社会に出てから22年が経った。
営業、キャリアカウンセラー、経営、コンサル、講演、執筆・・・振り返れば色々な仕事を経験させてもらったことになる。どれも、極めたとは到底言えないが、私がやりたかったことや比較的得意な事だった故に神風がふいたりして、自分の実力以上にはやりこなせてきたと自負している。
ところが、私には大きな欠点がある。「事務処理能力」が異常に低い事だ。何でこんなにミスをしてしまうのか自分でもわからない。新入社員でもやらないようなミスをする自信があるので未だにダブル、トリプルチェックをせねばならず、これまた時間がかかって非効率この上ない。
この欠点は仕事を始めた頃から気づいていたが、営業になる事によって逃げ、次には経営者になることで逃げ切ったかのように見えたが後にむんずと捕まり、克服しなかったつけを払わされることとなる。
リーマンショックで社員が激減したとき、コンサルの現場で、他社との共同プロジェクトで、私は何度も事務処理ミスをしてその都度自分の能力の低さに打ちのめされることとなるのだった。
方や、自分の欠点を早急に自覚し、工夫して乗り越え、スキルにしてしまった女性もいる。
先月発売された『人見知りでも「人脈が広がる」ささやかな習慣』の著者の金澤悦子氏である。
リクルートで営業、ベンチャーの管理職、ウーマンタイプの創刊編集長、起業独立、と、どれも人と対峙する仕事で、尚且つ人脈がモノを言う職種。彼女の欠点である「人見知り」は、彼女がチャレンジしようと挑んできた全ての前に、その都度容赦なく高い壁となって立ちはだかった事だろう。
その壁を乗り越え、リクルートではトップセールスとなり、編集長時代には上場までもっていき、起業してからもその人脈により引く手あまた、と、確実に結果を出しているのだからそのノウハウは本物である。
少しでも、「私、人見知りで」という自覚があり、改善したいと考えている人はこの本で彼女が実践してきた「ささやかな習慣」を是非参考にして頂きたいと思う。
さて、この本が書店に並ぶようになってから、彼女は何度も
「えっちゃんが人見知り?!しんじられない!」
と友人知人に「似非人見知り」を疑われたというがそれは当たり前だ。
彼女とはもう15年の付き合いになるが、常に明るく楽しく、いつも輪の中心で、誰を紹介しても「感じの良い人だね!」「金澤さんが来るとオフィスが明るくなるね。」といわれる「人見知り」の対極にあるような人物だからである。
人から第一印象で怖がられ敬遠されがちな私も、彼女のそんな資質を羨望の眼差しで見つめてきた一人である。
ところが、本書を読んで、それが彼女のスキルであったことが解り、友人としては多少裏切られたような思いが無い事も無い(笑)
同時に、本書に書かれたノウハウの分だけ、彼女が知恵を絞り、勇気を出して壁越えをしてきたのかと思うと、また新たな敬意や愛情が湧いてきて、「そうだ、戦友であった。」と改めて認識させられるのだった。
結局の所、彼女は「人脈作り」や「コミュニケーション」のプロフェショナルなのだ。
昔、営業を育てていた時に、資質として人あたりが良く、人見知りしないタイプの社員は、当然に早く育った。ところが、彼や彼女の役職が上がり、部下ができると頭打ちになる事が多々あるのだった。
彼、彼女らは、得意が故にその能力を記号化できず、部下に教えたり、育てる事が不得手で任せられない。また、無意識の領域でタスクをこなすために、ムラがあり、長期的に「安定したパフォーマンス」を望めない傾向があった。
本書を読めば、金澤氏が自分と他人をとても観察している事が解る。そして、たくさんのトライ&エラーの結果、彼女オリジナルのノウハウが記号化され、確立されたことも。
これは、彼女が「人見知り」であったこと、それに気づいて努力したこと、の二つが無ければ成立しなかった彼女のスキルである。
若い頃は自分の得意な事が人生を押し上げてくれるが、大人になると自分が苦手だったものを克服したノウハウが大いなる武器となりうる。
苦手な事が自分自身を何かの「プロフェッショナル」にしてくれるなんて、キャリアも人生も、トリッキーでやっぱりおもしろいな、と唸って私は本書を閉じた。
たくさんの「人見知りさん」がこの本を読んで、「君のためなら力を貸そう」と言ってもらえるビジネスパーソンになれますように。
実務教育出版
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