ソニーから独立したVAIOと日本通信が、共同で発表したVAIOフォン。
発売前からやいのやいのとは言われていましたが、先週の東洋経済オンラインによる日本通信の三田聖二社長へのインタビューを機に、ダムが決壊したかのごとくFacebookやTwitterで辛辣な意見が散見されました。
なぜ、VAIOフォンはここまでのバッシングを受ける結果となったのか。そこにはVAIO独立の経緯と、企業としてのブランディング戦略の問題が含まれます。
VAIOのSONYからの独立
昨年2月、ソニーは同社のPC事業を日本産業パートナーズに譲渡することを発表しました。続いて5月にはVAIO株式会社として7月から独立した事業を営む旨が発表されました。
この時点で「VAIOはSONYに売却された」いわゆる、ソニーから梯子を外されてしまったと状況を悲観的に見る声が大きかったように記憶しています。
VAIO株式会社はそんなネガティブイメージを払拭すべく、同年7月1日の日経新聞朝刊に全15段のカラー広告に打って出ます。
この広告のインパクトは大きく、各方面で賞賛の声をもって向えられました。それは「変えよう」というVAIOブランドの宣言に対する期待です。
余談ですが先日このコピーを書かれた渡辺潤平さんのトークショーにお邪魔してきましたが、当時の熱量を赤い目で語る姿に感銘を受けました。
実際に今年2月に発表された「VAIO Z」は変態スペックとも呼ばれるマニアックな仕様になっています。
問題はここからでした。
スマートフォン業界への参入発表
「VAIO Z」発表の2ヶ月前。2014年の年末に日本通信と提携して、VAIOブランドでのスマートフォン参入が発表されました。
この発表に「スマホ開発に回すリソースがあるのか?」「OEMで端末にVAIOシールを貼るのか?」「やバイオ?」などの声が挙げられていました。
翌1月末。日本通信社の2014年度第3四半期決算発表の席上で、協業の進捗について発表されました。
契約の都合上……という前置きがあったものの、パッケージだけの発表にネットではまた相次ぐ不安の声が挙げられていました。「箱が一番のウリなのだろうか」「ブランドを推してるけど乗せる機種は一体」などです。
VAIOフォン発売
3月12日、ネットユーザーの期待と不安をもとに満を持して「VAIOフォン」が発表されました。一括51,000円という価格設定です。
しかし当初よりOEM端末を通じたブランディング販売を予期していたユーザーは多く、発表当日にして以下のような記事が相次ぎました。
VAIO Phone発表に先駆け、先月末にはパナソニックが同デザイン・同性能の「ELUGA U2」を台湾市場向けに発売済み。いずれも台湾メーカーが開発・生産を担当した同一モデルで、販売価格は7990台湾ドル(約3万円)です。
箱が21,000円!?VAIOハザード??
翌日に東洋経済オンラインにて総括的な記事が掲載されました。
両社がコンシューマブランドの”VAIO”を使って、新しい時代のスマートフォンを発売する。そう言ってしまえば、もっと直接的にエンドユーザーに訴えかけるハードウェアが登場することを想像するものだ。一般の消費者の目からは見えにくい部分に差異化要因が盛り込まれているという主張は、一般の消費者にどのように評価されるだろうか。
まとめ
こうして冒頭の日本通信三田社長へのインタビューへと繋がります。
第1ステップとして、VAIOのブランドにどれだけの力があるかということを試してみたいと考えている。
(中略)
アップルはブランディングの会社だ。通信業界でもiPhoneはブランド力だけでユーザーから10万円近くとっている。そうでしょ?何か差別化できているの?
(中略)
発表会では基本のスペック以外、端末の特徴をあえて説明しなかった。ブランドで戦うことと、機能面で戦うことはどちらかひとつしかできない。両方をやると、どちらが評価されたのか、効果がわからなくなるからだ。サービスについては、10万台程度の規模になったときに加えていこうと考えている。
VAIOフォンがかくもネットで叩かれる理由を企業ブランディングの観点からまとめました。
原因はVAIOがPCで打ち出したブランディング戦略と、スマホで打ち出したビジネス戦略が相反していることにあります。
日経新聞での全面広告はひいきめに見ても賞賛を持って迎えられていました。それは「変えよう」という意志に対してです。一方でVAIOの冠がついたスマートフォンは、至極ビジネス的なアプローチであるOEM端末へのラベリングでした。
決してその手法が悪いわけではありません。ただ、設立と同時に掲げたブランディングとあまりにも異なり、受け手であるユーザーの混乱を来たしました。toCであればなお一層です。
結果論で言えば、何がしかのVAIOらしさが負荷された端末であれば違ったのかもしれません。
インタビューの折に三田社長は「ブランディングでスマートフォンを提供するということだ」と答えています。これもまたブランド戦略の一般論でいえば、カスタマーの目に触れるメディアで表に出す表現ではありません。
こうした積み重ねが今回の事態へと至っており、企業のブランディングや広報戦略の重要性を示すエピソードとしても注目を集める結果となりました。