ベートーベンの名曲「エリーゼのために」は、愛するエリーゼに贈ったものではなかったという話があります。
しかし最近、それとはまた違った説も出てきました。一体どういうことでしょうか。
今日はCD制作の話から少し外れて、クラシック音楽を聴いてみたいなと思う皆さんに向けて、お話したいと思います。
名曲「エリーゼのために」をめぐるナゾ
ミレミレミシレドラ~♪
右手小指から弾き始めるこの有名なピアノ曲「エリーゼのために」は、かの有名な作曲家ベートーベンが、愛する女性エリーゼに贈った曲であるとされています。
ベートーベンといえば、ライオンヘアーで赤いスカーフをオシャレ巻にして、ひどく怒った様子で音楽室の黒板の上から睨みつけている顔を思い浮かべる人が多いでしょう。
そんな強面の肖像画イメージのベートーベンも、当時はピアノの音色で女性を惹きつける素敵な作曲家でした。
時は1810年、江戸時代後期。間宮林蔵が樺太を探検して帰ってきたのと同じ頃、ドイツでは39歳のベートーベンが(あ、結構いい年齢)愛する女性のために、美しいピアノ曲を作りました。
題して「え、え、エリーゼのために」?かな?
のちに見つかったこの楽譜に書かれたタイトルの手書きの字があまりに汚く、それはたいそう読みづらくて、「(たぶん)エリーゼ(Elise)のために」ということで伝わってしまいました。
エリーゼを探せ
さて、その肝心のエリーゼさんが誰だかわかりません。そもそも字が汚くてタイトルがきちんと読めません。エリーゼさんですらないかもしれない。
そこでベートーベンの身近にいた女性たちを調べる研究がなされ、「プロポーズして振られちゃったテレーゼ(Therese)さんじゃないか」という説が発表されました。
このテレーゼさんは当時18歳で、ベートーベンの生徒さんでもありました。
身分などの問題なのか、残念ながらベートーベンはフラれてしまい、この後テレーゼさんは別の男性とさっさと結婚しています。
こんなに素敵な曲をプレゼントされても、恋は実らなかったことになりますね。しみじみ。
テレーゼのためでもなく
ところが、また最近になって「テレーゼさんでもないよ。友達の妹のエリザベートさん(洗礼名エリーゼ)だよ、しかもまた10代の。」という新たな研究発表がありました。
ああ、良かった。
ベートーベンの楽曲を愛する皆さんは、そう思うわけです。とりあえずあの、こっぴどくフラれたテレーゼさんじゃなくて、と。
ベートーベンの曲を歌ったオペラ歌手と言われる、いわば職場恋愛のエリザベートさんが、本当にこのエリーゼだったらいいな、と。
まことに、ベートーベンファンの皆さんは優しいのです。
しかし残念ながらこのエリーゼさんも、別の作曲家と結婚しているので、こちらも実っていない恋だったようです。
愛する人の名前さえ読めないなんて、ちょっとひどい
でも、ちょっと待ってください。よく考えてみてください。
そもそも何でこんなに色々な女性の名前が挙がってきてしまうのでしょう。
「エリーゼ」でも「テレーゼ」でも、最初からきちんと読めてさえいたら、こんな謎にもならなかったはずなのです。
愛する人にあげる楽譜のタイトル、しかも女性の名前のところが「ユウコ」だか「ヨウコ」だかわからないくらいに読みづらかったら?
私がこの女性だったら、「ねえ、これ本当に私の?ヨウコって書いてない?」と、聞いてみたりしたいものです。
せめて愛してくれているなら、そこは綺麗に書いて欲しい。心がこもっていることをきちんと感じたい。
死んだ後になって、本当ははユウコのために作った曲だったけど、字が汚すぎてヨウコにあげたことになっていたら、それはちょっと悲しすぎる気がします。
今頃、本当のエリーゼ(仮)さんは、天国でため息をついているような気がしてなりません。
ベートーベンと自分の存在と関係が、別の誰かのものにすり替わっているなんて、こんなにこんなに悲しいことはありません。
しかもその理由が、「ただ字が汚かった」、それだけのせいで。
私にとってこの楽曲はもう、題して、『字が汚かったために』です。
ベートーベン。
あなたが愛した人は本当は誰だったのですか?そしてその恋は実りましたか?
なんでちゃんと名前を書いておいてくれなかったの?
赤いスカーフの肖像画を見ながら、小一時間問い詰めたい衝動にかられる、そんな美しいピアノ曲『エリーゼのために』。
ぜひまた聞いてみてください。
教訓。女性に渡したいものは、宛名をはっきりと綺麗に書きましょう。文字入力の変換ミスにも気をつけて。
後々残りそうなものには特に、ね。