酒と泪と女と女

孤独の闇に訪れる、痛い女というシャドウ

更新 :

真魚八重子さんの連載記事を読んだ。 

第9回 文化系女子、独身か、結婚か、――出産か | 青弓社

近年見たなかでも、いちばん見返したくない映画の筆頭が『ヤング≒アダルト』(ジェイソン・ライトマン監督、2011年)だった。すでに本作をごらんになった方なら、不安定なフリーライターがこの映画の主人公に言及するのが、いかに鏡で自分の醜悪さを映し凝視するようないたたまれない気分になるか、察していただけると思う。

『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』(サム・メンデス監督、2008年)は、まさに家庭に入ることが不向きだった女性の、折り合いのつかなさを直視した映画だ。

 

私もかつて、この二つの映画を観て何ともやりきれない思いをした一人。

 

この二人の主人公は、狂っている。

 

特に、メイビスに関しては常軌を逸している。

 

しかし、「ただの狂っている女の奇行」と流せないのは、

 

まさに、真魚さんが、

「1人の女の業が羞恥にまみれるのを、我が身のことのようにつらく感じずにいられない。あまりに深い孤独や不安定な精神状態のときに、過去の栄光や過去に愛した人、いま自分に優しくしてくれる異性に、依存しようとしたことのない人だけが、メイビスに石を投げる権利がある。」

と、冷静に分析されているように、主人公達は決して我々の「対岸の彼女」ではない。

 

現代女性は多様な生き方を選べる訳だが、その選択を迫られる時期が結構早いという事、そして、個人の社会的能力に関係なく、選択によっては人生がドラスティックに変わっていく事、などが男性とは未だ決定的に違う。

 

自分の選択を信じ、捨てた他の道を振り返らず、果敢に生きていけたらそれは幸せな事だ。

 

しかし現実は、自分が捨てた他の道を幸せに生きている女性達の姿ばかりが目につく。

 

特に、選択した道が上手く行かなくなったり、体調がすぐれなかったり、孤独にさいなまれたり、そんな「魔の時」に、ある女達は「痛い女」に変貌を遂げる。

 

痛い女の何が悪いと、思う人もいるだろう。

 

でも、周囲に迷惑をかけるだけじゃなく、その「痛み」は本人に何十倍にもなって帰ってくる。そして、痛い女は更に孤立し、もっと痛い結末へと自分を導いていくのだ。

 

そうやって遠いところへ行ってしまった女達を私はそれこそ何人も見てきた。

「女性の自己実現の困難さを思うとき、私はそれを奨めるのをためらう。」

と、言ったのはどこの男性教授だったか?

 

自己実現を願う全ての女性達のシャドウであり、付け入る隙を見せたら簡単に憑依するであろう「痛い女」

 

こじらせる前に、何とか自助努力で退散させたいものである。

 

それでは、どのような習慣が、私達を「痛い女」にするのを防ぐのだろうか?

①依存のポートフォリオを描く

依存は良くない事とされているが、何かに依存していない人などいない。

 

要は依存の対象と程度が問題なのだ。

 

お酒だけに依存すれば身体は悪くなるし、買い物に収入以上依存すれば経済が破たんする。

 

彼氏だけ、特定の友人だけも同じように対象者が悲鳴をあげるだろう。

 

仕事に、家族に、彼氏に、友人に、趣味に、美容に、お酒にと万遍無く、バランスよく依存するのだ。

 

特にエネルギーの強い女性は、依存ラインナップを増やした方がいい。本人は少しの依存のつもりでも、受ける側のキャパが小さい場合大きな負担になる。

 

バランスが解らない場合は、書き出してポートフォリオの作成をお勧めしたい。

②心に「大阪のおばちゃん」を飼う

「痛い女」は合理的な思考や客観視ができなくなって生まれ、自己中心的な思い込みを行動に移しはじめてデビューする。

 

それを止めるのは、心に住まう「大阪のおばちゃん」だ。

 

「あんた、いい歳してそんな仕事ばかりやっとったら、いき遅れるでー。」

 

「そんなちっさい男、やめときやめとき!見てみ!あんたに頼られて弱ってるがな。」

 

と、大阪のおばちゃんはいつでも現実を教えてくれる。

 

私の中にも「大阪のおばちゃん*パンチパーマ、65歳」は住んでいて、若かりし頃より数々の勘違いワールドから引き戻してもらった経験がある。

 

どこにも売ってないのが問題だが、是非心に「大阪のおばちゃん」を誕生させてほしい。

③客体からの脱却

痛い女は孤立で醸造される。

 

女性同士が立ち場やポジション、生き方のジャンルを超えて、本音で互いを理解し合えれば「痛い女」は減ると私は思っている。

 

しかし、これは男性社会の賜物というより女性誌の功罪だと思うのだが、女性達は分断している。

 

「あの人は美人だから。」「あの人は結婚向きだから。」「あの人はキャリア系で一人でも生きていけそうだから。」

 

男性が女性に対してしがちな評価を、女性達は完全に内面化してしまっているのだ。

 

それは、長い事「選ばれる性、愛される性」であった生物の知恵。

 

しかし、ここまで女性の生き方が多様化すると、あちこちの島(キャリアで独身の島、既婚で子ありの島、シングルマザーの島など)が、小分けにいっぱいできるだけであって、相互理解は深まらない。

 

もし、自分が、どの島にも所属ができそうもなかったら、自ら色々な島へ遊びに行くことができる「フリーパス」のポジションを取り、それぞれの島民に「主体」として話しかけてみて欲しい。ジャンルは違えど、「客体としての評価に振り回されるのはもうまっぴら。」という「主体で生きたい女」がどの島にも一定数存在する筈だ。

 

客体から脱却し、本音で結託できる女友達ができると、孤立や孤独から脱却ができる。

④ビッチ上等

痛い女は結構生真面目で、考え過ぎる傾向がある。

 

「今は仕事に打ち込まないといけない時期だから、」

とか、

「簡単に付きあうと、相手を勘違いさせてしまうので、よく考えてから、」

などと言って恋愛のチャンスを逃がす。

 

「今の自分にとって、少しでも必要だったとしたら、即買い。」

の姿勢で、働きながら、勉強しながら、自分の幸せ探しにも貪欲なのが望ましい。

 

本来女性はマルチタスクなので、仕事と恋愛の両立などお手の物の筈。

 

お相手を間違えてしまったとしても、誠実に謝ってさよならをすればいい。

 

また、そんなことで「あばずれ扱い」されたとしても、言いたい人には言わせておけばいい。ビッチ上等!である。

 

また、「幸せな女は他の女の幸せを心から祝福できる。」は、悲しいかな本当の事。

 

未来を見据え、本能を鍛え、自分にとっての幸せに敏感で俊敏な女性は、「痛い女」から遠い。

⑤愛とうっとりを生活に散りばめる

痛い女の周囲に一番迷惑をかけてしまうところは凶暴性である。

 

本来は自己責任である事柄も、周囲のせいにしたり、理不尽な攻撃をしかけたりする。

 

完全に女性ホルモンが乱れている状態である。

 

それを防ぐには、無条件に愛せる存在を作る事だ。恋人でも、夫でも、ペットでも子供でもいい。相手に触れるだけで母性や女性性が出てくるようなそんな存在が必要だ。また、部屋に花を飾ったり、好きな絵を飾ったり、爪を好きな色に塗ったり、好きなアーティストの音楽に酔ったり。。。生活の中にたくさんの「うっとり」を散りばめると、脳からの指令は攻撃性を失うらしい。痛い女にならない為にも、自分の「うっとりポイント」を知り、生活に組み込む事をお勧めしたい。

 

私は本来というか見たまんまというか、相当に独善的で支配的で、結果業が深い。

 

若い頃からそうだったので、自分がある日突然「痛い女」に豹変し、世間に迷惑をかけそうで本当に怖かった。正確に言えば、それなりに色々あった41年間で、何度もなりかけていたのだろうと思う。

 

それを辛うじて、ぎりぎりで引き戻してくれたのは、家族であり、友人であり、恋人だったと記憶している。

 

愛で狂いもすれば、愛で正気を保つのも女性性。

 

とかく女の人生は、禍々しくも面白い。

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川崎貴子

リントス株式会社代表。経営者歴21年。女性の裏と表を知り尽くし、フォローしてきた女性は1万人以上。「女のプロ」の異名を取る。プライベートではベンチャー経営者と結婚するも離婚。8歳年下のダンサーと2008年に再婚。12歳と5歳の娘を持つワーキングマザーでもある。著書に『私たちが仕事をやめてはいけない57の理由』(大和書房)、『愛は技術 何度失敗しても女は幸せになれる。』(ベストセラーズ)、『結婚したい女子のための ハンティング・レッスン』(総合法令出版)、二村ヒトシとの共著に『モテと非モテの境界線 AV監督と女社長の恋愛相談』(講談社)等がある。

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