「いい本を世に出したい」と出版社の編集者や営業の方々は言う。しかし、これは事実であって事実ではない。もちろん嘘でもない。
ただ、出版社は、書籍の売り上げで会社存続を果たしている。そのうえ、本を一冊作るのに、印刷代、印税、デザイン代、編集人件費など直接・間接にもろもろの費用としておよそ350万円がかかる。
もっとも重要なことは投資した金額を上回る売り上げを超えること。それが会社存続につながる。つまり売れる本を世に出すということは、いい本を世に出すということより優先されるといって間違いない。それが出版社の本音だろう。
出版(publish)とは、公(public)にすること
私も読者その他から問われたことがある。
「良書を作ることの方が売れることより重要なのでは?」という類いの質問だ。
もちろん良書を出したい。読者の役に立ち、日本人のためになるような本を出したいと思う。ただ、売れないとわかっている本を出すことは、お金を捨てることとほぼ同義だ。
本を出したいと言って相談をされた場合、あまり売れる可能性が感じられない企画には、「まったくゼロではないが、出版社が紙の本にする可能性は高くない」と言って、ネットで公開するよう薦める。
もともと出版、パブリッシュ(publish)とは、私的なことをパブリック(Public)にするという意味だ。その目的を達成することを考えるのなら、現在ではネットの方が役目を果たすのにいい手段だと思う。
人真似をしても、ベストセラーはつくれない
十数年前、意気揚々と「翻訳のエージェント」から「作家のエージェント」に転向して活動を始めた私だったが、当初は失敗も多かった。
会社を立ち上げたばかりの頃だ。私たちは早く結果を出したいと焦っていた。新しい作家、新しい企画を実現させようと東奔西走していたが、功名を焦るあまり、「二匹目のドジョウ」を狙うようになった。この手の企画は、現在でも出版界に多数あるが、ある意味、それほど深く考えなくても作れるし、売れ行きの数字もある程度予測しやすい。必要なのはスピードだけ、というわけだ。
私たちもあるベストセラーに便乗し、そっくりのものを作った。結局、「二番煎じ」を狙ったつもりが「五番煎じ」ぐらいになってしまい、結果は惨憎たるものだった。だが、私たちを打ちのめしたのは、結果よりもつい人真似をしてしまった自分たちのかっこ悪さだった。友人、知人からも指摘され、穴があったら入りたい気分だった。
人真似をする人間はいつだって敗北者だ。
オリジナリティがあり、クオリティの高い作品を作るようにする。これは出版界にいる限り、最低限守らなければならないことだと思っている。
それでは、ベストセラーをつくるために必要なこととは何か?
はっきりと言ってしまおう。「読者の目線になること」だ。二十年ほど出版業界で仕事をしてきたが、どこまで行っても、この一言に尽きるのではないかと思う。
あなたの本が「書店に並んでいる映像」が目に浮かぶか?
さて、ちょっと想像してみよう。あなたは休日に外に出て、たまたま通りかかった書店に寄ることにした。まず、どこのコーナーに行くだろうか?まずあなたの目に入ってくるのは、どんな情報だろうか?
これもよく言われることかもしれないが、本が売れるためにまず重要なのは「タイトル」である。あなたの本のタイトルは、どれだけ人を惹きつけるだろうか?
年間7万冊強の新刊が出版されている。一日に換算すると、250冊近くになる。多くの本が並ぶ書店の棚において、お客さんの目に触れるのは1冊につき0.5秒程度だと考えた方がいい。リアクションは、「おっ!」でも、「むっ?」でも、なんでもいい。とにかく、あなたの本について、0.5秒で読者に興味を持ってもらわなければならない。これはかなりシビアな話である。
そして興味を持ってもらっても、次のハードルがある。
多くの場合、本の表表紙を見て手に取り、帯の文章を読み、裏表紙を見て内容を知り、そのうえで目次を読んで内容を知り、「はじめに」を読んで買うかどうかを決める。
ここまでに5分以上の時間を費やす人はいないだろう。書店で本を購入してもらうというのは、本当に大変なことだと思う。
「書くための労力」と「売れるための重要度」は反比例する
ということで、本をつくるときに気をつけておきたいことがある。それは「本を書く労力と重要度はまったく逆である」という点だ。これは意外に盲点かもしれない。
つまり、著者の労力としては、本文を書くのが一番大変である。1冊につきおよそ10万字といわれるが、およそ4カ月ほどの膨大な時間をかけて執筆する。しかし、本が売れるかどうかに一番作用するのは、「本のタイトル」なのである。
重要度としては、その次に「プロフィール」、「目次」、「はじめに」の文章と続く。理由は先ほど述べた通り。結局のところ、どれだけ素晴らしい情報が本文に載っていようと、読者に手に取ってもらわないことには、その情報も伝わりようがないのである。
タイトルのつけ方については、私も試行錯誤をしてきた。次回は、書籍タイトルの重要性について、さらに深く掘り下げてみたいと思う。