前回インタビューしたチェコ好きさんに紹介していただいた、タナカユウキさんにお話を伺いました。
(文/池山由希子)
───ライターになったきっかけを教えていただけますか?
タナカさん(以下、敬称略):僕は本業で建築の仕事をしていて、もともとインスタグラムで建築の写真を、説明を添えてアップしていたんですね。建築の良さを、多くの人にわかりやすいように伝えたいと思ってそれを始めたんです。
インスタで建築を紹介する、ということをやってるうちに、たまたま、「haconiwa」というウェブマガジンで、ライターの募集をしているのをみつけて。去年の10月あたりから、そこで書かせてもらうようになった、というのがきっかけです。
主にhaconiwaに寄稿していて、もうひとつ、イケダハヤトさんが運営している、「今日はどんな実験をしよう。」という有料のウェブマガジンでも書いています。どのメディアでも、建築についてわかりやすく伝えるための記事を書いています。
───ライターになる前から、人に何かを伝えるのが好きでしたか?
タナカ:そうですね、好きだったと思います。高校生のときも、「mixi」で日記を書いてクラスのみんなに伝える、とかが好きでした(笑)。
それに僕はいま、建築士の資格は持っているんですが、まだ20代で、知識や経験がめちゃくちゃあるわけじゃない、という立場なんです。僕は、足りてないものを補うよりも、いま持ってるものをどう生かすかという考え方が好きなんです。で、今のポジションを生かして、幅広い方に、難しい専門用語とかなしに、わかりやすく建築について伝えるのが出来るんじゃないか、という発想が自然と出てきました。
───今までに印象に残っている案件はなんですか?
タナカ:「as it is」という、古道具屋を営んでいる方がやっている美術館を取材したときは、本当に印象的でした。古くから使われていた生活用品を、ただ置いているという美術館なんですが、この空間にいると、使い込まれた雰囲気とかがすごい映えてみえるのが衝撃的で。
その取材を記事にして、美術館の方に原稿のチェックをお願いしたときに、「本当に僕が伝えたいことを書いていただきました」と言ってもらい、すごい嬉しかったです。
───その取材をきっかけに、その後の取材や記事執筆のスタンスが変わりましたか?
タナカ:やっぱり、決定的に変わりましたね。それ以降は、建物の説明をする方の話を聞いて、これを大切にしてるんだな、とか、この建物のここが気に入ってるんだな、というのがあったら、それは絶対書くという意識になりました。あんまり自分本位じゃなくなった気がします。
───記事にする建物を見に行く際は、どういうことに気を付けているんですか?
タナカ:まず事前準備として、建物の図面を必ず見るようにしてます。やっぱり設計者目線でみるので、ここは設計者が絶対こだわったところだろう、とか、ここはこういう光の入り方がするんだろう、というのを気にして、予習します。で、実際行ってみると、やっぱり思った通りすごいなってところと、逆に、図面だけではわからなかったことがあって。個人的にはそういう予想できる範囲を超えたところを、一番伝えたいと思っています。
───今までにはどんな、図面での予想を超えたことがありましたか?
タナカ:例えば、図面だけ見るとただの階段でも、実際はそこで人々が腰を掛けて休んでいたり。個人的にはそういう、実際に行かないとわからないところが大事だと思っていて、「あ、これを写真に撮らなきゃ」とか、「これを伝えなきゃ」とか思います。
───ネットの記事につかれたときに、タナカさんの記事読むと癒される、と言われていますよね。
タナカ:ありがたいです(笑)意識はしていなかったんですが、やっぱり建築の記事を書こうと思うと、入口から入って、中をぐるっと見て、ふうって落ち着いて、ああ、こういう建物だったんだなっていう感想で終わる、みたいな感じになるんです。読んだ方が、実際にその建物に行ったような気分になるように。
最初だけ読めばすぐ伝わるとか、タイトルであおる、バズる、みたいなことは出来ないんですが、例えばシェア数が少なかったりしても、「仕方ないなあ、建築だしなあ」、という感じです(笑)。
建物がその場所に残るように、記事がネット上や、読んでくれた人の記憶に、長いこと残ればうれしいなって僕は思っています。
───建築関係の知り合いの方も、タナカさんの記事を読んでいらっしゃるんですか?
タナカ:そうですね、読んでくれてはいますね。たまに建築関係の友人に、「技術的なこの見解は、これであってるのか?」とか、「この説明おろそかになってないか?ちゃんと調べて行ったのか?」とか言われたり(笑)
それで僕が、「ここはこういう理由でこう書いたんだよ」、と説明したりとか。そういう風に僕の記事について議論する友人が二人だけいます(笑)。
やっぱり一応資格の肩書を出している以上は、責任があるので、記事を書くにあたって、その施設の方だけでなく、出来る限り、その設計をした建築家の方にも確認を取るようにしています。それもあって時間がかかるのであんまりたくさん書けないんですけど、建築士としての肩書きを出している以上、適当なことは言えないので。
───ライターをしていなかったら何をしていたと思いますか?
タナカ:建築の仕事はずっとやってると思います。あとは今、建物が仕上がったときに、竣工写真を撮るカメラマンとしても活動していて、もしかしたらそれに力を入れてるかもしれないですね。そういう風に形は違えど、「人に何かを伝える」ということはしていると思います。
───ライターの仕事をほかの人に薦めたいと思いますか?
タナカ:そうですね、個人的には薦めたいなって思います。伝える技術っていうのは、どんな職種でも必要だと僕は思っていて。ライターをすると、どういう風にすれば人に伝わるんだろう、というのを繊細に考えるので、伝える技術が圧倒的に磨かれたんです。
───ライターで培われた伝える技術が、本業にどのように生かされたと思いますか?
タナカ:例えば本業の建築の仕事をしているときも、「これは建築的にはこういう問題があって、実現できないんです」とか伝えなきゃいけないときがあるんですね。その相手が、設計事務所や、ゼネコンの方だったら、専門用語で大丈夫なんですが、建築が専門ではない方に伝えるとき、うまくかみくだいて話す、ということにすごく役立っています。
あとは例えば、メールで何かお願いするときに、どう書けば伝わりやすいか、お願いを聞いてもらえるか、ということも、ライターとして意識していることが役に立っています。
そういった点で、本業の建築の仕事と、ライターとしての仕事が、相互にいかされているなあ、と思います。
───今日はありがとうございました!
次回はタナカユウキさんにご紹介いただいた、戸田江美(@530E)さんにお話を伺います。