書籍づくりの現場ではどのような作業が行われているのか。実際に本を出版した著者と、その担当編集者のインタビューを公開します。企画の経緯から執筆・編集・デザイン・売り方まで、生の声をお届けします。
書籍:問題解決に効く「行為のデザイン」思考法
CCCメディアハウス
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「行為のデザイン」とは、プロダクトやサービスを利用する人の行動に着目し、改善点を見つけて、より美しく、使いやすくする手法のこと。デザイナーだけでなく、商品開発に関わる開発者、技術職、営業職など、それぞれの専門知識やアイデアを発掘、共有することで、開発スピードを上げ、画期的なサービスやプロダクトを生み出すことができます。
グッドデザイン賞をはじめ国内外で多数の受賞歴をもつ著者が、10年にわたり試行錯誤を重ねてきた成果をご紹介します。
編集者: 吉野江里さん(CCCメディアハウス)
───本書は、著者の村田さんが実施されている「行為のデザイン」ワークショップが元になったそうですが、吉野さんは「行為のデザイン」について、どのような点に興味をお持ちになりましたか?
また、書籍化できると判断されたポイントをお聞かせください。
吉野江里さん(以下、敬称略):「人の行動に着目する」して、問題解決を図るという考え方が、デザイナーから語られることに興味を持ちました。また、「行為のデザイン」の概念は普遍的なので、あらゆる業種、あらゆる職種に応用ができると感じたことがポイントでした。
───実際にお会いになって話してみて、村田さんの著者としての魅力や強みはどんなところにあると思われましたか?
吉野:数多くの企業でワークショップを行っているので、事例を豊富にお持ちの点は大きな強みだったと思います。あらゆる業種に応用ができる、というのが「行為のデザイン」の肝だと思いますので、それを紙面上でも実証できたのは本書にとって大変有用でした。
───本書は一見、デザインノウハウが書かれた本かと思いきや、デザインに直接関わっていなくても使える考え方や思考法が満載でした。
著者の村田さんも、エージェントや吉野さんから「デザイナー向け」でなく、「デザイナー以外の人」でも使えるハウツーに落としたほうがいいとアドバイスをもらったとおっしゃっていました。
実際、本書制作にあたり、村田さんにアドバイスされたこと、その他、苦労されたことがございましたら教えてください。
吉野:村田さん自身、方向性に迷われていた時期もありましたが、この考え方をデザイナーの世界だけに向けてしまってはもったいない、むしろデザイナー以外にも「行為のデザイン」という概念を広げていくほうが、多くの企業や社会課題に携わる人にも手に取ってもらえるはずだと確信していました。その点を村田さんにはずっとお伝えしていたと思います。
本文に、どの程度デザインの専門用語を入れ込むか、そのさじ加減は最後まで調整しました。
───吉野さんは書籍の編集者ですが、「行為のデザイン」思考法のなかで、お仕事で活かせたことは何でしょうか?
吉野:人の行動を分析することは、書籍企画を立案する上でも必ず行うことだと思います。
本書の冒頭では、棚の上にあるモノをキャスター付きの椅子に乗って取ろうとする人のイラストが入っています。キャスター付きの椅子ですから、当然くるくると動いてしまう可能性があり、とても危険です。そこに問題解決のヒントがあるわけですが、危険だと気がつくか、気がつかないかは大きな差となります。
翻って企画立案では、たとえばビジネスシーンで今どんなことが課題となっているかを想像し、解決の糸口となるような言葉を見つけ出そうとしますよね。その点は、「行為のデザイン」のプロセスをまさにたどっていると思います。
───タイトルや構成、デザインなど、類書と差別化するために工夫された点を教えてください。
吉野:ビジネス書読者に響くタイトル付けでありながら、デザインに携わる人にも惹く言葉と装丁の両立を意識しました。この両方をかなえてくださるのは、アートディレクターの松田行正さんに違いないと思いお願いした次第です。
「行為のデザイン」の概念を伝えるために、帯の文字量が増えてしまったのですが、それでも上品にまとめてくだったおかげで、当初の目論見通りの読者層を拾えたかなと思います。
───本書はどのような方に読んでもらいたいと思われますか?
吉野:あらゆる課題に対して有用な考え方ですし、関わる人数が多くなったとしても最適解の見つかる方法だと思います。商品開発、ビジネス開発や店舗開発だけでなく、地域創生事業など、多種多様なクラスタが入り混じるなかで開発に携わる人にも手に取ってもらえるといいなと思っています。
───普段企画を考える際、どんなことを大事にされていますか? また、今後手がけてみたいテーマがあれば、教えてください。
吉野:この著者でなければ書けないことか、この著者だからこそ読みたいものになっているか、を考えるようにしています。書かれている内容以上に、著者自身のもっているストーリーに、私自身興味を抱がちだからかもしれませんが。
やはり読者も著者のバックグラウンドを知ることで、より身近に説得性を持って読んでもらえるかです。
テーマはあまり決め打ちしていませんが、その著者が持つ力を使って、新たなジャンルを作っていけるような企画に挑戦していきたいです。
───「一緒に本をつくってみたい」と思う著者はどんな人物ですか? 逆に、「こんな著者とは一緒につくりたくない」と思うのはどんな人物ですか?
吉野:愚直に、ただ自分の信じる道を突っ走っている人でしょうか。世間的にはいわゆる変人と言われてしまうような人かもしれませんが、一つの道を追求し続ける人の言葉はやはり独特で、おもしろいと感じます。とはいえ、それはなかなか難しいと思うので、たとえば本業を持ちながら、寄席には毎日行っているとか、芝居を毎月10本観ているとか何でもいいと思うのですが、「掛け算のおもしろさ」で勝負できる人は強いと思います。
一方、器用すぎて一人で何でもできてしまうような人は、企画の切り口を見つけるのが案外難しいのかなと思います。
───本作りにエージェントが関わることのメリットにはどのようなことがあると思われますか?
吉野:著者、編集者ともに内容にコミットしすぎてバランスを失いそうになるところを、冷静に差配してもらえるのはありがたいです。
───最後になりますが、ビジネス書作家を目指す読者のみなさまに、メッセージをお願いします。
吉野:ご自身がやってきたことすべてを1冊に詰め込みたくなると思うのですが、ビジネスにおける問題 解決を目的とした書物には、明確な「対象読者」がいなければ成立しません。その読者像をリアルに 語れるかが、その企画にとって重要です。
1冊の本を書き上げるのはとても大変な作業だと思いますが、「誰のために」書いているか、常に 自問自答を続けながら、書き進めていただければと思います。
───吉野さん、ありがとうございました!
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