広報・PRが目指すのは、世の中に信頼関係をつくり、その関係性のもと価値認識がひろがること。
ファンになってもらうことによって売上や経営存続につながることを目指すことです。つまり、「信頼関係の構築」がそのベースにあるといえます。
今回お話を伺った坂場有妃子さんは、週刊少年ジャンプなどで連載経験のある漫画家でご主人の横田卓馬さんを“売れる”漫画家にしたと話題の方。「広報・PRの知識はゼロだった」という坂場さんに、ファンづくりでPRを成功に導くヒントをPRライターのもりおかゆかがお聞きしました。
コミュニケーションの積み重ねがファン化&PRにつながる
───横田先生をPRする上で、大切にされていることはありますか?
坂場有妃子(以下、坂場):「作品が売れる」ためにはまず「作品・作者のファンになってもらう」ことが大切ですが、それは決して一足飛びにできることではありません。
これまで、売れている漫画家さんの話を聞いたり制作現場を見たりする中で、漫画業界はほかの漫画家さんやアシスタントさん、編集さんなどとのコミュニケーションや信頼関係が大切なのだなと感じてきました。
それはどの業界やサービスでも、きっと同じですよね。だからコミュニケーションの「積み重ね」を大切にしてきました。
たとえば主人のスタッフのTwitterはいま1万4千人のフォロワーがいるんですね。漫画家自身ではなくスタッフのTwitterとしては、とても多いほうです。
でも、これは、1つ大きなPRを打って一気にフォロワーが増えた、ということではありません。オンライン・オフライン問わずいろいろな接点を通して徐々に新しいファンが増えたり、長年のファンがより深く好きになってくれたり……地道に積み重ねてきたんです。
だから、急にファンが増えることがなくても、急にいなくなることもない。こういう活動こそがPR活動だと、思っています。
───どうして「Twitter」でPRをしようと思われたのでしょうか。
坂場:当時わたしはPRや広報未経験で全く知識がなかったので、行動量を増やすことを意識していました。「行動すれば何か変わる」と信じていたんです。だから、「TwitterでPRを」ということではありませんでした。
そもそもは、最初の連載が出版されたときに「思ったより売れてないぞ!」と思ったのがはじまりでした。もちろん一般的には十分に売れているほうなのですが、わたしは「彼の才能に見合っていない」と思っていたんです(笑)
それで、「何か始めよう」と思ってまずはSNSから。TwitterやFacebook、それからホームページをつくりました。並行して、書店さんに「(主人の)サイン色紙を置かせてください」と営業したりしていました。
最初はできることにも限りがあるかもしれませんが、行動することで経験値や知識が増え、できることも増えていきます。そうやってだんだんとレベルアップしていく。その繰り返しでした。その結果、Twitterがとくに、横田のPRにマッチしたんですね。
SNSでもリアルでも、届ける人・関わる人の立場になって誠実に
───試行錯誤されてきたなかで得た、SNSでファンづくりを成功させるコツはありますでしょうか。
坂場:主人のスタッフTwitterのフォロワーは基本ファンの方々ということになりますよね。だから、「ファンが楽しめること」を考えています。
わたし自身が「漫画家・横田卓馬」のファンなので、つまりは「わたしが楽しいこと」でもあるんですが(笑)一方的なお知らせや告知ばかりを投稿するのではなく、作品を思い出してもらえたり、思わず「ふふっ」と笑ってもらえるような投稿を心がけているんです。
それから、制作秘話ですね。「このシーンのこのセリフは、本当は別の登場人物が言う予定だった」とか。
Facebookのわたし個人のページでも発信しています。わたしはいま企業と漫画家をつなぐエージェント業をしていて、Facebookは、横田のファン向けではなくプロデュース業向け。主人の作品に限らずほかの漫画家さんについても紹介しています。
企業の方々が見てくれたときに「この絵を使いたいな」と感じてもらえたら、仕事につながることもありますから。あとは、個人的に本当に漫画が大好きなので、「あのキャラクターかわいい」とか、ファンとしての感想なんかものせています。
───プロデュース業をするうえで気を付けていることはありますか?
坂場:なによりもまず「誠実さ」です。とくに漫画家さんに対して「丁寧に、まめに接する」ことに気を付けているんですね。
たとえば、「漫画家さんを起用したい」という企業さんがいても、なかなか話しが進まないこともあります。そんなときは週1回くらい「まだ連絡がきていないんです」と漫画家さんに進捗のご報告をいれるとか。そういう些細なことですね。漫画家さんって、とても気遣いされる方が多いんです。
それって逆にいうと「おざなりにされたくない」という気持ちがあるんだと思います。こちらにそのつもりがなくても言葉が足りないと誤解につながることもあります。
自分の基準ではなく相手の基準を考えることも信頼関係を築くためには大切だと思いますね。その視点って、PRを成功させるときにも秘訣になるものだと思います。
PRするものの魅力を、自分が理解しつづけること
───PRを成功させるために不可欠なことって、何でしょうか。
坂場:PRする対象をまず自分自身が好きになることですね!魅力を探すことからはじめるといいかもしれません。
主人の話でいえば、まず、わたし自身がすごく彼の作品が好きなんです。さきほどもお話したように、デビュー直後のサポートの原動力は「彼の才能ならもっと売れるはず。桁が違う!」という想いにありました。
あとは、ビジネスというよりパートナーシップの話に近いかもしれませんが、心がけていたのは彼を絶対に否定しないこと。
そして、本人にも周囲にも素直に「すごい」と伝えるようにしていました。いいところを探しつづけることが、ファンを魅了しつづけることにつながります。
PRすること・ものに対して自分が1番の理解者でありファンでありつづけることは大切だと思いますね。
───さいごに、なにかPRしたいものがある!という方に向けてメッセージをお願いします。
坂場:お伝えしたように、わたしも最初はゼロからのスタートでした。がむしゃらに動いて経験と知識を得て、いまは「漫画が売れる」には、制作に関わるすべての人たちとの信頼関係が、かかせないと感じています。ファンの方はもちろん、同じ漫画家さん、アシスタントさんなどとも。
それにはまず、「相手が求めていることを先に自分が提供すること」です。「ギブ&テイク」ってありますが、最初は「ギブ&ギブ」だと思うんです。「ギブ&ギブ&ギブ&ギブ……」くらいして、ようやく「テイク」がくるというか(笑)
漫画出版プロデューサーとしての仕事をはじめたのも、8年ほど前から主催している交流会で企業さんに漫画家さんの紹介を頼まれることが増えたのがきっかけでした。とくに営利目的でやっていた交流会ではなかったんですね。
わたしはもともと漫画が好きですし、なにより「作品の先にいる“人=漫画家さん自体”も、とってもおもしろい」と知っているから、まだまだその価値を伝えていきたいですね!
PRは目の前にいる1人と真摯に向き合うことからはじまるのだと思います。1人のお客さま、1人のファンを大切にするには?という観点から、できることを探してみてください。
インタビューを終えて
あふれ出る漫画への想い、漫画家さんへの想い。ご自身もかつてシナリオライターを目指していたということもあってか、坂場さんからは漫画に対するリスペクトの気持ちがひしひしと伝わってきました。
PRをするということは、そのものの魅力を1番自分が知っていなければならず、そのためには、まずそのものを深く知り、理解し、自分自身がいちばんのファンであること。坂場さんのインタビューを通してPRにおける「伝えたい想い」の大切さを改めて感じることができました。
(取材・執筆 : PRライター もりおかゆか ・ Erina Jenna.H / 編集 : Erina Jenna.H)