シナリオライターじゃないんだから、企業のPR担当者がストーリーを創るなんて、むずかしそう。でも、PRにストーリー性は欠かせないなんて聞くし……と、お困りのみなさま。
ストーリーテリングには、クリエイター並みの創造力は必要ありません。いちPR担当者にだって、誰にだって、ストーリーを語ることはできるんです。
ストーリー性とはなんぞや
ストーリー性と聞いて、みなさまはどんなことを思い浮かべるでしょうか。
あなたは、混みあったカフェの入り口にほど近い一席に座っています。机の上には、マグカップに入ったコーヒーが。
ふと顔を上げると、入り口からやや離れた席に座っていた男性が立ち上がりました。席が空いたのを見て、さきほどお店に入ってきたばかりの女性が、席を確保しようと急ぎます。
店内は混みあっているので、席は争奪戦。急いだ女性は、入り口からすぐの席に座っていたあなたの机につまづいてしまいました。
その瞬間、あなたのコーヒーはこぼれてしまったのです。
よくある(?)光景ですね。書き起こせば、1つのお話にはなります。でも、これでは、起こったことをただ描写しているだけに過ぎません。
ストーリー性とは、背景にあったことまでを連想させること。例えばこんなことです。
・あなたがコーヒーを飲みながらどんなことを考えていたのか
・席をたった男性は、カフェを出たあと、どこへ行くのか
・女性は、なぜ机につまづくほど焦っていたのか
これらをどう表現するかによって、一気に世界観が変わってしまうというのは、明らかですよね。
出来事をただ出来事として伝えるのではなく、奥行きや広がりを持たせることで、聞き手や読み手に強く印象を残す。それがストーリーテリングです。
PRにストーリー性が問われる理由
PRというのは、パブリックとのリレーション。パブリックとの、よい関係性づくりが主な目的です。
とくに“第3者に”よい噂をしてもらうという発想はPR独自のもの。
自分の店舗、サイト、広告などで「冷やし中華はじめました」と言うのではなく、「あの店、冷やし中華はじめたらしいよ!」と言ってもらう。しかも「おいしいんだよ」というプラスの評価つきで。それを目指すのが、PRです。
テレビ、新聞、雑誌で取り上げてもらったり、ソーシャルメディアや口コミで個人的に広めてもらったり、方法はさまざまです。
よい噂をしてもらうためには、信頼関係が必要です。大事な視聴者や友だちに、信頼できないお店を勧めるはずがないですもんね。
信頼関係を築くには、自分を知ってもらうことが基本。自社について、自社のサービスや商品について、よく理解もらうことが欠かせません。
信頼されるほど、よく知ってもらうには「どんな人なの?どんな商品なの?どんなサービスなの?」をしっかり伝えなければなりません。
プロフィールや経歴、活動報告などの情報がたくさんあれば、よいという単純なことではありません。
人に紹介したくなるほど、よく知ってもらうんです。
人に紹介したくなるときってどんなときでしょうか。感動したときや、メリットを感じたときですよね。
・どんなメリットがあるのか
・どんな歴史を持っているのか
・何に悩んで、何を選択してきたのか
・今は何を考えているのか
・どんなことを夢みているのか
・どんな想いで、何をやっているのか
それらが伝わるからこそ、人は動きます。
出来事だけでは、人は動かない。その背景に、内側に、なにがあるのかを伝えるのがストーリーテリングなんです。
パブリックとの信頼構築を大切にするPRとの関係の深さ、理解していただけたでしょうか。
誰でもできるストーリーテリング
PRプランナーや広告マン、シナリオライターには敵わないとしても、ストーリーを伝えるという点で、いちPR担当者ができることは、たくさんあります。
・事業をはじめた代表取締役の想い
・その想いが生まれたきっかけ
・会社で働く人たちの働き方、生き方
・1人ひとり違う、なぜそこで働いているのかという理由
・新しい商品の開発背景
・どんな人たちが開発したのか
・開発にあたって乗り越えた困難は?
などなど、発信できることはたくさんあるはず。
つまり、ゼロから1を創る必要はないということ。埋もれている1を、きちんと伝えていく。それがPR担当者にできるストーリーテリングです。
SNSアカウントに、ファンがたくさんついている企業では、広報担当者が社内の一個人として運営しているところも多いですよね。
商品の紹介や開発背景を伝えながら、自分の感想を添える。フォロワーへの気遣いの一言を添える。そうやって広報担当者がファンとの信頼関係を作っています。
そして「こんな広報担当者が働いている企業」のイメージまでよくなっていくんですね。
求めるPR効果によっては、ゼロからストーリーを創らなければいけない場合もあります。そんなときはプロ(PRプランナーや広告マンなど)の力を借りればいいんです。
まずは、今できることからはじめてほしいと思います。
すでに、今あるストーリーをきちんと発信しているか、埋もれている“1”はないか、発見するところから始めてみてくださいね。