書籍づくりの現場ではどのような作業が行われているのか。実際に本を出版した著者と、その担当編集者のインタビューを公開します。企画の経緯から執筆・編集・デザイン・売り方まで、生の声をお届けします。
書籍:成功の神はネガティブな狩人に降臨する
朝日新聞出版 (2015-07-21)
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「さんまのスーパーからくりTV」「金スマ」「EXILE魂」など人気バラエティ番組を手がけてきたTBS“天才”バラエティプロデューサー・角田陽一郎、通称「角P」が頭の中を大公開! 会社内の企画会議で自分の企画が通ったことがほとんどないという角P。しかし、別の方法で、しかも会社の中で、自分のやりたい企画を次々実現させてきている。そんな異色のプロデューサーが放つ、敵をつくらず、未来をつくる、仕事が楽しくなる企画術を全て盛り込んだ、未来に一番乗りするためのビジネスバイブル。
編集者:森 鈴香さん(朝日新聞出版)
───著者の角田陽一郎さんはTBSテレビのバラエティプロデューサーとしてご活躍されています。
あらためて、角田さんの印象や、著者としての魅力を教えてください。
森 鈴香さん(以下、敬称略):最初に角田さんにお会いしたときは、金髪で一瞬ドキリとさせられたものの、愛らしい瞳がとても印象的でした(年上の方に失礼ですが……)。
ふつうの人の3倍速ぐらいでお話しされるため、メモを取りきれないうえ、どの話もおもしろすぎて、笑うのに忙しいという状況だったことを思い出します。
著者としての魅力は、まさにその印象どおりの文章を書かれるということだと思います。
頭の回転がとても速く、独特の感性を持っていらして、知識量も経験されてきたことも膨大。それらがミックスされて生まれる言葉たちが、紙の上で3倍速ぐらいでぐるぐる回転している印象を受けるのです。
読者としては、そこに巻き込まれながら、笑いが止まらない。それに、モノづくりに対して、人に対して、とても純粋にまっすぐに向き合っていらっしゃることが、伝わってきます。
───本書の元になったのは、水道橋博士のメルマガ『水道橋博士のメルマ旬報』内で著者の角田さんが連載されていた「オトナの!キャスティング日誌」だと伺いました。
森さんは、書籍化にあたりこの連載や本書企画のどのような点に魅力を感じられましたか?
森:第一に、テレビマンのエッセイのようでありながら、すべてのビジネスパーソンのヒントになりそうなことが、たくさん散りばめられていたことです。
もっと広く考えれば、何か自分のやりたいことを成し遂げたいと思っている人であれば、学生さんでもお仕事をされていない方でも、きっと「やりたいことを叶えるコツ、つかんじゃった!」と感じていただけると思います。
そして、純粋に、読みものとしても楽しめるのも魅力ですね。
テレビの裏側について興味がある方は少なくないと思いますし、そんな「野次馬」的欲求も満たしてくれつつ、さらに、角田さんの頭を通して語られるエピソードを読んでいくうちに、読者も日々のちょっとした行動に変化が生まれると思います。
───本書のテーマは「バラエティ的企画術」ですが、おもしろい企画の立て方だけでなく、会社に企画が通らなくても、それを実現させるために何をすべきか、角田さんのユニークな視点から語られていました。
森さんは編集者というお仕事をされていますが、角田さんの企画術のなかで、何か実践されたことは何かございますか?
森:他人が言う「おもしろくない」は信じない、というのが角田さんのポリシーの一つです。
つまり、おもしろくないと感じるのは自分が原因だ、という。「おもしろくない」と感じるのは、まだ「おもしろい」と感じられるステージに自分が達していないからかもしれないのです。私は、この考え方がとても好きで、角田さんとご一緒してからは、以前より強く意識して、何かを観たり、聴いたりするようになりました。
この延長上にある(と私が感じている)お話がもう一つあります。それは「『旬』や『終わり』から解放される」ということです。角田さんは、この企画のテクニックを説明するために、「森田一義アワー 笑っていいとも!」の最終回、尾崎豊さん、「四面楚歌」の故事を角田流に解釈、「終わらないコンテンツをつくればいい」と結論づけています。
旬って何なのだろう、おもしろい・おもしろくないってどういう基準なのだろうと、立ち止まって考える習慣は、何かを作り、それを誰かに受け取ってもらう過程で、とても意義あることだと思いますし、そこを超越したものを生み出せたら、すばらしいです。
まだ「実践」というところまでは到達できていませんが、私自身の仕事についていうと、この二つの考え方は、いつも心に置いておきたいと思っています。
───以前、角田さんに取材させていただいた時、本書は翻訳書のようなタイトル、表紙デザインを意識されたと伺いました。
あらためて、タイトルや構成、表紙のデザインなど、類書と差別化するために工夫された点を教えてください。
森:これも、角田さんの企画術の一つなのですが、既存の枠組みにとらわれず、自分で新しい枠組みを作ってしまおう、という考え方に基づいています。
本書を読んでいただけるとおわかりになるかと思いますが、まず読みはじめると、角田さんの仕事上のエピソード、少年時代や学生時代のおもしろおかしい思い出などが次から次へと語られているため、「これ、本当にビジネス書なの?」と思われるかもしれません。
しかし、その項目一つを読み終えたところで、たぶん「明日から仕事が楽しくなりそうだ」という気持ちで、むずむず、わくわくしてくるはずです。読み進めるうちに「企画術」としてのノウハウが蓄積されていくようになっていますし、それが同時に毎日を楽しくする方法でもあるからです。
そういう、ユニークな新しい効果を期待できるビジネス書として、読者のみなさんに手にとっていただきたい、という気持ちからタイトルも含めて工夫をしました。比較的文字量も多いのですが、読んでおもしろい、ガッツリ読ませるビジネス書ということで、「分厚くても敬遠されない翻訳書っぽさを出したらいいのでは?」というエージェントからのご提案もいただき、最終的にこのタイトル、装幀になりました。
───本書はどのような方に読んでもらいたいと思われますか?
森:仕事にしろ、勉強にしろ、趣味にしろ、何か目標があったり、これがどうしてもやりたい、やり遂げたいと思っている方々に読んでいただきたいと思います。
───普段、書籍の企画を考える際、どんなことを大事にされていますか?
また、今後手がけてみたいテーマがあれば、教えてください。
森:著者の方に「何を教えてほしいか」「自分ならどんなお話を聞きたいか」ということでしょうか。読者の方々を想定して企画を立てることが、とても大事だとはわかりつつ、やはり、まずは、自分がどれだけときめくか、気持ちが熱くなるか、というところからスタートしています。
でも、何より著者の方がときめいて、熱くなってくださる企画をご提案できることが目標ですし、それによって、最終的に本を買ってくださる方々へも熱が伝わっていくことを目指さなければと思っています。
関わってみたいテーマはいろいろありますが、エンタテインメントに興味があるので、広く、その業界にかかわるテーマで本を作ってみたいですね。
───本作りにエージェントが関わることのメリットにはどのようなことがあると思われますか?
森:著者と1対1で直接本をつくるのとは、また違った本づくりができるということでしょうか。
エージェントとお仕事をさせていただく際は、要所要所で議論したり、客観的なご意見をいただきながら進めていくので、おそらくは、著者の方も書きながら考えが広がりますし、編集者としても第3者的な目線を持ちやすくなる、ということがあると思います。
───最後になりますが、ビジネス書作家を目指すメルマガ読者のみなさまにメッセージをお願いします。
森:初めて本を書かれる著者とお話をしていると、当たり前のこと、ご自身にとっては自然すぎて、スルーしていること、特別に意識していないことが、実はご本人以外の人たちにとっては、とても貴重な「材料」だったりするということがよくあります。
ときに、それはご自身が伝えたいと思っていることと少し違っていることもあったりします。
それを見つけるのが編集者の仕事だと思いますが、編集者を含め、周りの人たちがご自身のどんなお話に興味を持っているか、どんな話をしたときに驚いたか、どんな質問を受けるか、というような他人の「声」に耳を傾けていただくと、ご自身の発信したいことに加えて、さらに、魅力的な材料が見つかったり、おいしい調理法がみつかるのではないでしょうか。
───森さん、ありがとうございました!
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