今日は米国で話題を集めた、AirbnbとWaterstonesのソーシャルメディアマーケティングをご紹介します。
日本では予算の少ない中小企業が優れたアイデアを元に行う企画をゲリラマーケティングとも称しますが、それと同様の取り組みです。いわゆる予算を掛けずに多くのメディアから取材を集める手法です。
このエピソードをより深く理解いただくために、一つ事前のムーブメントをご紹介します。
#グレッグさんに休日をあげて
レックアメリカ社という企業が「#グレッグさんに休日をあげて」というツイッターのハッシュタグで一躍有名になり、投資ゼロで多くの報道をものにした話です。
これは、大手アルカディア社の警備員グレッグ氏が誤って全社に向けて休日申請をしてしまい、それに対する大量の返信メールの画像をツイッターに公開して、上記のタグが作られたことに端を発します。
トレックアメリカ社はグレッグ氏にラスベガスへの旅をプレゼントすることを上記のタグを付けてツイートし、全米で大きな話題を集めるムーブメントとなりました。
#ウォーターストーンのテキサス男
そして今回のエピソードは、テキサス州のある男性がウォーターストーン社の本屋に閉じ込められたとき、PRのチャンスに恵まれたウォーターストーンと、日本でもおなじみ宿泊地仲介業Airbnbが行ったアジャイルマーケティングになります。
ことの始まりは以下のデビッドさんのツイートでした。
Hi @Waterstones I’ve been locked inside of your Trafalgar Square bookstore for 2 hours now. Please let me out.— David Willis (@DWill_) 2014, 10月 16
意訳:デビッド「こんにちは@ウォーターストーンさん、トラファルガー広場の本屋に2時間ほど閉じ込められています。ここから出してください。」
彼がなぜ本屋に閉じ込められたのかが大いに気になりますが、今回注目すべきなのはそれに対する反応です。ウォーターストーンのツイッター活動時間は営業時間の9:00~17:30なので、最初はこの騒ぎを見逃していたのです。
特に何が悪いわけでもないのですが、それにしても何千ものリツイートや@でのリプライ、ウォーターストーン騒ぎのために作られたハッシュタグにも気付かないというのもおかしな話です。
Anyone know how long #waterstonestexan has been in there. Or how long air lasts in a closed bookshop? — Dan Hodges (@DPJHodges) 2014, 10月 16
意訳:ダン「誰か #ウォーターストーンのテキサス男 はどれくらいあそこにいるのか、閉じ切った本屋でどれだけ酸素が持つか知らないか?」
「#グレッグさんに休日をあげて」の時のように、各企業は素早くこのチャンスを見つけました。特にAirbnb社は、その本屋を宿泊地として登録してしまうことで、最初のマーケティングチャンスを掴みました。
商業施設を宿泊地に登録すること自体は新しいアイデアではなく、「イケアに泊まりたい」というFacebookのイケアファンに応え、エセックス州のイケアでもすでに行われていました。
@Airbnb_uk @IKEA @DWill_ Hey, so sorry to miss this – wow we had a lot of tweets today! This could be fun – let’s talk! — Waterstones (@Waterstones) 2014, 10月 17
しかしそれでも素晴らしいPRであり、この一連の流れによく合っています。
このテキサス州の男性に対する反応はどこでも概ね好意的であり、本と共に有益な時間を過ごせてラッキーだったと彼は感じていました。
ウォーターストーンはこれをただの社交辞令にもできたはずですが、この宿泊地への登録はPRを獲得するいい経験にもなると考えた結果、見事なアジャイルマーケティングとなりました。
「ウォーターストーンは本屋に閉じ込められた旅人に続き、宿泊ゲストを募集しています」
Airbnbの取り組み
Airbnb社は注目されているうちに波に乗れるように、できるだけ早く宿泊の準備を整えることが必要でした。
しかしそれよりも、そのイベントを慌ただしく感じたり、粗雑なものに思われないことも大切でした。
ウォーターストーンとAirbnbはウォーターストーンピカデリーストアの専用ページを作り、10/24の宿泊ペアチケットが10人に当たるコンテンツを作成しました。
ここに入るにはウォーターストーンに連絡し、本屋で夜を過ごすならどの本を読むか、それはなぜかを書く必要がありました。チケット獲得者は折々で発表され、イベントを盛り上げるためツイッターでも宣伝されました。
便乗する企業の取り組み
無料の食事やエンターテイメントを提供したい多くの他の企業も、こうしたマーケティングに参加することは難しくありません。
ただし、流れを読んだ楽しいニュースジャックになるか、それをダメにしてしまうひどく悲しい試みになるかは、とても微妙なラインでした。
@Airbnb_uk @IKEA @DWill_ Hey, so sorry to miss this – wow we had a lot of tweets today! This could be fun – let’s talk!
— Waterstones (@Waterstones) 2014, 10月 17
意訳:セレクタ社「グレッグさん、お休みの前に防音設備のサウンドプルーフはいかがでしょう?こちらをご覧下さい http://www.cellecta.co.uk/ #グレッグさんに休みをあげて」
こんな感じのツイートはよく出来ていますね。流れをよく読み、Airbnbとよく似たブランド価値があったからです。しかし、あまり関係のない多くの企業も便乗していました。 例えば「提案をお待ちしてます^^」というスタイル。
The #WaterstonesSleepover won’t be complete without some tasty nibbles- we’ve got the midnight munchies covered @Airbnb_uk @Waterstones 😉
— graze.com UK (@grazedotcom) 2014, 10月 20
意訳:graze.com「どうやってパーフェクトな夜を過ごしますか?グレーズ社のスナック?あなたの好きなティーピッグのコーヒー?提案をお待ちしています! #ウォーターストーン宿泊」
「美味しいつまみがないと、#ウォーターストーン宿泊 は完成しません。私達なら深夜の空腹を満たせます @Airbnb @ウォーターストーン (^_^)」
まとめ
急速な話題を集めるハッシュタグに即座に反応することで、ウォーターストーン社は低コストで多くの好意的な報道を受けることが出来ました。
しかしながら、アイデアを思い付き、実行に移せる力を持ったAirbnbにより多くの信頼が寄せられたことは間違いありません。Airbnbの仕組みなしでは、ウォーターストーンはこのような短いお知らせで宿泊プランは組めなかったかも知れません。
両社とも自社だけではできなかった大きなPRを行えた訳ですが、この宿泊プランを可能にしたのは、アジャイル的文化を両社が持ち合えわせていたからこそでしょう。
こうしたPRには俊敏かつ柔軟に取り組む姿勢こそが成否の鍵を分けます。もちろんハッシュタグを楽しむユーザーの心情を理解した上で、ですね。