屋上庭園やマンション・商業施設の緑地管理を通じてコミュニティづくりを実践するなど、さまざまな事業を手がける東邦レオ株式会社。
昨年だけでも半年間でテレビ取材が11回、これまで日経媒体の紙面に187回も掲載された経験をお持ちの熊原さんは、同社にて14年間、広報を務めていらっしゃいます。
「アプローチの仕方を変えることでメディアや世の中に周知されつづけることができる」と語ってくださった熊原さんに、取材されつづけるために意識する、「記者の方との関係性」や「自社事業の伝え方」について、PRライターKisaがお話をお伺いしました。
伝え方の工夫が、取材依頼のきっかけに
───メディアに掲載される取材を受けるために、広報・PR担当者はどんなことから始めたらよいのでしょうか。
熊原淳(以下、熊原):広報・PRの仕事をするうえで忘れてはいけないのが、広報の仕事は自社のことだけを伝えていては、不十分ということです。
というのも、記者の方のお仕事というのは世の中の流れにそって、新しく話題性のあるものや社会に大きな影響を与えるものを伝えることですので、わたしたち広報サイドも世の中の流れに合わせた情報発信を心がけることが重要です。
たとえば、東邦レオが新聞やテレビに過去最多でとりあげていただいた2007年前後、世の中は環境への関心が急速に高まり、温暖化やヒートアイランド対策の一環としてさまざまな場所で屋上緑化や壁面緑化が推進されていました。
そんな社会的背景に合わせて情報発信を行った結果、わたくしどもの会社が立て続けに取材していただけた経緯があります。
なので広報担当者は、記者の方がどんなことを記事にしたいと考えているか、その時代に合わせて理解しつづける必要がありますね!
そのうえで、記者の方たちとよい関係性を構築するのが大事です。そのためには、記者の方とコミュニケーションをとって、相手に共感していただける提案をすること。それが、取材依頼をいただくまでの大切な流れです。
───では実際に、記者の方に対してどんな提案方法が、テレビや新聞の取材依頼を受けることにつながるのでしょうか。
熊原:多くの中小企業がテレビや新聞の取材を受けることはとてもハードルが高いと感じていると思います。わたしも広報をはじめたばかりの頃は、どうすれば良いのか、まったく分かりませんでした(笑)
しかし、実際は中小企業でも、伝え方を工夫することで興味をもっていただき、記事にしていただける可能性は充分にあります。
たとえば、わたしたちでは、戸建住宅の屋上をリビングのように楽しめる「プラスワンリビング」という商品があるのですが、社内の担当者と話をしていたところ、すでに7,000箇所も導入されていることが分かりました。
そこで新プラン発売の際には、プレスリリースの書き出しに『7,000箇所の導入を手がける弊社では』という書き出しでリリースを発表しました。
今回のような「7,000」という数字や、売上げもしくは導入数が「3倍」になったなど、分かりやすい数字をまとわせることで、記者の方にも会社の印象が強くのこり、取材に至るケースが多いと感じています。
また、商品やサービスだけでなく、社内制度についても取材の機会をいただいたことがあります。働き方改革でいろんな制度を設ける会社が多い中、「あえて制度を設けない東邦レオ」ということで他社と異なる視点から記事にしていただけました。
制度を設けると枠ができてしまい、もれてしまった人は活用できなくなる。個々に柔軟に対応するためにも、あえて制度を設けないという内容で記事にしていただいたんです。
多くの企業と違う視点から自社をみてみると、記者の方にお伝えできる内容がまた1つ増えるかもしれませんね。
小さな会社でもメディア掲載のチャンスがある。それが広報のおもしろさ
───記者の方にお会いする前に、どのような準備を心がけているのでしょうか。
熊原:当社では、まず「今年は何のトレンドにそって、どんなキーワードを社外へ発信していくか」を社内で話し合っており、事業責任者と定期的な打ち合わせや、経営会議に参加して得られる情報がもとになっています。
その1つの事例が前述の「プラスワンリビング」です。
木造住宅の屋上をリビングのように楽しむという、これまでに無いジャンルだったため「屋上リビング」という名称を用いて積極的に情報発信を行ったところ、担当する子会社が日経新聞に掲載された際には『屋上リビング住宅の大手』として記述をいただきました。
自社の特異性を発揮でき、より印象にのこる、伝わりやすい言葉は何か、人の心にとどまるキーワードは、テレビや新聞の媒体を通し社会に広がっていく効果をもっていますから、そのために、ここは時間をかけて考えていただきたいところです。新製品や新サービスの発表をするときは特にチャンスですね。
また自ら生み出したキーワードを、時代の流れに合わせて自ら変えることも行っています。『屋上リビング』のキーワードですが、昨年は『屋上グランピングテラス』と名づけて情報発信を行いました。
当時のトレンドキーワードであった「グランピング」とかけ合わさることで、再度注目をいただく経験を得ました。モノと同じで、言葉にも流行り廃りがあります。
たとえ、長期間、新商品がでなくても、時代に合わせたキーワードの更新をしていくことなら定期的にできると思います。
人と人との信頼性で成り立つ広報・PRの仕事
───10年以上広報の仕事をされている熊原さんが考える記者の方たちとの信頼構築の方法は何かありますか?
熊原:理想としては、自社のファンになっていただいて、お互いに共感できる関係性を築くことだと考えています。
そのためにも、記者の方と継続的につながる機会をみずから設けています。自分の場合、専門記者さんには自社の発行物を送付したり、他社の広報担当者さんとコラボレーション企画を実施して、定期的にお会いできる時間をつくっていますね。
経験上、多くの記者の方と名刺を交わす関係よりも、何かあったときにすぐやり取りできる関係の深い方が数名いるほうが大切だと思っています。
広報の仕事は「1度取材されたら、おわり」ではありません。実際に同じ記者の方から異なる軸の内容で何回も記事にしていただくことは多いです。
なので、1人の記者の方と長くお付き合いしていくことを意識して、まずは自社をしっかり知ってもらう。そして機会があれば記事にしてもらえるよう務める姿勢が、さらなる信頼構築につながります。
───そのためには、日々どんな点を意識して接していけばいいでしょうか。
熊原:取材をしてくださるすべての方に対して、今後10年続く関係を築いていただけるように意識して行動しています。
過去に取材していただいた記者の方が転職をし、違う媒体を通して再会するなんてことも何度かありました。相手もわたしと同じ人です。失礼な態度をとればそのときは取材していただけても、今後取材していただくことはないでしょう。
でも「またこの人に話を聞きたい」とファンになっていただけるような接し方ができていれば、何年もつづく関係性ができるのではと信じています。
記者の方って、日々多くの人とお会いされています。その中でも自分のことを印象に残しておいてもらいたいと考え、自社のことを説明するときはiPad等タブレットを使うのではなく、あえてスケッチブックを使ってオリジナルの紙芝居でお話したりします。
こうしたところでも伝え方の工夫をすることで、数年後お会いしたときも覚えていただけることが多いです。そこから取材につながることもしばしばです。会社が異なれば歴史も会社の文化も働いている人のアイデンティティもさまざまです。
その時々の社会のトレンドと『自社らしさ』を掛け合わすことで、広報・PRの初心者の方でも取材につながることはたくさんあると思います。同じ世界で活動している者同士、ぜひお互い頑張りましょう!
インタビューを終えて
「どうしたら取材をしていただけるか」多くの広報担当者の方が1度は悩んだことのある課題だと思います。そんな悩みに具体的な事例をふまえ、解決策を与えてくださる取材となりました。
わたしに対しても、丁寧に分かりやすく説明してくださった熊原さん。自社のことだけでなく、その先にいる相手のことを考えた提案と行動を常に意識されている。取材依頼が止まない理由がわかった気がします。
10年以上広報の経歴をもつ広報のプロ、熊原さんに貴重なお話を聞くことができ、わたし自身とても勉強になった時間となりました。
(取材・執筆:PRライター kisa agatha/編集:吉川実久)