前回インタビューした小松田久美さんに紹介していただいた、橋村望(@KIKIZAKEJP)さんにお話を伺いました。
日本酒が大好きで、日本酒の魅力を伝えたいという思いがライターになったきっかけだったいう橋村さん。取材中も常に笑顔で、大好きなことを極めている人特有の輝きを感じます。
今回のインタビューでは、好きなことの魅力を伝えるためにライターとして心がけていることなどについて教えていただきました。
(文/池山由希子)
───ライターになったきっかけを教えていただけますか?
橋村望さん(以下、敬称略):唎酒師の資格を取ったことがきっかけです。
唎酒師の資格は、飲食業界に関わる方などがお仕事のために取ることが多いのですが、私の場合は、日本酒が好きだったので、もっと知りたいという理由から。編集者をしている知り合いにその話をしたら、せっかく唎酒師の資格を持っているくらい知識があるんだから、日本酒についての記事を書いてみないかと誘ってくれて。知識を活かせるし、日本酒の魅力を多くの人に知ってもらえたらうれしいだろうなと思って、日本酒の記事を書いてみたんです。
でも出来上がった原稿を知り合いに見せたら、全然面白くないと言われて(笑)。
───面白くない!?
橋村:最初は、なんてひどいことを言うんだ!と思って、自分でも原稿を読み直してみたら、確かに面白くなかったんですよね(笑)。
「全国新酒鑑評会」についての記事だったのですが、歴史などマニアックな情報を書きすぎてしまったことが原因かもしれません。
面白い記事が書けなくて悔しかったことと、記事を通じて日本酒の魅力を広めたいと思ったことが理由で、その後、宣伝会議のライター養成講座に通い始めました。
───そうなんですね。今までにも何人か、好きなことを伝えたいという理由でライターになったという方がいらっしゃいました。ライター養成講座ではどのようなことを学んだのですか?
橋村:どんな記事にするか、企画を作る課題などを通じて、読み手にとって面白い記事とはどういうものかを学びました。読者の目線にたった記事を企画して書く、ということですね。例えば、日本酒のことをよく知らない人なら専門用語で説明しても理解できない、でも詳しい人向けであれば、解説しすぎると逆に読んでいて回りくどくなってしまいます。当たり前かもしれませんが、どんな人に向けてどういう目的で書くかで、面白さは変わってくることを実感しました。
講座を受けるうちに、書くことの面白さにのめり込んでいき、その後はライター養成講座上級コースにも通いました。そこで知り合った編集者の方からお仕事をいただき、ライターとしても活動するようになりました。
「誰に何を伝えるか」という目的を果たすことがライターの仕事
───ライターとして得意なジャンルを教えていただけますか?
橋村:いろんなジャンルのライティングに挑戦していますが、やはりお酒関係や飲食店の取材など、好きなことに関わる案件は楽しいですね。好きなことを発信できるのは幸せです。
───今までに印象的だった案件もやはり、日本酒に関するものですか?
橋村:最近だと、日本酒専門のWebメディアで取材した古酒や熟成酒を専門に扱う酒販店の記事が印象的です。もともと熟成した日本酒に興味があったので、取材自体も楽しく、「実はこんなお酒もあるんだよ」と店主の個人的なコレクションまで見せていただきました。記事にはできないことも多いのですが、興味のあることに関して、深く知ることができるのは楽しいです。その後、「記事を読んだお客さんが、わざわざ鹿児島から来てくれた」という店主のお話を聞いて、すごくうれしくて。改めて書く楽しさを実感しました。
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https://jp.sake-times.com/enjoy/sakaya/sake_g_agedsake_inishie
───好きなことについての案件は、ご自身も取材相手の方も幸せになれるということですね。
橋村:そうですね。取材は、日本酒関連に限らず、とにかく楽しいです。緊張もしますけど(笑)。もともとはウェブデザインが本業。一人でパソコンと向き合うことが多かったのですが、今はライターとして、取材でいろんな人に会えることが楽しいです。今までお会いして名刺交換していただいた方々の名刺の束を見ると、こんなにたくさん人に会ったんだ!と実感します(笑)。
───逆に、ウェブデザイナーとライターの仕事内容で、共通していることはありますか?
橋村:「誰に何を伝える」という明確な目的があり、その目的を果たすという点では似ていると思います。伝えたいことを、定められたターゲットにきちんと届けるということです。
ウェブデザイナー時代は、クライアントに「誰に何を伝えたいのか」ということをお聞きして、その目的を果たせるようにサイトをデザインすることが仕事でした。伝えるべきことを届けるための手段は、色や形、機能など。ライターの場合、伝えるための手段は言葉です。
好きなことを誰かに伝えたいという思いがエネルギー源
───ライターの仕事をしていなかったら、何をなさっていると思いますか?
橋村:普通に、ウェブデザインの仕事だけを続けていると思います。
あと、今やってみたいのは、酒屋の店長です(笑)。相手がどんな味が好みか探って、おすすめしたお酒を「美味しい!」と言って喜んでもらえると、単純にうれしくなります。お酒を飲む空間って楽しいことが前提だし、世界平和にもつながるんじゃないかと信じています(笑)。
今は、日本酒の魅力を多くの方にお伝える記事を書く機会もいただけるのが幸せです。好きなことにはとことんハマり、他の方にもその良さを伝えたいという気持ちがエネルギー源になっています。
───最後に、ライターの仕事を他の方に勧めたいと思いますか?
橋村:すごく難しい質問ですよね。例えば、なにも実績がなくいきなりフリーランスでやる場合、仕事を見つけるまで大変なことも多いと思います。いきなり単価の良い仕事があるとは限らないですし。取材は楽しいですが、1日に何件も行くようなときは、さすがに肉体的にも疲れることもあります。あと、締め切りに追われてつらいことも……(笑)。
ただ、好きなことを発信できるのは、一番のメリットだと思います。ライターを目指していなくても、自分の仕事に一生懸命取り組んでいるうちに、自分が書きたい、誰かに伝えたいと思うことが出てくるかもしれません。会社員や自営業などやりながら、専門分野を持ち、その人にしか書けないことを副業として書いている方もたくさんいますよね。
私の場合は、自分の好きなことについて伝えることができるのは楽しいです。「なんでもっと面白く書けないんだろう…。」とか悩むときもありますが(笑)。そのために読み手目線で書く、読みやすい文章を書く、などといったライターとしてのスキルを磨くことにも身が入ります。
「自分が誰かに伝えたい」と思うことがあって、それを伝えるための手段としてライターになる、というのが一番楽しくて幸せなんじゃないかなと思います。
───なるほど。「これが好きだ」とか、「これを伝えたい」という情熱がある文章は、読み手の印象にも残りますよね。今日はありがとうございました。
次回は橋村さんにご紹介いただいた、井上マサキ(@inomsk)さんにお話を伺います。