書籍づくりの現場ではどのような作業が行われているのか。実際に本を出版した著者と、その担当編集者のインタビューを公開します。企画の経緯から執筆・編集・デザイン・売り方まで、生の声をお届けします。
書籍:『とことん観察マーケティング』(ビジネス社)
ビジネス社 (2013-01-09)
売り上げランキング: 201,466
著者:野林 徳行(のばやし・のりゆき)さん
1964年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。
1987年、リクルートに入社。経営企画、事業戦略、商品企画、プロモーションプランニングなどを担当し、徹底した調査、分析で各事業の業績を躍進させた。 ブックオフコーポレーションへの出向を経て、2003年、ローソンに入社。執行役員として、マーケティング、エンタテインメント、商品開発などを担当し、数々のヒットを生み出した。 2010年、ローソンエンターメディア代表取締役社長に就任。 2011年、ローソンHMVエンタテイメント取締役を退任。 現在、ブックオフコーポレーション取締役、レッグス取締役。
───本書は、野林さんご自身のリクルート、ブックオフ、ローソンでのご経験をもとに、さまざまなマーケティングの成功事例が記されていました。
あらためて、本書を出版された経緯をお教えください。
野林徳行さん(以下、敬称略):リクルート時代のメンバーであるネクスゲートの籾倉宏哉社長が、私のマーケティング事例の数々を本にしたいと、エージェントを紹介してくれたことが出版に至ったきっかけです。
一般的に企業などで行なわれるマーケティング研修では、たくさんの戦略フレームが紹介されますし、マーケティングの新しい理論を書いた本も次々に出版されています。
しかし、戦略フレームや理論などの“箱”はあっても“中身のステキさ”がなければ結局はうまくいきません。
私は、リクルート時代にたくさんの市販誌、フリーペーパー、ネット商品のマーケティングに携わっており、600を超えるナレッジを組織に蓄積して貢献してきました。
ブックオフでは、都市部進出や宅本便という買い取りシステムを構築。
ローソンでは、マーケティングとエンタテインメントの責任者として、「わざわざローソンに来る理由」を創り続けてきました。
これらの実績はすべて、カスタマーの属性にとどまらず、実像にせまり、“中身のステキさ”にこだわったからこそ、成功につながったのだと考えています。
そして、振り返ってみると、私のマーケティングの成功事例に共通しているのは、「現場を見ること」、「カスタマーに聞くこと」、そしてそれをマーケティングリーダーとして、役職や組織の壁関係なく、「皆に共有すること」でした。これは誰にでもできることです。
だからこそ、1人でも多くの人に伝えたいという思いが出版につながりました。
───本書は「とことん観察マーケティング」というタイトルですが、「とことん観察」という部分に、「現場を観察してお客様を知ること」という野林さんのマーケティングスタイルが表れています。
今回、本書をお書きになるにあたって、読者に一番伝えたい、ここをぜひ読んでもらいたい、とお考えになったのはどんな部分だったのでしょうか?
野林:本書では、数値までは明確にしておりませんが、実はどの事例も大きく数値が上昇した事例です。
私のマーケティングにおける判断基準は、「誰」が「なぜ」喜ぶのか。
これがぶれなければ、失敗はあまりないのです。そのため、すべての事例が参考になります。
そして、ぜひ「知らなければならない」というスタンスではなく、「知りたい」というスタンスで読んでもらいたいです。そうすれば、売れるヒントが倍になって、どんどん目に入ってくるはずです。
読み進めるごとに、おもしろさを感じとってほしいですね。
───これまで多くのヒット商品を世に出してこられた野林さんですが、一番成果が出たマーケティング事例は何ですか?
また、それはどんな理由で成果が出たのでしょうか? 一般的な、あるいはこれまでの手法との違いも含めて教えてください。
野林:ローソンのミッフィーや、リラックマのキャンペーンの事例がわかりやすいと思います。
効果については、このキャンペーンが7年たった今も毎年実施されていることでわかると思います。コンビニエンスストアの判断基準は大変厳しいですから。
キャラクターを景品にしてキャンペーンをするのは誰にでも思いつきます。人気ランキングもいくつも存在しています。ですが、徹底的にカスタマーの意見を聞き、それを十分に感じてキャンペーンを成立させたのが成功の秘訣です。
ミッフィーのターゲットは主婦、リラックマのターゲットはOLが中心ですが、はたから見ていると、ただの女性をターゲットにしたポイントを集めるキャンペーンですよね。
しかし、カスタマーの実像に入りこんでいくと、2つのキャンペーンは違うものになっていきます。「シニア対策」とか「20代OL」とかでは広すぎてしまいますが、もっと実像に触れることで、その中にいくつもの特徴のあるターゲットが見つかるのです。
そこまで踏み込まないために、商品や販売促進の効果が最大化されないことが多いんですね。
一見、誰でもできそうですが、効率化の観点や、風土の課題もあり、実践できる企業が少ないのも事実です。とくに縦割りの構造がカスタマー理解の共有化を阻害してしまいます。
でも、カスタマーをちゃんと見るかどうかで、キャンペーンが成功するかしないかが決まるのです。
───マーケティング関連の類書は数多くありますが、差別化を図るために意識されたことはありますか?
野林:とにかく明日から行動できること。勉強ではなく感じるもの。自分の体験してきた事実のみで構成すること。マーケティング用語をあまり使わないことを意識しました。
───執筆にあたり苦労されたことはありますか? その際、編集者やエージェントからはどんなアドバイスがありましたか?
野林:自分の事例ですし、この内容で「NOVA塾」と呼ばれるマーケティングの会もやってきましたので苦労はありませんでした。
ただし、当たり前のことをきちんと当たり前にやった内容ですので、本のタイトルが難しく、編集さんとエージェントの方と3人で延々とタイトル会議をしていました。
みなさんもステキなアイデアを出していただきましたが、最後は自分の案で決めさせていただきました。
───本書はどのような方に読んでほしいと思われますか?
野林:なかなか自分の提案が通らない若者たちに向け、アドバイスするつもりで書いています。
そして、そんな若者たちのレベルを上げることが役割の上司の方々にもぜひ読んでいただき、内容を共有しながら「観察が成功に導くこと」を感じてほしいと思います。
───本書の発売後、周囲やネット上などで、どんな反響がありましたか?
印象に残る感想や意見などがありましたら、教えてください。
野林:認知度のない作者の本ですから、広がったのはFacebookですね。
リクルート、ブックオフ、ローソンの方々とは常に一緒に闘ってきましたので、その仲間たちがたくさん広めてくれました。
多数寄せられた感想としては、「こんなにすらすら読めて刺激的で、自分が反省できる本は初めてだ」という内容のものです。
また、カスタマー理解が課題の経営者の方々からたくさんご連絡をいただき、多くの場面で講演する機会をいただいています。
その反応も大変よいもので、もっと伝えることが大事であると実感。若者へのアドバイスの本なのですが、経営者の方からたくさんの反応があり、びっくりしていますね。
───ご自身の原稿内容を多くの方に理解していただくためにご執筆の際に注意していること、気をつけていることはありますか?
野林:読みやすさを追求するために「理論的に」ではなく、「一緒に見ていきましょう」という文章の進め方にしています。理解するより感じてもらうことをもっとも注意しました。
───本作りにエージェントが関わるメリットにはどんなことがあると思われますか?
野林:私は初めて本を書いたので、書籍作りを一から教わりました。ターゲットを見据えた文章のアドバイスや、内容に適した出版社とのマッチングができれば、ありがたい存在だと思います。
───次回はどんなテーマについて執筆したいと思われていますか?
野林:“観察”は永遠に続きます。このテーマを極めていくのがいいのではないでしょうか?
───最後になりますが、ビジネス書作家を目指す読者のみなさまに、メッセージをお願いします。
野林:それぞれの方が事実をベースにした伝えたいことをお持ちだと思います。
「言った」、「書いた」ではなく、「伝わった」というゴールを想定して書けばいいのではないかと思います。
他人にアドバイスできるほどのものではありませんが(笑)。
───野林さん、ありがとうございました!
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