダー)と、その人たちが遭遇するかもしれないシーンを設定し、その条件下で繰り広げる行為を時間軸で追うことから始めます。(デザイナーだけでなく、製造現場の方や販売店、設計者、経営者も参加が必要です。)
そうして行為を時間軸で追っていくと、日常あたりまえで気にも留めないような、さまざまな問題(バグ)が見えてきます。本書で詳しく解説していますが、人の行為を止めてしまう迷いや矛盾など、8つに分類されるバグを解決することで、大きなグランドデザインを描くことができ、一過性の消費行動に終わらない事業企画ができる。これが「行為のデザイン」という思考法なのです。
───本書は一見、デザインのノウハウ本かと思いきや、「行為のデザイン」という思考法について丁寧に書かれており、「行為のデザイン」を知れば知るほど、モノ・サービスを提供する会社なら、どんな職種の人でも有効な考え方、発想だと思いました。
あらためて、村田さんは本書をどのような人に読んでほしいと思われますか?
村田:デザイン業界にいる人だけでなく、商品開発、ビジネス開発、地域創生、社会課題の解決に携わる方などにも読んでいただきたいです。
今や「デザイン」というツールは、デザイナーだけのモノではなく、広く一般的に使えるツールとして啓蒙する段階に入ってきていて、そういったことを「デザイン思考」として語る書籍も数多くあります。しかし、デザイン業界の外にいる人にそれを伝えるには、デザイン界からみた目線では、言語が伝わりません。
本書はそこを腐心したことで、アマゾンの「商品開発」部門の売れ筋ランキングで、発売以来1位を続けられているのだと自負しております。「形や色だけでなく、行為を時間軸で観ること」は、デザイナーでなくてもできるスキルなので、一般の方々に普及可能な思考法だと思っています。
───第2章では、「行為のデザイン」思考法として、誰か(ユーザーなど)になりきって想像力を働かせると、エレベーターの開閉ボタンや、観光名所の案内表示など、さまざまなバグ(使いづらい・不便)に気づくという実例が紹介されており、非常に興味深かったです。
村田さんが最近気づかれた「バグ」を一つ教えていただけますか?
村田:お店に入店するお客さんが戸を開けっ放しにしてしまう行為は、寒い冬では気になるバグです。
最近では、引き戸は開けるときに適度の負荷がかかるのとは引き換えに、閉めるための力が要らず、自動的に閉まるものが多くなりました。その経験が多くなればなるほど、自動かそうでないかの意識もしなくなり、つい閉め忘れを起こさせてしまうのです。お風呂の浴室への引き戸などではよくある話ですね。
───書籍執筆にあたり何か苦労されたことはありますか?
その際、編集者やエージェントからはどんなアドバイスがありましたか?
村田:「誰が読むのか」という当たり前のことに、ずいぶんと気付きを与えていただきました。本書を執筆する過程では、私が尊敬するデザイン界の諸先輩たちが出されている著作物にできるだけ近づこうと考えていた時期もあったんです。しかし、エージェントや編集さんからは、デザイン界にいる人向けではなく、むしろデザイン界にいない人だからこそできることを書くべきだと。それが、デザインという不可解なモノのわかりやすい解明であり、普及であるとアドバイスいただき、方向性が決まりましたね。
結果、本書はデザイン思考書をはるかに超える販売部数を達成できました。
これは、デザイン界だけでなく、デザイン思考を活用されようとしている多くの方々=本当に読んでいただきたかった方々に、想いが伝わったことを意味しているのだと思います。
───類書と差別化するため、こだわった点や工夫された点がございましたら教えてください。
村田:デザイン思考書を純粋なデザイナーが書くと、それは一般的に通じない言語で詳しく語るようなものかもしれません。本書では、誰が読むのかを想定するところから言語をそろえ、実質的な理解を得るにはどうするかを考えました。
「行為のデザイン・ワークショップ」の手法を公開したり、デザイナーの頭の中を図式化したのも、その工夫の現れです。
───本書の発売後、周囲やネット上などで、どんな反響がありましたか?
印象に残る感想や意見などがありましたら、教えてください。
村田:嬉しいことに、朝日新聞やNHKラジオなど、さまざまなメディアで取り上げていただいたり、多くの企業から講演依頼やワークショップの依頼がきたりと、反響はとても大きかったです。
───本作りにエージェントが関わることのメリットにはどのようなことがあると思われますか?
村田:エージェントは、著者の能力を上手く引き出し、最適な発信者(出版社)を選ぶことで、両者の満足度を高め、結果、多くの読者に影響を与えることができるのでしょう。
そのさじ加減は経験からくるもので、著者自身が動いてできることではなかったように思います。アップルシードさんに舵取りをしていただき、まさに大船に乗った安心感がありましたね。
───村田さん、お忙しいなかありがとうございました!
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