書籍づくりの現場ではどのような作業が行われているのか。実際に本を出版した著者と、その担当編集者のインタビューを公開します。企画の経緯から執筆・編集・デザイン・売り方まで、生の声をお届けします。
書籍:『なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか』(ぱる出版)
ぱる出版
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著者:奥谷 啓介(おくたに けいすけ)さん
国際ホスピタリティー・インダストリー・スペシャリスト。
1960年4月23日生まれ。ニューヨーク在住。慶應義塾大学卒。1984年、ウェスティン・ホテルズに入社。1989年、シンガポールのウェスティン・ホテルに転勤。その後、サイパンのハイアットホテルを経て、1994年からニューヨークのプラザ・ホテルに勤務。2005年、プラザ・ホテル閉館にともない文筆業に転業。現在、講演活動のためにニューヨークと日本を往復する日々を送る。雑誌「男の隠れ家」や「日刊ゲンダイ」等で連載記事を掲載。主な著書に『世界最高のホテル プラザでの10年間』(小学館)、『海外旅行が変わるホテルの常識』(ダイヤモンド出版)ほか、多数。
奥谷啓介さんホームページ:http://okutanikeisuke.com
───奥谷さんは、海外の一流ホテルでご活躍された経験が豊富ですが、今回あえて、日本のワーキングスタイルの問題点についての本を出版されることになった経緯をお聞かせください。
奥谷啓介さん(以下、敬称略):世界経済開発機構が発表している世界の生産性比較の中で、アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3780円しか儲からないという数字があります。
日米のホテル運営を比べてみると、なぜこれほど生産性に差がでるのか一目瞭然なのですが、「アメリカのような低レベルのサービスを出すわけにはいかないんだから仕方ない」という意見は正しくないと私は思っています。
ホスピタリティーの視点からも、日本のサービスはアメリカのサービスに敵わないところがたくさんある。
それをあらためて日本の皆さんに知ってもらいたいと思い、執筆にいたりました。
───「日本の“おもてなし文化”が生産性を悪くし、儲からない仕組みを作ってしまっている」という記述が印象的でした。
その上で、今後日本の目指すべきサービスはどのようなものだとお考えですか?
奥谷:日本には、古来から受け継がれてきた丁寧な接客姿勢があります。
それがサービスの欠点を補ってきました。
しかし一方で、それに頼り過ぎたために、優れたサービスを生むシステムの構築を怠り、同時にそれが生産性向上のブレーキとなってしまいました。
生産性が悪く人材に頼るサービスは、「長時間労働」+「薄給」の労働環境をつくりあげ、働く人々にとっては大きな負担です。
事実、日本のホテルで働く人々の離職率はとても高い。
今、日本のサービス業は負のスパイラルとなって落下状態にあるのです。
というわけで著書にも書きましたが、これから日本のサービスに必要とされることは、アメリカの手法の優れた面をためらうことなく取り入れ、生産性をあげながら日本の優れた面は残していくという、ハイブリッド(複合)のサービスを造りあげることだと考えています。
───「働けど儲からない」日本のワーキングスタイルを脱却するために、奥谷さんがこの本で一番伝えたいメッセージはどんなことでしょうか?
奥谷:「日本は日本の文化に根ざした方法がある」という意見もありますが、そんなことは言っていられません。
グローバリゼ―ションにより、企業、土地、そして労働環境までもが他国籍企業に買収される危機が迫っているのです。
日本も日本人も強くならなければならない時を迎えています。
他国の優れた部分だって、積極的に導入していくことが必要なのです。
本書では、アメリカの手法を積極的に取り入れることで、サービス業の生産性は著しく上がることを書きました。
たとえば、3か月毎の個人成績に基づき、ボーナスがもらえる“打てば響くような成果主義”の導入。
個人の能力を浮き彫りにさせると同時に、他のスタッフとの軋轢を防ぐ仕事の分業化など、たくさん例をあげているので、ぜひそこを読んでもらいたいですね。
───本書は、とくにどのような方に読んでもらいたいと思われますか?
奥谷:学生から主婦まで、日本人全員に読んでいただきたいです。
日本は先進国のなかで、一番子どもが孤独を感じていたり、貧困率トップ4にあったり、最も公費が教育に使われていないなど、問題も多い。
それが、日米のサービス業を比較することで理由が見えてきます。
日本を暮らし良い国にするためには、まず国民がそのことに気づく必要があるのです。
───本書の執筆にあたって苦労されたことはありましたか?
また、それについて編集者やエージェントからはどんな指示・アドバイスがありましたか?
奥谷:繰り返しになりますが「日本の総理大臣はなぜこんなにも頻繁に交代するのか」「なぜセクハラ・パワハラが蔓延するのか」「なぜ自殺大国なのか」など、日本が抱える大きな社会問題のほとんどの理由は、日米のサービス業を比較することで明らかになります。
そのため、どうしても深く入り込んで書きたくなってしまって(笑)。
そうするとサービス業を主題とした内容からそれてしまうので、書きたい欲求を抑えるのに苦労しました。
エージェントからも、「真実であり大切なことではあるが、主題をぶらさないようにするのも大切なこと」というご指摘をいただきました。
───本書の発売後、周囲やネット上なので、どんな反響がありましたか?
印象に残る感想や意見などがありましたら、教えてください。
奥谷:「日本のおもてなしが世界一優れたサービスと思っていたが、それは日本文化の中で育った人々にとって心地よいものにすぎないということがわかった」という意見。
あるいは「サービス業比較で、こんなにも日本社会全体の問題点と未来像が見渡せることに驚いた」という意見をいただきました。
───ご自身の原稿内容を多くの方に理解していただくために、ご執筆の際にいつも注意していること、気をつけていることはありますか?
奥谷:すべては私自身の経験をもとに書いているので、気をつけないと独断と偏見に偏ったものになってしまいます。
自分の経験からでてきた考察が正しいものであるか否かを、一歩離れてさまざまな角度から検証するようにしています。
───次回はどんなテーマについて執筆したいと思われていますか?
奥谷:サービス業で働く方々と話をすると、「自分の性格はサービス業には向いていないと思う」と悩んでいる方がいます。
しかし、私の経験ではサービスは“技術”。
つまり技術さえ備えれば、誰でもすばらしいサービスマンになることができるということです。
さらに、その技術を習得することで、仕事以外でも多くの人々から信頼と支持を受け、人生をより楽しいものにすることができるようになります。
私がアメリカのホテルで習った、そうした技術を習得するための本を書いてみたいと思っています。
───最後になりますが、ビジネス書作家を目指す読者のみなさまに、メッセージをお願いします。
奥谷:今、世界はグローバリゼ―ションという激動の最中にあり、これまでの常識が常識でなくなりつつあります。
そして、日本で育ってきたビジネス方式も大きく変わり、多くの人々の支持を受けてきた意見や考察も変わります。
そんな新しい流れを読み、常にアップデートした情報を追いかけることで、多くの人々が気がついていないテーマを見出すことができると思います。
この激動の時代をチャンスにしていただきたいですね。
───本日はどうもありがとうございました。
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