書籍づくりの現場ではどのような作業が行われているのか。実際に本を出版した著者と、その担当編集者のインタビューを公開します。企画の経緯から執筆・編集・デザイン・売り方まで、生の声をお届けします。
書籍:算法勝負! 「江戸の数学」に挑戦
算法勝負!「江戸の数学」に挑戦 どこまで解ける?「算額」28題 (ブルーバックス)
講談社
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江戸時代の人々は、数学の問題を絵馬に記した「算額」を神社仏閣に掲げ、公開で算法勝負をして楽しんでいました。上は大名をはじめとする武士から、下は農民、町民といった庶民まで、身分の上下を超えて数学ファンがこぞって熱中、世界でもまれに見る独自の数学文化を花開かせていたのです。
本書では、江戸時代の算額問題から選りすぐりのものを出題。現代人が江戸人に挑戦したらどうなる!?いざ、勝負!!
著者:山根 誠司(やまね・せいじ)さん
1963年鳥取県生まれ。作家。科学ライター。東京大学工学部電子工学科卒。
住友電工、東京大学先端科学研究所を経て文筆業へ。歴史と科学の関わりを、独自の視点から分析・研究。特に江戸から明治にかけての数学・科学技術の変遷に造詣が深い。趣味はサッカー観戦と算額の問題を解くこと。
共著に、『不思議な体の雑学読本』(王様文庫)、『フットボーラ―の家族の肖像』(カンゼン)など多数。
───山根さんは大学を卒業して就職された後、大学の研究所に移られ、現在は作家・科学ライターとしてご活躍されています。
あらためて、山根さんが現職に就かれたきっかけを教えてください。
山根誠司さん(以下、敬称略):きっかけは、友人が編集者を紹介してくれたことでした。知り合いと共同で執筆を始めて、雑学関係の本をいくつか出したのですが、その都度、興味のある分野を中心に活動範囲を広げていった感じですね。
現在この仕事をやっているのは、自分でも不思議な気がします。気がついたら今の状況になっていたというのが、正直なところです。ただ、自分でもサラリーマン生活は向いていないなと思います。決められた時間に机に向かって、決められた仕事をするというのが時間の無駄に思えてしまうんですね。「もっと有効な時間の使い道があるだろう」とつい考えてしまいます。
また、「付き合う人をこちらから選べない」というのも耐えられない感じがします。自分の人生は、できるだけ自分の好きな人たちと過ごしたいと考えてしまうので。
───本書は山根さんの「江戸と現代を繋げられないか」という想いから生まれたそうですね。あらためて、本書を執筆されようと思われた理由を教えていただけますか?
山根:端的に言えば、江戸時代は今より「まとも」だったのではないか、という思いです。もちろん、昔のことは良く見えるものだし、徒に「日本礼賛」をするつもりはありません。でも、自分の国の良い伝統は継承していくべきだろうと思います。
その際に、できるだけ妙な先入観や政治的な思想は入れたくなかったんですね。客観性を確保したかったんです。そういった意味で、算額は格好の素材でした。
───本書は、「算額」という江戸時代に神社仏閣に奉納された数学の絵馬が題材とし、そこに書かれている数学の問題が28個、出題されています。現代でいうと、出題されている「算額」のレベルはどの程度なのでしょうか。また、「算額」を楽しむコツを教えてください。
山根:今の高校のレベルのものが多いです。ただし、江戸末期には相当のレベルに達していました。面積・体積の計算は独自の発達を遂げていて、今の大学生でも苦労するんじゃないでしょうか。
言うまでもないことですが、江戸という時代背景を勘案することはとても大切です。海外から孤立し、情報の流通に大きな制約のあった時代の問題だ、ということです。数学のレベルも、全体的にはまだまだ低かった。現代の我々の方が圧倒的に有利な立場にあるのですが、それでもなお解けない(笑)。
───本書はどのような方に読んでほしいと思われますか?
山根:おもに若い人たちに読んでほしいですね。自分の国に少しでも誇りを持ってほしいなと。あと、数学嫌いの人にも。江戸時代の日本は、庶民レベルで数学大国だったということを知ってほしいですね。
───本書執筆にあたり、内容の構成や文章の書き方など、何か苦労されたことはありますか?
山根:膨大な問題の中から、どれを選ぶかに苦心しました。易しいものから順を追って、できるだけ系統立てて、と苦慮しました。また、数学の問題なのでミスが許されないというプレッシャーもありました。通常の本の3倍手間をかけました。図も自分で描いたので、かなり時間をとられました。
───本書の発売後、周囲やネット上などで、どんな反響がありましたか?印象に残る感想や意見などがありましたら、教えてください。
山根:知り合いの何人かから、「解いています」とメールがきました。その時不思議な感覚に襲われました。「現代人が、時空を超えて江戸時代の人と全く同じ問題を解いている」という感慨です。しかもいい歳をしたおじさんたちがその問題に苦戦している(笑)。その時「江戸と現代を繋ぐ」という目的の一端は果たせたんじゃないかと思いました。
───山根さんは原稿内容を多くの方に理解していただくために、執筆の際に注意していること、気をつけていることはありますか?
山根:「わかりやすく」ということです。世の中には、わかりにくい書物がかなり出回っているように思います。本質的に難解なことが「わかりにくく」なってしまうのは仕方がないと思います。
ところが、本来易しいことをわかりにくく書いてあるものが、相当数あるような気がします。なかには「書いている本人もわかっていないんじゃないか?」と思うものすらあります。そういったことのないように、でも本質から外れないように、ということはいつも気を付けています。
───山根さんは、今後どのような本をご執筆される予定ですか?
山根:江戸から明治にかけての学問史・技術史に興味があります。今まで理系の人物は脚光を浴びることがあまりなかったように思います。できれば小説の形で発表できればいいなと考えています。
───最後になりますが、著者デビューを目指す読者のみなさまに、メッセージをお願いします。
山根:ものを書き続けるということは、大変なことだと思います。最終的に書きたいものを手探りで探しあてていくしかありません。最初は、自分が何を書きたいのかが分からないかもしれません。続けていくうちに、次第に形になってくるもののような気がします。
そう言いながらも、人間は本質的には子供の頃からそう変わらないのではないでしょうか。結局は、子供の頃にぼんやりと考えていたことを、大人になってから再現しているように思います。
───山根さん、ありがとうございました!
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