書籍づくりの現場ではどのような作業が行われているのか。実際に本を出版した著者と、その担当編集者のインタビューを公開します。企画の経緯から執筆・編集・デザイン・売り方まで、生の声をお届けします。
書籍:交渉で負けない絶対セオリー&パワーフレーズ70
ダイヤモンド社
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著者:大橋 弘昌(おおはし・ひろまさ)さん
米国ニューヨーク州弁護士。日本国外国法事務弁護士。
1966年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、サザンメソジスト大学法科大学院卒業。西武百貨店商事管理部、山一證券国際企画部を経て渡米し、ニューヨーク州弁護士資格を取得。米国の大手法律事務所ヘインズアンドブーン法律事務所に5年間勤めた後、2002年に大橋&ホーン法律事務所を設立。現在、ニューヨーク、ダラス、東京の3都市に事務所を構え、日本企業の在米現地法人を中心に、100社以上のクライアントを持つ。
著書に『負けない交渉術』『負けない議論術』(共にダイヤモンド社)がある。
───大橋さんはこれまでも、『負けない交渉術』(ダイヤモンド社)のように、交渉術をテーマとした著書を執筆されています。
今回、なぜまた交渉術に関する本を出版されようとお考えになったのでしょうか?
大橋 弘昌さん(以下、敬称略):今や、多くの日本人ビジネスマンにとって、交渉術は身につけるべきスキルといえるでしょう。
ところが、以前の日本社会では、国際社会に比べて日本に住む日本人のほとんどが共通の価値観を持って社会生活を営んでいたため、交渉を行う必要はありませんでした。
同じ“ムラ社会”の日本人同士、話し合う前から落としどころがわかっていたためです。
したがって、ほとんどの日本人は、学校や会社においても交渉術を学ぶ必要はなかった。
しかし、日本社会も遅ればせながら国際化が進んできています。
一方、例えばアメリカ人は、幼少の頃から学校で交渉術を学び、また社会に出てからも日常的に交渉をしています。これから我々日本人は、そういった外国人たちを相手にビジネスをしないといけない。
自分は海外に行かないから関係ないという人もいるかもしれません。しかし、実際には、そういった方々にとっても、交渉術を身につけることは大事になっています。
以前と比べて、日本に来る外国人旅行者や出張者が多くなり、また日本に住む外国人も増えてきました。それにつれて価値観の多様化が進んでいます。価値観が多様化した社会においては、交渉を経ないと物事が決まりません。
物事が自分に不利に決まらないようにするには、交渉力が必要なのです。
そこで私としては、日本人にとって交渉術が大事であることを訴えつづけたい、また読者がより理解しやすい形で交渉術を身につけるのに役立ちたい、そう思うようになりました。
───それが、本書執筆に繋がったのですね?
大橋:そうですね。最初の2冊、『負けない交渉術』『負けない議論術』(共にダイヤモンド社)を出してから、交渉について話をすることが多くなりました。
交渉をテーマに講師を頼まれることもしょっちゅうあります。そういった講演では、例えば、「より具体的に、交渉における発言の仕方を教えてほしい」といった質問を受けます。
「『ノーと言わずに、イエス、イフと言え』とは、どのような場面で、どのように発言するのがよいのでしょうか」といった質問です。
そのような質問を何度も受けているうちに、「次に本を出すときは、各トピックの終わりに想定問答を記した本を出したい」と思うようになり、今回の執筆にいたったわけです。
───本書で、大橋さんはもともと自己主張をするタイプではなく、交渉術を得意とされていなかったとあり、とても意外でした。
交渉は性格や向き・不向きではなく、ノウハウを知っているか否かが重要だということですが、大橋さんがお考えになる交渉ノウハウで、一番大切なポイントとは何でしょうか?
大橋:大事なポイントはたくさんありますが、強いて一つだけ挙げるならば、『相手の主張に賛成しながら有利な方向へ話を導け』でしょうか。相手の主張に賛成するのであれば、できることなら人との対立を避けたいと考えているような人でも、実行可能ですね。
「ありきたりの商品だ」と言われたら、「いや、ありきたりではありません」と反論するのではなく、「おっしゃるとおり、ありきたりの商品です。しかし、だからこそ(今までのヒット商品を踏襲した)この製品は売れるのです」と、相手を導いていきます。
こういったことを言えるか言えないかで、交渉の行方、つまりビジネスの成否は決まるのです。
───本書は、ビジネスの場だけでなく、買い物や家賃交渉など、普段の生活のなかで誰もが直面する“交渉の場”が事例となっており、セオリーごとに“パワーフレーズ”という具体的な交渉例も紹介されていて、すぐに実践で使える構成が印象的でした。
あらためて、本書はどのような方に読んでもらいたいと思われますか?
大橋:国際ビジネスに関わる機会があるビジネスマンはもちろんですが、日本に住んでいて自分は海外とは関わりがないと思っている方々にも読んでいただきたいですね。
「交渉は難しい」というイメージを持つ方にもとっつきやすい内容にすべく、なるべく自分の実際の経験を例に引きながら、わかりやすい文章で説明するよう心がけました。さらに読者の方には、ご一読いただいた後、ぜひ実際にパワーフレーズを試していただきたいと思っています。
───本書執筆にあたり、内容の構成や文章の書き方など、何か苦労されたことはありますか?
その際、編集者やエージェントからはどんなアドバイスがありましたか?
大橋:私は、弁護士として文章を書くときには、一つ一つの文章を、読者が一読しただけで誤解することなく、主語や目的語をしっかりと理解できる文章にするように心がけています。
しかし、そう心がけているために、一つ一つの文章にいちいち主語や目的語が入りがちで、そのため全体として文章表現がくどくなることがあります。
今回そういった指摘を編集者やエージェントから受け、手直しを入れました。読み物としての読みやすさを優先させることについて、やはり編集者やエージェントは長けていますね。
───本書の発売後、周囲やネット上などで、どんな反響がありましたか?
印象に残る感想や意見などがありましたら、教えてください。
大橋:自己PRになってはいけないので、控えめに申し上げたいのですが(笑)、交渉術に関するノウハウ本が多くある中、「アメリカにおけるビジネス交渉の場面での、自分の実践に裏づけされた交渉術ゆえにわかりやすいし、説得力がありますね」と言われたときには、やはりうれしかったですね。
───企画のテーマを考えるうえで、どんなことをヒントにされていますか?
また、次回はどんなテーマについて執筆したいと思われていますか?
大橋:アメリカで主にビジネスを通じてさまざまな国の人たちと交流していると、日本での常識が世界の常識でないことがたくさんあることがわかります。
それらについて、私は今まで、交渉という切り口にて発信してきました。例えば、(交渉は)「高いところから始める」はその一つです。
ただ実際には、交渉の場面に限らず、もっと広いビジネスシーンにおいて、さらには日々の生活において、さまざまな外国人の行動や考え方に接しています。そして、それらは今後のさらなる日本企業や日本人の国際化にとって役立つかもしれないと思っています。
次は、そういった行動や考え方を、日本人ビジネスパーソンに紹介するような本を書いてみたいと思っています。
───これまで3冊のご著書を出版されて、ご本業やその他について、どのような影響がありましたか?
また、1冊目、2冊目と出版を重ねるなかで得られる気づきにはどのようなものがありましたか?
大橋:本を出版することの魅力は、自分が会ったことのない人にも自分の考えを伝えることができることにあると思います。
最初の本を出版後、ありがたいことに多くの読者の方々からレターを受け取りました。そして、その多くに「本に書かれていることを試した」と書いてある。幸いにも「うまくいった」と好意的なものばかりでした。
しかし、自分の知らない人が本に書かれていることを実践している、ということを改めて認識し、「これは、よくよく考えると、責任重大だな」と思いました。
それ以降、常にそういった意識を持って、改めて軽々しいことは書かないように心がけるようになりました。もちろん、そのことは本業にもプラスの影響を与えています。
───最後になりますが、ビジネス書作家を目指すメルマガ読者のみなさまにメッセージをお願いします。
大橋:誰でもご自分の仕事や生活を通じて、他人は得られない、独特な経験や知識を得ているはず。
そうやって得られたものは、自分が思う以上に価値のあるものかもしれません。
それらを体験談の形で、他人がどう役立てることができるだろうかと意識しながら、文章にしてみれば、魅力的な本になるかもしれません。
───大橋さん、お忙しいなか、本当にありがとうございました!
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