「翻訳って……小説とか訳してるの?」
ぼくが翻訳関係の仕事をしていると話すと、よくこんな答えが返ってきます。日常生活で翻訳といえば「ハリーポッター」はとても身近だし、ちょっと小粋なら「悲しみよこんにちは」を思い浮かべる人もいるでしょう。
でも、普段はなかなか接することのない翻訳。少し難しそうで、距離を感じたりもします。しかし実は、翻訳は仕事や生活に欠かせないものなのです。
ぼくの働く翻訳会社の日常は、派手さはないけれど、ビジネスや社会を言葉でサポートする毎日なのです。
翻訳が活躍している場所
小説ならプライベートで読むけれど、それなら他の翻訳はどこで使われているの?という疑問が最初の質問に次いで寄せられます。
実は翻訳全体でとらえると、小説のような文芸翻訳はごくわずかで、大部分は産業翻訳が占めています。代表的な分野ではITや経済などがあり、近年ではWebサイト翻訳も増加しています。
ITならパソコン関係、経済なら金融、WebサイトならEC(オンラインショップ)と言えば、その幅広さが感じられると思います。翻訳を普段から実感できないのは、和訳であれば翻訳と分かるレベルでは品質が高いとは言えず、できるだけ自然な日本語を目指すからです。
品質の高い仕事は翻訳と気づかれないので、翻訳会社や翻訳者としては分かってほしいけど、分かってほしくない……というジレンマも感じます。
とはいってもクオリティーを落とすことはできないので、翻訳会社や翻訳者は人知れず翻訳を届けることに喜びを見出して、こっそり頑張っているのです。
翻訳会社から見た翻訳と翻訳者
翻訳会社と翻訳者は誠意をもって一緒に仕事をしていますが、実はその関係は直接雇用ではなく、フリーランス契約が一般的です。
翻訳について、翻訳者の視点では多くの方がブログで書いていますので、ここでは翻訳会社の立場からお伝えします。
翻訳会社は翻訳に専念する翻訳者と違い、受注から納品、アフターフォローまで考えながら仕事を進めます。担当のコーディネーターは、数十名から数百名以上の契約翻訳者の中から専門分野の知識や実務経験を考慮して適切な翻訳者を選出します。
専門知識や実務経験を重視するのは、翻訳作業の過程でクライアントが翻訳を利用する場面までイメージできれば、ちょっとした言い回しや行間のニュアンスを丁寧に汲んだ、とても読みやすい翻訳に仕上げることができるからです。
また、ビジネスマナーも重要な要素です。仕事である以上、修正や変更などは当然発生します。時には厳しい要求もありますが、柔軟に対応できることが大切です。当然のことかもしれませんが、その当たり前を受け入れることはけっこう難しいんですよね。
翻訳会社の翻訳プラスαのお仕事
翻訳会社の仕事はコーディネートだけではなく、他の企業と同様にクライアントへの訪問や、セミナーや会合での情報収集などがあります。その社外活動で最近、多言語化という言葉を耳にすることが増えてきました。
日本語から英語に翻訳すると2つの言語になるのですが、実際には英語プラス1言語か2言語の翻訳と捉えているようです。そしてクライアントからは、どの言語を追加すればよいかと相談を受けることがあります。
前提としては、中国語を考えていることが多いようです。この選択は間違いとは言い切れません。最近は経済の減速が注視されていますが、それでもマーケットは非常に大きくて魅力的です。
また、数年前からは日本に観光にやって来る中国人が急増していることもあり、インバウンドでも中国語の需要が増えているからでもあります。
ただ、翻訳会社としては、マーケティングをベースにして言語を選択するべきとお答えし、可能な限りお話を伺って、具体的な提案まで行うようにしています。
多言語化に限らず、これからの翻訳会社は翻訳のマネージメントだけではなく、もう一歩先まで対応できることが大切な業務になっています。
翻訳会社でのぼくの日常
翻訳会社は、長年に渡り日本と外国の橋渡しをしてきました。
最近では、インターネットの発達により容易に海外情報を収集して、また日本からも発信できるようになったので業務の幅も広がっています。
グローバル化という言葉はよく聞きますが、一般の日本人や日本企業にとって、外国人や外国企業とのビジネスや交流はまだまだ不慣れで、戸惑うことも多くあります。
翻訳会社は決して表に出る存在ではありません。それでも国境や文化の壁を越えたコミュニケーションの一翼を担い、今までもこれからも日本企業と海外企業を繋ぎ、日本人と外国人を結びます。
より多様化するビジネスや社会の一助になること。翻訳会社でのぼくの日常は、それらが一歩ずつ前に進むためのお手伝いです。