CDの作り手と聴き手の間

女子ウケ重視。クラシック音楽をオススメする正しい方法とは。

例えばあなたの恋人やパートナーが「私もクラシックを聴いてみたい」なんて嬉しいことを言ってくれた時、あなたはどうしているだろうか。

まさかしょっぱなからブルックナーのスコアを出したりはしていないだろうが、そこでベートーベンのシンフォニーなんかをオススメしたりするのは大間違いである。

ましてや「ベートーベンがわからないようじゃ」なんて言ってしまったら、もう二度とあなたの趣味を理解してくれる日はやってこない。

一緒にコンサートにも行ってくれないばかりか、最悪の場合、あなたの素晴らしいCDコレクションをメルカリに出品されるようになる(実話)。

そんな危険を回避して、さらにパートナーと少しでも音楽の趣味を共有できれば、人生はもっとハッピーだ。

今日はクラオタ男性諸氏へ、女子ウケを重視した、正しいクラシック音楽のススメ方をお伝えしたい。

 

 

女性はショパンやドビュッシーのピアノが好きなんでしょ? はい、その考えは安直です。

クラシック音楽をちょっと聴いてみたいけど、何がいいかなと女性に聞かれた時に、ピアノの曲が無難だろうとショパンやドビュッシーなどをまずは勧めるあなた。はい、もう間違いです。

たしかにショパンやドビュッシーは女性に人気があります。

だからこそ、女性がクラシックを聴いてみたいと口に出した時には、すでにそんなピアノの曲は聴いたことがあるわけです。

ここであなたが答えるべきは、オケの曲、交響曲や協奏曲なのです。

クラシックに親しんでみたくても、敷居が高いのがこのフルオーケストラなのですから。安易にショパンのCDを渡さないでください。

 

自分の好きな交響曲だと、やっぱりマーラーだけど?はい。そこも間違っています。

オケの曲を紹介してくれと言われたとしても、そこでベートーベンやマーラーやらの交響曲のCDを渡してはいけません。

始めから聴いてみてなんて言って、その次にどうやってそこから次の会話に繋げていくのか、そこまで考えていますか?

女性にクラシックを勧める時に、男性側が一番欠落しているのはその視点なんです。

CDを返して、「どうだった?」と聞かれたら、ああああワタシはどう答えればいいんでしょうか。

生まれて初めてまともに全部シンフォニーのCDを聴いた、もとい、CDをかけたのに。

とりあえず全部聞いてはみたけど、なんだかよく分からない上に、途中で寝ましたなんて言えるはずないじゃないですか。

どの楽章のどこがよかった?とか言われたら、もう走って逃げて帰りたいですね。

そもそも楽章ってなんだって話です。

そこでもしやあなたは、何楽章が何調で、なんちゃらフィルがどうで、指揮者はこうこうであああああああああ、もうやめてー。

オケの曲をお勧めしてほしいとは言いましたが、そうやってCDを渡しただけで、専門用語で追い込むと、また元の黙阿弥なのです。

 

クラシックを通して知りたいのは、音楽史じゃない

ショパンもダメ、ベートーベンやマーラーのCDを渡すのもダメとなったらどうすればいいのか。

はい、そこですね。

少しでもあなたの音楽趣味に興味を持ってくれている女性が知りたいのは、

その作曲家の音楽史上の位置付けのことでも、シンフォニーの楽典的意味でもありません。

「音楽を通してあなたのことが知りたい」のです。

この曲のどんなところが好きなのか。なぜクラシックを聴いているのか。そこにどんな魅力を感じているのか、そこが知りたいわけです。

理解すべきは、マーラーの作曲法でも妻アルマとの関係でもなく、あなたとワタシの関係なのですから。

 

女性の共感力を味方につける

女性は共感のいきものだそうです。「かわいい」「すごい」「ひどい」と相手と一緒になって同じような感情を共有するのが得意です。

さらに、切なさや、悲しさ、さみしさなど、感傷的なものであればあるほど、心を大きく揺さぶります。

その特性を大いに利用してください。

例えば、交響曲を最初から聞かせるのではなく、「ぐっとくる」箇所の「ここ!」という小節から聞いてもらうのです。

youtubeの動画なら、ピンポイントのタイミングURLを送りましょう。

オススメはなんといっても、ラフマニノフの交響曲第二番ホ短調Op.27 の第三楽章です。これが嫌いな女性はいません。

マーラーを聞かせたいなら、もうダントツ人気なのは、もちろん交響曲第5番第四楽章アダージェットです。

美しく、切なく、甘いこんな曲を、クラシック音楽の最初の一歩に聞けたら、きっともっとあなたのことも知りたくなるでしょう。

そして、「どうだった?」と尋ねる代わりにぜひ、「すごく美しい曲でしょう?僕もすごく好きなんだ。これを聞くと、何か幸せな気持ちになるんだよね。」と、自分の感情を表す単語だけを使って会話を始めてください。それだけでもう、なんだかとってもいい感じです。

 

それでもきちんと最初から聞いてほしいという、頭の固いあなたへ

交響曲を最初から聞けないなんて、そんな人にはどうせクラシック音楽の良さなんて理解できない、という頑固なあなた。

そんな人には、グリーグのピアノ協奏曲イ短調作品16がおすすめです。

悲劇っぽい冒頭から始まって、次第に上昇していくドラマティックな展開のこの曲を好きな女性は非常に多いのです。

エモーショナルな雰囲気を持つ楽曲なので、女性の感情の起伏にマッチしているのかもしれません。

初心者の女性が最初から聞いても飽きない、オススメの一曲です。

 

 

クラシック音楽を好む男性の言い分として、「どうせわかってもらえない」という半ば諦めの言葉をよく耳にします。

その気持ちはわからなくもありませんが、ほんの少しだけ工夫して会話すれば、きっともっと、二人で楽しめる趣味になるに違いありません。

少し興味を持ってくれた後で、ゆっくりと楽器や作曲家話、そして音楽理論や演奏評論をしてください。

コンストラクティブに話をする男性の横顔は、それはそれで、魅力的ですから。

 

ちなみにベートーベンですが。

この話をまとめていくうちに、なぜベートーベンの交響曲が初心者女性ウケしないのか、ひいてはなぜベートーベン本人が女性に縁遠かったのか、ちょっと気が付いたことがありました。

それはまた別の機会に。

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渋谷ゆう子

作曲家・渋谷牧人のレーベル「Nomius Nomos」マネージングディレクター。アルバム制作や演奏会企画運営を手がける。プロアマを問わず演奏家とのつながりが深く、自主制作アルバムの支援も行っている。ワルター/ウィーンフィル/マーラー9番/1938年がお気に入り。3児の母。

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