自主制作CDを作り、レーベルを運営したい。そんな夢を実現するための3つの条件とは何でしょうか。
私がクラシック音楽のレーベルを立ち上げた経験をもとに、演奏家の皆さんに自主制作CDを出すために必要なことを、これからここでお話ししたいと思います。
CDが売れない、レコードショップが閉店する、ダンロード販売や、音楽ストリーミングサービスが始まるなど、今、音楽業界のビジネスモデルが大きく変化しています。
クラシック音楽も例外ではなく、大手レーベルが手がける作品数も少なくなってきています。
そもそも大手レーベルでアルバムをリリースできる演奏家はごく一部。それがさらに少なくなっているのですから、地道にコンサートを企画運営して活動をしている演奏家にとっては、「永遠に自分たちのアルバムなんて出してもらえない」とため息をつきたくなるのもうなずけます。
でもちょっと待ってください。
「アルバムを出してもらえない」と諦めるのは、あまりに短絡的で他力本願ではないでしょうか。「自分の作品を残したい」と願っても、それは叶えられないのでしょうか。
いいえ、そんなことはありません。
たった3つの条件さえクリアすれば、すべての演奏家、音楽家は自分で自分のアルバムを作ることができるのです。
自分でレーベルを運営し、作品を残すことができるのです。
もちろんそれは、ただの趣味の録音物ではありません。商品として流通させることもできます。ダウンロード販売や、さらには音楽ストリーミングサービスで世界中に配信することも可能です。
そんな完成度の高い音楽アルバム、自主制作CDを作る条件とは一体何でしょうか。
ここでは主にクラシック音楽の演奏家を想定して書いていますが、これはジャズやロックバンドの皆さんにも当てはまることがほとんどです。
ご自身の状況に置き換えて、ぜひお読みください。
条件1, 演奏会を定期的に開催している演奏家である
趣味でこっそり楽器の演奏をしているのでない限り、あなたは観客の前で演奏する機会があることでしょう。それを例えば月に一回、少なくとも半年に一回は開催していること。これが第一の条件です。
観客の前で演奏している回数が多いほど、何が喜ばれ、どの曲の受けがいいのか、それを肌で感じているはずです。
その実感が、アルバム制作の柱になります。販売目標数の目安も、この演奏会の実態から把握することができます。
条件2, 他の演奏家のコンサートに行くことができる
自分のアルバム制作と一見何の関係もなさそうな条件ですが、私は実はこれが一番大切だと思っています。
クラシック音楽の演奏家はプロアマ問わず、他の人のコンサートに熱心に通う人は多くありません。他人のコンサートに行くくらいなら、練習していた方がいいという気持ちになるのもわかりますが、他のコンサートに行って初めて、見えてくることも多いのです。
CDを聞いて比べるのではなく、あくまでも生演奏で比べることが大切です。自分が演奏している時にはゆっくり見ることのできない、観客の顔や場の空気も感じることができます。
その経験が、録音と編集の時に最も重要となります。
条件3, 自分が表現する音楽が好きでたまらない
想像してみてください。「これ、すっごく美味しくできたから、みんなで食べて欲しいの!」と言って差し出されるお菓子と、「本場フランスのパティシエの作ったものと比べたら、まぁアレだけど……」と目の前に出されたお菓子では、あなたはどちらを食べたいですか?
確かにクラシック音楽の世界では、自分の演奏を高めたいあまり、世界一流とされる人や過去の大演奏家と比べてしまう方も多くいらっしゃいます。
でも今もし、あなたのその演奏を好きで聴きに来てくれている人たちがいたら、今のあなたの演奏を大好きでいてほしいと思うのです。これは向上心とはまた別であると、私は思っています。
自分の今の音楽をまず自分が好きであること。そしてそれを誰かに伝えたいと思っていること。
自分のCDを作り、アルバムを残すための、それが最後の条件です。
さあ自信を持って、作品を作っていきませんか?
自主制作CDを作ってきたからこそ、見えてきたものとは
私がもっとも思い出深いのは、夫で作曲家の渋谷牧人の作品集『CANTUS NOMIUS』をオリジナルレーベル「Nomius Nomos」の自主制作アルバムとしてリリースした経験です。
それまで私は、音楽とは全く異なる業界で仕事をしていました。
夫とともに、自分たちの思いをCDとして形にするため、一から様々な勉強をし、いろいろな方に助けていただきました。
そうして今では、渋谷牧人の楽曲は日本だけでなく、スイス、ドイツ、フランス、イギリスなど海外でも演奏されています。
昨年はフランス、イタリアのレーベルとも契約し、さらに活動の場を広げています。
私は、音楽とは全く違う世界から飛び込んだからこそ、今でも音楽業界の既成概念にとらわれず、自由にレーベルを運営しています。
しかしながら、それは全くの勝手な方法というわけではありません。音楽業界には音楽業界のルールがあり、共通認識があり、契約があります。
それを知らなかったばかりに、遠回りになったり、多くの失敗を重ねました。
そんな私の経験を踏まえて、より良い作品作りためのノウハウを皆さんにお伝えしたいと思います。
すべての演奏家が自分の作品を残し、音楽を愛する人全てに届けられることを願って。