ラブ魔窟を闊歩する妖怪男を筆圧で滅する人気ブロガーのぱぷりこさんと、女のプロとして知られる川崎貴子との対談を全三編でお送りします。前編はぱぷりこさんの新刊「妖怪男ウオッチ」をもとにわくわく魔窟ハイキングの旅に出かけます。
(聞き手・文/執事)
川崎貴子(以下、川崎):いやあ、「妖怪男ウオッチ」とても面白かったですよ(溜息)。
ぱぷりこ:ありがとうございます。
川崎:先に個人的に一番笑ったところをいいですか?……これ!「俺とすごい他人との間を高速で反復横跳びをし続けるためだんだん残像が混じって」っていう男性。
ぱぷりこ:『知り合いがすごい男』ですね(笑)。
俺の知り合いがすごい、仲間がすごい、クライアントがすごい、よって俺もすごいという反復横跳びを繰り返して、自身のプライドをエクステンションする男(妖怪男ウオッチP130)
川崎:このイリュージョンはすごいよねえ。
ぱぷりこ:自分の話はいっさいしていないのに、語り部が優秀なためにすごい気がしてくるんですよね。
川崎:嘘じゃないんだろうし、まあまあすごいんだろうなあって。俺、クライアント、俺、マネージャー、俺、有名人、俺、VIPって。反復横跳びって(笑)。本当に久しぶりに声を出して笑いました。いるよねえ。私は25歳で社長になってるからこういう人たちに出会うのってあんまりなかったの。社長の名刺をつくった途端にその人たちが周りからわーっと消えて……。
ぱぷりこ:名刺が結界であり、悪霊退散のお札代わりになったわけですね(笑)。
川崎:だから遠い昔にしか見たことがなかったのね。でも、今もその存在は変わってないのね?
ぱぷりこ:そうなんです。恐ろしいことに今の若い子に話を聞いても変わらないんです。一定数いるんですよ。
川崎:私は今魔女のサバトで婚活女性の相談に乗ってるから、あっ君も出会ってしまったのねって。聞いてて、懐かしさすら覚える。
ぱぷりこ:時空を超えた一種の同窓会みたいですね。
川崎:まだ生息してたのか、進化してなかったのかっていうのが。この『不倫おじさん』もそうだし、この『スタンプラリー男』もいたし!なので今日はもうちょっと詳しく、このまったく進化しない迷惑な男たちの分類を教えてほしいなと思っています。例えばこの人たちは昔からいるけど、この人たちは新しいよねみたいなのを。
「不倫は文化事業」タイプと「だっていつまでも恋したい☆」という少女マンガ脳タイプに大別される男。共通して不倫は貞操義務に反するという認識や、家族を傷つけるという罪悪感がない。(妖怪男ウオッチP90)
質より量!さらなる量!一心不乱の量!を追い求めるヤリチン男。「ヤらないの?ヤリたいよね!ヤるでしょ!ヤればいいよ!ヤろうよ!」の五段活用を駆使する。(妖怪男ウオッチP52)
ぱぷりこ:年代による詳細分布までは書いているときには考えていませんでした。自分がアラサーなので、自分と周囲の経験、オンラインでの婚活女性からの相談が主な実測データになります。そうすると、アラサーがボリュームゾーンになります。年代というよりも「妖怪男」と呼ぶ人たちが持つ特性でマッピングしています。性欲ドリブンなのか、プライドドリブンなのか、あるいは依存欲なのか。なので書籍の最初に妖怪男分布マップがついています。
川崎:なるほど。
ぱぷりこ:例えばベースに男としてのプライドの強さがある場合、男のプライド+性欲で、『港区の男』とか『セフレ牧場経営者』とか、わかりやすい遊び人タイプの男が出てきますね。
東京都港区ではなく、札束でなぐりあう修羅の国「港区」に生きる男。金と美を等価交換する世界で恋愛は「より市場価値の高い女を手に入れた俺」というステータスを補強するオマケ。(妖怪男ウォッチP188)
本命彼女を作らずに複数のセフレをゲット&キープする男。口にした瞬間に呪いが発動される「彼氏みたいな人はいるんだけど……」の相手役として不動のナンバーワンのポジションを築く。(妖怪男ウォッチP40)
ぱぷりこ:単純な性欲ドリブンではなく、女を見下すことで安心感を覚えたいといった男尊女卑が入ってくると『プライド山男』とか、『恋心の搾取地主』とか。
自分より下の女性を見ることで安心し、自分もプライドを保つ男。山から下界を眺めて「俺より下がこんなにいる、俺はすごい」とホクホクしている。(妖怪男ウォッチP116)
女性からの好意を得ることで自信のなさを埋め、男としてのプライドを回復しようとする男。付き合うつもりがない女からも恋されていたがる。(妖怪男ウォッチP074)
川崎:そうそう、恋心の承認欲求男子がいたよね。それは地主男かな?
ぱぷりこ:はい。恋心の搾取地主ですね。
川崎:あと「僕を救ってね」っていう男とかって、私が若い頃はあまりいなかったような気がするんだよね。最近は多いのかな?
ぱぷりこ:時代の変化で、男のプライドだけでは生けていけないから「男のプライド」を捨てることはできたけど、パートナーシップではなく「依存」まで突き抜けてしまったのが『僕を救って男』です。女性を崇拝することで、依存を正当化しているのが特徴です。パートナーシップ上での「頼り頼られ」という範疇を超えて「自立した女性に救ってもらいたい」とか「自分を楽な方に導いて欲しい」という気持ちが全面に出ている。
コンプレックスや悩みから自分を救ってくれる女性を探し求める男。自分にとって魅力的な知識や経験を持つ女性に出会うと「あなたは僕を救う女神だ」と信仰告白をして崇拝する。(妖怪男ウオッチP152)
川崎:なるほどね。このタイプはけっこう新しいなと。昔から生息していたけど見えてなかったのかな?今はそれを表に出してもいい時代になったのかなという気もします。「第二のママ」は今も昔も相当数いそうだよね。バレてるバレてないは別として。
ぱぷりこ:『第二のママ錬精術師』は古代からいる伝統のマザコンですね。クラシックー!と叫びながら書きました。(笑)
自分の彼女に「ママと同化してほしい」と望む男。自分と恋人間との事柄にママを介入させ、相手を言いくるめる根拠としてママを利用する。(妖怪男ウオッチP164)
川崎:伝統だよね。あとはプロデューサー風な男の人たちも昔からいっぱいいたじゃない?芸能界隈を中心に。
ぱぷりこ:『君は見どころがあるね男』ですね!教祖系もまた信頼と実績のある老舗ですね。
自身の能力や名声でファンの女子を引き寄せて「ファン食い」する男。金や顔面や体ではなく、言葉で女を落とす。外見はどこにでもいる普通の男性だが女性が途切れない。(妖怪男ウオッチP176)
川崎:女性の仕事のジャンルも多岐にわたったが故に、さらにプロデューサー男のジャンルも増えるというか……。「ディスり芸人」とかもね。
ぱぷりこ:『ディスり芸人』は、生息数が多くエンカウント率が高いかもしれません。「お前、ばかだなぁ(笑)」っていう、小ばかにするコミュニケーションが基本。いじられるのが好きっていう女の子はけっこういて、最初はいじりによる「特別感」で高揚しますが、次第に傷ついていく。でも「この人はかまってくれるし……」「私のダメなところを言ってくれてるなら受け止めなきゃ」とマイナスをプラスに理解してしまったり、真面目に受け止めてしまうことで、どツボにはまってしまう。
冗談でいじっているふうに見せながら空から降り注ぐ1億のディスを繰り出し、自尊心をじわじわと削ってくるモラハラ男。(妖怪男ウオッチP202)
川崎:ひどいよね、この例。本当にこれを読んでるときに、もう私の中の何かが暴動を起こしそうな感じでした。インタビューでお相手の方にぱぷりこさんが「はあ?」って言っているのはすごいよくわかる。
ぱぷりこ:私もその場で燃やしたくなりました。伝統芸能的に考えると、奥さんを「愚妻」とか「うちの嫁は何もできなくて」とか「こいつ何もできないんです」って紹介するタイプですね。周囲が困惑するのにずっとばかにし続ける人。割と想像しやすいのではないでしょうか。
川崎:ディスるコミュニケーションって相当スキルが必要なのにもかかわらず、それをいわゆるテレビの芸人さんがやっているから自分もできるんじゃないかって行動しちゃうその錯覚が怖いよね。
ぱぷりこ:怖いですね。
川崎:それはすごく相手のメンタルを落とす……。特に付き合ってる女性だったら、気がつかないうちに負の言葉を浴びてるっていうさ。
ぱぷりこ:恋人という存在によって自尊心が削られるので、周囲が「おかしくない?」ということに本人は気づけなくなってしまう。軽い洗脳状態です。ディスり芸人に限らず、妖怪男はマインドコントロールスキルが高い人たちです。本にまとめて読むと、「いるいる~」と気付くのと同時に「この男ヤバくない?」「ありえないよね?」って客観視して見れると思います。でも、自分が相手を好きでかつ単一のコミュニティにずっといると、気づけない。
川崎:そうなんだよね。サブリミナルに「いやいや君が悪いでしょう?」とか、「駄目だよ、それは感情的だよ」って言われると、そうかあって思うもんね。
ぱぷりこ:女性の側が「そうかあ」って思ってしまう、この恐ろしいトリックが妖怪男を生み出す土壌ですね。
川崎:そうだよねえ。また彼らがそういうね、良くも悪くもぱぷちゃんとか私とか、男性のロジックを破たんさせるような女には絶対に来ないわけですよ。
──『トラウマ吟遊詩人』の方とかはお二人にはアプローチされないでしょうね。
過去のつらい恋愛経験を語ることで女心をくすぐり、複数の女たちと体の関係を持つ男。己の身に起きた悲劇の物語を語る技を繰り出す点で、他のヤリチンと一線を画す。(妖怪男ウオッチP62)
川崎:彼らは自分の捕食できるターゲットを捉えるのがうまいよね。本にはそのターゲットも細かく書かれてるんだけど、本当によく見つけるものだと感心するよね。
ぱぷりこ:見つけますねえ。私、妖怪男のことは、トリュフを見つける豚だって思っています。鼻が利く、うまいなあって。
川崎:嗅ぎわけるよねえ。
ぱぷりこ:妖怪男は「こいつには駄目」というのにも敏感なんですよね。そもそも、相手に怒れる女性っていうのは、「怒る」という反撃に出れるので、失礼なことをしてはいけない人だと思わせるバリアが強い。そうすると妖怪男も寄ってこない。もし寄ってきても離れていく。
川崎:確かに。
ぱぷりこ:また、自分のイメージをつくるのがうまい人が妖怪男には多いです。トラウマ吟遊詩人は「過去の恋愛で傷ついた俺」を演出していますが、『コンサル男』、『自称ロジカル男』も「常に正しい俺」の演出がうまい。こう見られる俺という演出ができるんですね。
すべての人間関係にロジックとコンサルテクニックを適用させる、ロジカル至上主義男。立てばMECE、座ればファクト、歩く姿はデリバーバリュー。感情などある方が負け。(妖怪男ウオッチP14)
自称「論理派」なものの、実際のところは論理破綻している男。常識・論理的に正しいという態度で詰めより相手を混乱の渦に落とす。彼らの論理は相手を黙らせる詭弁である。(妖怪男ウオッチP28)
川崎:そう。だからどんどん女性たちは騙されてしまうし、数こなせるからうまくなるんだろうね。
ぱぷりこ:そうなんです。演出がうまくなるので、さらにそこに惹きつけられる女性が増える。「俺はこういう人間です」という像があれば、そこに寄ってくる女性のターゲッティングもできますよね。トラウマ吟遊詩人のエピソードで書いた女性はバリキャリだったんですけど、「彼は私には心を開いてくれてる」って思ってしまった。そして、彼を支えたいと献身性を引き出されて尽くそうとしたら、裏では彼はみんなに同じことをしていた。
川崎:そうだったね。妖怪男が鋭いなと思ったのがね、そういうバリキャリの女性たちこそ、自分が女を忘れて仕事をしていることだったり、家のことをちゃんとやってないことだったりに負い目を感じてるじゃない。その負い目につけこむっていうのが本当にもう悔しいったら。
ぱぷりこ:そうなんです。第二のママ男とかもバリキャリのしっかりしたお姉さんが世話をしていたりするんですね。掘り下げて聞いていくと「あれ、お子さまの話ですか?」みたいな幼稚な相手が多い。家事を全部彼女に丸投げは当たり前で、彼女が遅くに疲れて帰ってきても自分は何もせずテレビを見ているみたいなテンプレなエピソードが聞こえてくる。
川崎:そういうやってくれる女性を見つけるのが本当にうまいんだよね!トリュフを見つける鼻が生まれたときから備わってるわけじゃないだろうに、本能でそれに近いことができるわけじゃない。すごいよね。職業柄っていうものでもないもんね。
ぱぷりこ:そうですね。もちろん、職業的なカテゴライズもありますが、職種ではなくて本人の特性で考えたほうがいいですよね。例えば、俺の知り合いがすごい男は、職業的には広告代理店の人に多いイメージだと思います。事実ありがちな話なんですが、ラベリングしてしまうと「彼は代理店の人じゃないから大丈夫」みたいな、謎の判断につながってしまいます。
川崎:確かに。それは危険なラベリング。
ぱぷりこ:あるいは「彼は公務員で根も真面目な人だから、そんな人じゃない」という思い込みとか。でも彼が公務員であることと、謎ロジックで自分を装飾する癖があることに直接のつながりはないですよね。
川崎:なるほどねえ。ああ、自称ロジック男やコンサル男が目の前に現れたら、そのロジックツリーをけちょんけちょんに燃やしてみたい(笑)。
———自称ロジカル男という定義への反応はSNS上でもしばしば見かけました。分母が大きいのかもしれませんね。
ぱぷりこ:書籍への感想でも、「あいつは自称ロジカルだった!」という反応はけっこうあったので、やはり母数が多いんでしょうね。
川崎:それって鎧なんだろうね、彼らにとっては。僕は感情的ではないっていう。前に私がブログでも書いたんだけど、彼らがなんで依存性の高い女の人を選んでしまうかというと、自分が優れている人間だと確認できるからなんですよね。自分が理知的であり理性的であると思いたい。
ぱぷりこ:そう振る舞える人、思わせてくれる人じゃないと一緒にいれない。
川崎:それで相対するのがぱぷちゃんだったりすると、はあ?っていう顔をされてしまう。検証されちゃうじゃない。そうされない人を一生懸命探す。自分がロジカルでいられる人を見つけたいんだよね。
ぱぷりこ:自称ロジカル男のことを、彼女が本当に理知的に思えるなら悪くはないんですけどね。例えば、「自分に依存してくれるくらい自分を好きになって欲しい」という女性もいますよね。そういう女性は僕を救って男でも問題はないし、あるいは第二のママ男もママと比べられる瞬間は嫌だと思うけど、それ以外は浮気もないし基本はジェントルだし、いい男になる可能性はあるわけなので。
川崎:なるほどね。彼のママには一生勝てないけど、でも搾取男よりは幸せになる可能性もあると、人によっては。
ぱぷりこ:あります。
川崎:そういう観点では僕を救って男も悪くないですよね。「束縛男」はどうですか?
ぱぷりこ:あ、『束縛使い』はDVやらのガチNG行為にに発展する可能性が強めな妖怪なので、個人的には逃げた方がいいとは思います。ただ、「とにかく自分だけを見て欲しい」っていう、私とあなただけの世界が理想な人にはいいかもしれません。
恋人が自分の思い通りに動くかを愛の指標にして、行動を制限して満足感を感じる男。彼らにとって愛は縄の形をしています。(妖怪男ウオッチP212)
川崎:そういう関係が大好物な女の子も、ね。
ぱぷりこ:いますからね、実際。
川崎:でも面白いものでね、「そういう愛し方をしてくれる男性が好き」って言っている女性たちが想像を上回る束縛男に出会ったりすると、ちょっと重いんだけど……ってなるんだよねえ。そこが恋愛の難しいところだよね。逆も然りで。
ぱぷりこ:ありますあります。恋愛は本当に予想もしない化学反応が起こりますよね。
川崎:さて、ではそろそろ「港区の男」の話もしておきましょうかね。このジャンルは私もいっぱい見聞きしてきたので(笑)。
(中編に続く)