久しぶりのブログ更新です。
エンジニアにマーケティングの能力が備わりつつある、という記事のご紹介です。
最近のマーケ担当は技術に詳しくなりつつありますが、その逆も起こっています。マーケティングの分野で働いた訳でもないエンジニアが、仕事の中で自然とマーケティングの原則を身に付けているのです。
かつて「マーケティングなどエンジニアには無用の長物」と思われていた時代もありましたが、各種のマーケティング(コンテンツ、SNS、顧客満足度…)がクライアントにとって有効であるのは明らかです。
この変化には、3つの背景があると考えられます。
1.オープンソースというものが生まれ、エンジニアのフィードバックが得られたこと
2.マーケティングしつつ開発する「アジャイル」という文化が生まれたこと
3.エンジニアが起業する時代になったこと
マーケティング担当者がここから学ぶものは多いです。一つずつ見ていきましょう。
オープンソースというものが生まれ、ユーザーのフィードバックが得られたこと
ソフトウェアのオープンソース化は大成功を収めています。OSではLinux、データベースではMySQL、WebサーバではApache…。これらは、非常によく考えられた仕組みや技術の上に成り立ったものです。しかしここには、もう一つの成功要因があります。それはエンジニア中心のマーケティングです。
オープンソースを開発するアイデアはたくさんありました。マーケ担当はどのアイデアを採用するか、それ以上にどんな人材を採用するか、比較検討を重ねてきました。『伽藍とバザール』という有名な本では、かつてのオープンソース化プロジェクトを例に、技術とマーケの融合を描いています。
伽藍とバザール―オープンソース・ソフトLinuxマニフェスト
光芒社
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この本が書かれてから10年以上経っていますが、オープンソースはそのマーケティング性だけで、ここまで支持され洗練されてきたのです。そして、もはやエンジニアリング文化の不可欠な一部となっています。オープンソースの特色を紹介しましょう。
オープンソース関連のウェブサイト
使いやすいデザイン、リッチなコンテンツ、時には有名企業がソフトウェアに使っている信頼できるものまであったりします。コンテンツマーケ担当者は、色々なプレゼンや電子書籍などで紹介されている深くてコンテンツをぜひ覗いてみてください。このブログもその入口になれば幸いです。
先駆者が書く記事
偉大なエンジニアやオープンソースの提唱者が、役に立つブログをたくさん書いています。彼らはアイデアをシェアしたり見解を述べたり、知識や知恵を公開しています。情熱的で説得力があるので、彼ら自身と彼らが関わるオープンソースのブランド力が高まります。
Q&Aサイトでのブランド化
エンジニアはしばしば技術的なQ&Aサイトに現れます。そして質問に対してたくさんの良い回答をすることで、信頼を得ています。タグ機能などはオープンソース化のよい傾向です。リアルなユーザーへリアルな回答をすることで、名前を売ることにも繋がります。
オープンソースごとの差別化
「個性」こそがオープンソースの成功の肝です。考え抜かれた仕組みの上に、ユーモアやウィットが求められます。Ruby on Railsの成功の秘密は、技術的なメリットだけではありません。
エンジニアのプレゼンの場
ワークショップやハッカソンなどのオンラインフォーラムがあれば、エンジニアはいくらでもユーザーを集めることが可能です。実際、新しいいイベントは次々作られています。マーケティングの観点から言うと、こういったイベントが信じられないほどオープンソースの勢いを成功させているのです。スライドシェアなどを見ていると、時々で素晴らしいクオリティのプレゼンが登場します。
オープンソース同士が育て合う
オープンソースには大小様々なプロジェクトがありますが、お互いが影響し合っています。Railsプラグインも小さなプロジェクトでしたが、オープンソースが大きく育ててくれたといえます。また、オープンソース同士は互いにうまく動くよう協力し合います。彼らはAPIやデータに関する指導者なのです。
オープンソースは、エンジニア中心のマーケティングによってベンチャーを育ててきました。そしてエンジニアにとっても、ユーザーの声をよく聞いたマーケティングこそ、本当の価値を生み出すものであることを自覚しました。
マーケティングしつつ開発する「アジャイル」という文化が生まれたこと
アジャイルソフトウェア開発とは、常にユーザーを中心に開発を進め、エンジニアとユーザーとで会話を続けて小刻みにフィードバックを貰うことで、仕様が変更されてもすぐに対応できるようにしていく手法です。
昔は開発・運用ステージだけでなく、設計ステージにも長期スケジュールが組まれていました。それがエンジニアをユーザーと市場から遠ざけ、結果誰も幸せにしませんでした。「望んだものと違う!」「これが欲しいと言っていたでしょう!」といったシーンをしばしば生んできました。
そこで、あるエンジニア集団が「アジャイルソフトウェア開発宣言」を書きました。第1条は、「顧客満足を最優先し、価値のあるソフトウェアを早く継続的に提供します。」という条文です。
アジャイルは10年前から受け入れられており、ユーザー中心の原則をエンジニア文化の中に根付かせています。アジャイルの特色をご紹介します。
・開発において大切なのは、「ユーザーが本当に欲しいものは何か」を知ること。エンジニアとユーザーは毎日のように会って、製品のビジョンを進化させなければならない。見せて、議論して、見直して、設計と実装を繰り返すことで、ベストな解決策を構築できる。
・アジャイルを繰り返せば、市場へ素早く参入できたり、チャンスとピンチへ素早くアクションできる。即反応する力こそアジャイルの真髄であり、競争力である。素早く継続的にリリースすること。
・使いやすさ、使う楽しさ(UX)をデザインすることは、もはや開発には欠かせなくなった。ユーザー中心に製品を開発することで、エンジニアはよいUXをデザインする。最後にとってつけたようなものでなく、コンセプトとして製品の中に取り入れられる。デザインに向いていないエンジニアも、デザイナーを熱心に探し始めている。
・改良を続け、テストを中心に開発することで、製品の品質をずっと保証できる。こういった「最初から作り込む」アプローチは、ソフトのリリースを早めて、より確実にユーザーの信頼を得られる。そして、色んな方法で価値を提供できるようになる。
・常にデータを取らなければならない。ユーザーが製品をどう使っているかというデータは非常に貴重なもの。改良のヒントになるし、新機能が成功したかどうかを確認できる。こうしたデータが技術面だけでなくビジネスの判断基準にもなる。A/Bテスト(部分的に変更して良い方を選んでもらうテスト)の手法は、今では多くのウェブアプリで取り入れられている。アジャイルチームはこのような試みをもとに、ベストなUXを蓄積していける。
アジャイルで製品を管理することで、エンジニアリング&マーケティングのハイブリッド手法が取れます。両者の目指すところは同じなのです。逆に言えば、マーケティングのチームがアジャイルエンジニアのようなデータドリブンな形態を取れば、それはユーザー中心の体制に変わることを意味するのです。
エンジニアが起業する時代になったこと
コンピュータ科学者アラン・ケイは、「未来を予測するもっとも良い方法は、それを作ってしまうことだ」と言いました。
起業したエンジニアの有名な例として、ヒューレット・パッカードのビル・ヒューレットとマイクロソフトのビル・ゲイツがよく取り上げられます。インターネットの時代は、この二人の時代の寵児が築いたものと言えるでしょう。エンジニアが起業した有名なIT企業といえば以下に代表されます。
Googleを作ったラリー・ページ&セルゲイ・ブリン
Facebookを作ったマーク・ザッカーバーグ
TwitterとSquareを作ったジャック・ドーシー
彼らは過去10年における、文字通り数百のエンジニア起業家の一例です。最近ではフェイスブックが10億ドルで買収したインスタグラムの創始者、ケビン・シストロームとマイク・クリーガーがいます。もっと小規模なものを探そうとアップルストアを覗いても、やはり無数のiPhone・iPadアプリの提供者がいますね。
エンジニア起業家が増えた要因に、ソフトウェア業界の構造の変化があります。新しいアイデアが浮かんだら、オープンソースやクラウドの力を借りて、安く簡単に形にできるようになったのです。さらにデジタルマーケティングが進歩したので、同じく安く簡単に宣伝でき、世界中に売ることができるようになったのです。
これらはエンジニアによる起業の可能性を爆発的に広げましたが、彼らをやる気にさせたさらなる理由があります。
過去10年間で、エンジニアの中で「起業はクールだ」という風潮が起こりました。技術的に難しいものを作ることでも尊敬されましたが、商業的に成功する何かを作ることもまた、(たとえ難しくなくても)尊敬されました。それは単に稼げるというだけでなく、人々が望むものを作り、ビジネスを維持・成長させる道を作るというプライドでした。エンジニア起業家が世界的に受け入れられたことで、エンジニア文化が変わってきたのです。
フルタイムワークでないエンジニア起業家が、小さなビジネスを持つ傾向も増えています。Webアプリ、iPhoneやipadのアプリ、クラウドファンディングでのプロジェクトなどです。Google社の20%タイム(勤務時間の20%は自分のビジネスに使って良い)のように、大企業でさえ欲する新ビジネスの立ち上げ機運が、エンジニアの間で高まったのです。
エンジニアは自らの製品で遊び、ユーザーの声を数字で可視化し、高速で改善を繰り返しながら、自ずとマーケティングとビジネス動向に詳しくなっていきます。そうして育くまれるクリエイティビティは、やがてエンジニアリングとマーケティングの境界線を超えていくのです。