書籍づくりの現場ではどのような作業が行われているのか。実際に本を出版した著者と、その担当編集者のインタビューを公開します。企画の経緯から執筆・編集・デザイン・売り方まで、生の声をお届けします。
書籍:仕事ができる人は店での「所作」も美しい
仕事ができる人は店での「所作」も美しい 一流とつき合うための41のヒント
朝日新聞出版 (2015-05-20)
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あなたの評価は、会社の外で決まる。いい店・宿の見つけ方、常連への第一歩、老舗での振る舞い方、スマートな支払いの仕方、上手な誘い方・断り方・帰り方……。元「日経トレンディ」編集長で、国内外の名店・老舗を20年以上訪ね続ける著者が教える、いまさら聞けない、でも知らないと恥ずかしい、飲食店・バー・ホテル・旅館での振る舞いの勘どころとは?仕事と人生を充実させる異色のビジネス書。
著者:北村 森(きたむら・もり)さん
1966年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、92年に日経ホーム出版社に入社。20年以上にわたり、鮨屋や割烹、レストランなど数千軒の実力店に足を運び、また、老舗旅館や一線級ホテルの覆面宿泊チェックを続けるなど、取材・執筆活動に勤しむ。「日経トレンディ」編集長を経て、2008年に独立、商品ジャーナリストとしての活動をスタート。原稿執筆、メディア出演、商品づくりを通した地域おこしのアドバイザーとして活躍している。サイバー大学客員教授。著書『途中下車』(河出書房新社)は14年にNHK総合テレビでドラマ化。
北村森さんホームページ:http://mori-marketing.com/
───北村さんがこれまで数多くの割烹やレストラン、旅館、ホテルに足を運ばれたご経験から、本書が誕生しています。
あらためて、これまでどのようなお仕事をされてきたのか、教えていただけますでしょうか?
北村 森さん(以下、敬称略):いわゆる「覆面チェック」に長年携わってきました。雑誌の編集記者として家電製品やクルマ、食品、ときには生命保険なども含め、さまざまな商品のテストを手がけてきましたが、そのなかのひとつが「ホテル」「旅館」「飲食店」のチェックだったんです。
客の立場で店などを訪れ、こちらがおカネを支払って、取材とはまったく告げずに調査を進める仕事です。
───ブログで「本書の企画を編集者からもらったときに躊躇した」とありましたが、最終的にご執筆されようとお考えになったのはなぜでしょうか?
北村:躊躇したのは、「私ごときが、たしなみや立ち居振る舞いのことを語るなんて、おこがましいにも程がある」という気持ちからです。それでも原稿に立ち向かったのは、「次の世代の人に、伝えるべきことを伝えよう」と覚悟を決めたから。
会社員だった立場から退いて独立した後、自分でも不思議だったのは「あれ? 自分って、後進を育てることが好きだったんだ」と気付いたことでした。
雑誌編集長だったころは、部下を育てることに四苦八苦していて、しんどいなあ、と感じることしばしばでしたが、「嫌いじゃなかったんだ」と、部下のいない身になって、初めてわかりました。
まあ、編集長のころは口うるさい上司だったかも、という反省もあったので、本書ではできるだけ優しく(易しく)綴ろうと意識はしています。何より、私自身の失敗談を隠すことなく書ききろうと考えたのは、そのためです。
───本書タイトルにもありますが、「仕事ができる人」=「店やホテルで過ごす場面での所作が美しい」と思われたエピソードがあれば教えてください。
北村:鮨屋での注文が、職人の間合いにすっと入る見事なタイミングで、しかも「イカにエビ、そして小柱」というふうに五七調だったお客。これ、相手のことを考えているからできることでしょう。五七調だと、注文を受けた職人も覚えやすいですしね。こういうことをさらりとできる客になりたいなあ、と。
───巷にマナー本は多数ありますが、なかでも本書は仕事に通じる「所作」として、接待時に活きるお店の予約の仕方、服装、きれいな食べ方、スマートな支払いの仕方など、ビジネスパーソンがすぐに使えるノウハウが詰まっています。
北村さんは、本書をどのような方に読んでほしいと思われますか?
北村:「上司ばかりが高級な店に行って、自分はそんな経験、ろくにないなあ」と感じている20〜40代の方、すべてに、ですね。いざという勝負の場面は、文字通り突然に訪れます。仕事であっても、プライベートでのある瞬間であっても……。
あらかじめ、本書に目を通してくだされば、悩まなくて済むと思います。
───一流の割烹や鮨屋に一見の客として行った際、どのように振る舞えば美しいでしょうか。また、NGな振る舞いについても教えてください。
北村:自分をおおきく見せようとしないことです。でも、私自身、いまだにやらかしちゃうことがあるので、これは反省です。自分をおおきく見せようとしてしまう振る舞いの愚かさについては、本書で数々綴りました。慣れない店を訪れるときは「ああ、美味しいものが食べたい」という気持ちを、ただただ抱くことが基本かもしれません。そうすれば、おのずと余計なことはしなくなります。
───北村さんには雑誌編集長のご経歴がありますが、書籍執筆にあたり何か苦労されたことはありますか? その際、編集者やエージェントからはどんなアドバイスがありましたか?
北村:ひとつのテーマで1冊を書ききるのって、やっぱり難しい。出版社とエージェント、2人の担当者の応援あってこそ、最後まで綴ることができました。
「これはマナー本ではなくて、ビジネス書です」「マナーの話をとっかかりにして、それが仕事の場での話にどうつながるのかを意識して、原稿をまとめてください」という言葉は、本書を完成させるまでの、おおきな道しるべになりました。
───本書の発売後、周囲やネット上などで、どんな反響がありましたか?印象に残る感想や意見などがありましたら、教えてください。
北村:放送局出身のクリエイター「僕のコンプレックスへの処方箋」。
歯科医師「大切な人をもてなすために必要な心構えとは何かがわかる」。
割烹のご主人「お客様に伝えたいと思いつつ、本音では言えなかったことを綴ってくれている」……。
一つひとつが、とてもありがたい言葉でした。
───原稿内容を多くの方に理解していただくために、ご執筆の際に注意していること、気をつけていることはありますか?
北村:その答えは明快です。「難しい言葉を使わない。できるだけ簡単な言葉で綴る」。若いころは意気がって、自分が賢く見られたいものだから、難解な単語を背伸びして使っていました。
それじゃダメだと気付いたのは、40代に差し掛かるころだったと思います。平易な単語だけで原稿を綴りきりたい、そのほうが読者のみなさんに文意がより伝わるのだ、と考えるようになりました。
───今後、手がけたい書籍のテーマがあれば教えてください。
北村:私の本業は、消費者向け商品の分析・評価です。商品づくりの現場の息吹を伝える一冊は、ぜひ手掛けてみたい。
また、商品づくりそのものに関わる話でなくても、仕事に立ち向かうなかで直面する修羅場を、人はどう乗り越えていくのか、については、引き続き学んでいきたい。
いつか形にできたらいいな、と思います。
───最後になりますが、著者デビューを目指す読者のみなさまに、メッセージをお願いします。
北村:私自身の経験を話しますと、「この一冊を世に出さないと、自分は前に進めない」という気持ちを強く持ち続けられたのは、おおきかった。
前著の『途中下車』(河出書房新社)は、そうした思いをずっと抱いていた結果の刊行でした。
担当者がずっと寄り添ってくださったからこそ、この一冊を世に送り出してもらえ、テレビドラマ化にもつながりました。
そうした意味では、ご自身の気持ちを、担当者に丁寧に伝えきることが、最初の一歩とも言えるでしょうね。
───北村さん、ありがとうございました!
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