書籍づくりの現場ではどのような作業が行われているのか。実際に本を出版した著者と、その担当編集者のインタビューを公開します。企画の経緯から執筆・編集・デザイン・売り方まで、生の声をお届けします。
書籍:本物の知性を磨く 社会人のリベラルアーツ
祥伝社
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すべてのビジネスパーソン必読!「文化のコア」を知り日本と世界を理解するための、仕事に効く「大人の教養」集中講義。「奴隷的生き方」から脱する武器を手に入れるため、さぁ限りない「知の探訪」へ出よう。
著者:麻生川静男(あそがわ・しずお)さん
1955年、大阪府生まれ。京都大学工学部卒、同大学院工学研究科修了、徳島大学工学研究科後期博士課程修了。博士(工学)。80年、住友重機械工業に入社。在学中にドイツへ、また在職中にアメリカ・カーネギーメロン大学への留学を経験。2000年に独立し京都大学准教授などを経て、現在はリベラルアーツ研究家として、講演や企業研修を行う。10年に「リベラルアーツ教育によるグローバルリーダー育成フォーラム」を設立、運営。著書に『本当に残酷な中国史 大著「資治通鑑」を読み解く』(角川SSC新書)など。
著者ブログ『限りなき知の探訪』
───麻生川さんがリベラルアーツに邁進されるきっかけになったのは、京都大学大学院在学中に、ドイツのミュンヘン工科大学に留学されたことがきっかけだそうですね。
ドイツでどのような経験をされたのでしょうか?
麻生川静男さん(以下、敬称略):一番印象に残っているのは2点あります。まず、ドイツの人々が、幼稚園の子どもから大人に至るまで、自由に自己主張していることです。横で聞いていると、あたかも喧嘩でもしているように聞こえますが、それが本当の意味で「議論をする」ことだとわかりました。
一面、このような強烈な個性を持った人々が国としてまとまっているのを、不思議に感じました。
もう一つは、ヨーロッパ各国を旅行しましたが、どこの国・地域でも裕福な生活をしていたことです。GDPのような経済指標では日本より劣っていた国々(イタリア、ギリシャ、東欧)でも、人々の暮らしぶりは、当時、世界第二位の産業国であった日本とは比較のならないぐらい豊かでした。
これら2点だけでなく、さまざまな点で、教科書や授業では触れられていなかった「ヨーロッパ社会の根源(コア)は何か」を知りたいと思ったのが、そもそものきっかけです。
───本書のタイトルは「本物の知性を磨く 社会人のリベラルアーツ」ですが、あらためて社会人がリベラルアーツを学ぶ必要性について、お教えいただけますか?
麻生川:仕事をしていると、遅かれ早かれいずれ自分の生き方を悩むことになります。
きっかけは、仕事上の問題であったり、会社の方針に対する不服など、いろいろですが、結局のところ、充実した人生を送りたいという願望が根っこにあるからです。このような悩みを素通りすることのできる人もいれば、解決にこだわる人もいます。
解決にこだわるとは、一時しのぎ的に経営書を読んだり、何かの資格を取ることで満足することではありません。もっと大きな視点に立って、自分だけでなく、過去数千年の歴史にわたる人間の生きざまや人間社会の仕組みについて、自分が納得するものを得たいという願望です。
リベラルアーツとは本来、こういった悩みを解決する基盤を提供するものですが、従来の哲学書や宗教書には陳腐な学説や教義が羅列されているだけで、解決にはなりません。また、巷でいう教養書やリベラルアーツ関連の書物も残念ながら同じです。そこで私は本書を執筆しました。
ただ、厳しい言い方になりますが、リベラルアーツは社会人の中で意識の高い人々が学ぶべきものです。なぜなら、長年にわたり自分の自由時間を読書や思索に割く必要があるからです。
しかし意識の高い人であれば、知らないがために自分自身が惨めに思える機会にしばしば遭遇することでしょう。その点を一番痛感するのが、世界に出た時です。世界に出ると、人間として、また日本人としての考えが問われます。
その時に政治家や権威者、あるいは新聞や世間の常識に安直によりかかるのではなく、自分で考え自分で納得してから発言し、行動する。これがグローバル社会における一人前の社会人です。世界各国の文化を自分なりに解釈した知識(文化のコア)と判断力、言いかえれば、確固たる人生観と世界観を築くことがリベラルアーツの究極の目的です。
───リベラルアーツを学びたいと思っても、何から手をつけてよいのかわからない人は多いと思います。
本書では、歴史や語学、技術、科学など、さまざまな事例を通じて世界各国の文化のコアの掴み方をご教示されていますが、リベラルアーツ初学の場合、何から手をつければよいでしょうか?
麻生川:先ごろの9.11事件や最近のIS(イスラム国)の行動から分かるように「世界には日本人の想像を絶する行動をする人々が多くいる」のです。これは何もイスラム教徒に限ったわけではありません。
まず、そういった日本人の常識が全く通用しない「ぶっ飛んだ世界」を、本を通して仮想体験してみてはいかがでしょう?
「おぞましい、怖い、酷い」などの感情がわき起こるでしょうが、「なぜ、このようなことが起こるのか?」という原因を探究することが、結局は「文化のコアをつかむ」というリベラルアーツそのものなのです。
以下に、推薦図書を挙げておきましたので、ぜひ参考にしてください。
・『カナダ=エスキモー』(著・本多勝一/朝日新聞出版)
・『朝鮮紀行』 (著・イザベラ・バード(訳・時岡敬子)/講談社)
・『ペルシア放浪記』 (著・A・ヴァーンベーリ(訳・小林高四郎、他)/平凡社)
・『本当に残酷な中国史 大著「資治通鑑」を読み解く』(自著/角川SSC新書)
───本書はどのような方に読んでほしいと思われますか?
麻生川:年代的には20~40代までの現役の社会人ですが、もちろん学生もウェルカムです。「リベラルアーツを学ぶ必要性」でも述べたように、一人の人間として、自分の生き方を真剣に考えたい人におすすめです。
また、ビジネス上で、海外との付き合いのある人たちにはぜひとも読んでいただきたいですね。
例えば、海外に駐在して、日本のことがらについての説明に戸惑っている人。逆に、現地人の行動が納得できない人。そういった文化差を身近に感じて、その根源的な理由を知りたいと熱望する人たちにおすすめです。
この本に、回答の全てがあるわけではありませんが、回答のヒントは見つかるはずです。
告白しますと、この本は“Back to the Future”の本なのです。というのは、この本を書いている時に私が語りかけていた読者は、40年前の学生時代の私自身でした。学生の頃、こういう本に巡り合いたかったなあ、という思いをこめて書きました。
しかし、当時の私がこの本を読んだとしても、多分、全部は理解できなかっただろうし、納得できない部分もあっただろうと思います。
ただ、あたかもドローンで空中撮影したような知的世界の壮大なパノラマ像は心に残ったでしょう。その意味では、これを読んだから明日からすぐに役に立つ、という即効性はないものの、暗闇のなかで遠くにちらつく灯台のように、進むべき方向性を示してくれる本だと思います。
───執筆の際、リベラルアーツ関連の類書と差別化するため、こだわった点や工夫された点がございましたら教えてください。
麻生川:類書では説明が平板で、抽象単語の羅列が多いですが、本書には、エピソードや具体例を多くの図書から引用しています。このようにすることで、地の文でわからない点は、引用文でわかるようにしました。また、コラムもかなり入れて、息抜きに楽しめるよう配慮しました。
───本書の発売後、周囲やネット上などで、どんな反響がありましたか?印象に残る感想や意見などがありましたら、教えてください。
麻生川:ベストセラーのビジネス書を何冊も書かれている奥野宣之さんに「難解なようでシンプルな『まさに啓蒙書』。強い酒のような1冊」とWEB『日経Bizアカデミー』で評していただきました。さらに、奥野さんが個人的に「オリジナリティがあり、ぜんぶ自分で考えている本」だと感想を述べられていたことを、人づてに聞きました。
まさに奥野さんの感想通り、始めから終わりまで自論で通していますが、この点を的確に指摘されたことは、とてもうれしく響きます。
───本作りにエージェントが関わることのメリットにはどのようなことがあると思われますか?
麻生川:細かい文章の点ではなく、トピックや出版社の選択、本の売り方など、大枠のところでいつも適切な指摘をしてくれる点に感謝しています。
───最後になりますが、著者デビューを目指す読者のみなさまにメッセージをお願いします。
麻生川:『論語』に「自分を認めてくれないといって腐るな。認めてもらえるような実績をつくれ」(不患莫己知、求為可知也)という言葉があります。
数年たつと忘れ去られるような本は、いくらたくさん書いても意味がありません。充電しないで放電ばかりしている著者になってもむなしいだけです。時間と努力を無駄な方面に浪費しないで、まずは、はちきれるばかりに充電してみてはいかがでしょうか?
───麻生川さん、ありがとうございました!
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