PRの手段として自社をテレビ・新聞・雑誌などの情報媒体に取り上げてもらいたいけれど、マスメディアの方とどのように関係を築けばよいのかわからないという声をよく聞きます。
そこで、今回は200年以上続く老舗の和菓子屋「船橋屋」の広報担当をしている篠原優奈さんにお話しを伺いました。篠原さんが担当になったころ、広報は未経験。ゼロからマスメディアとの関係性を築いてきました。
今では「船橋屋」は、多くのテレビ・新聞・雑誌で取り上げられています。メディアリレーションの秘訣は「仲良くなろうとすること」とお話してくれる優奈さんに、どのようにご自身でメディア開拓をされたのか、PRライターのEri Inoueがお聞きしました。
メディアリレーションを築くには、コミュニティを持つことからはじめよう
───広報・PR担当者としての篠原さんのお仕事、どのようなことでしょうか?
主にマスメディアの方々と関係をつくり、自社を取り上げていただけるように働きかけています。
PRとはパブリックリレーションズという意味。これは「良好な関係づくり」をすることを意味しているんですよね。それによって、企業の発展を目指すのがPRなんです。
メディアを通じたPRでは、より多くの人に知ってもらうことができるため、お客さま、社員、メディア関係者の方との関係を構築していきやすいんです。だから、私はメディアリレーションに注力してきました。
そうは言っても、最初に広報担当になったときは何をしたらいいのか全然わからなかったんです。だから、広報・PRのコミュニティに入って勉強会やマスコミの方との交流会に参加していました。
そこで知り合った記者さんにアポを取ったり、コミュニティ内の他社の広報担当の方に記者さんを紹介してもらったりして関係性を築き、記事化していただいてきました。
───コミュニティに所属していない場合、何からはじめたらよいのでしょうか?
ネットで「広報 勉強会」と検索したらコミュニティはたくさんあるので積極的に参加して、記者さんとの交流会に誘ってもらえるように自分から周りの方にお願いするといいと思います。
あとは、まず自社の情報を欲していそうなメディアを知ることが大事なので、本屋さんに行って新聞や雑誌を幅広く読んだり、テレビを見ることも大事ですね。自社と親和性が高そうなメディアがあれば、直接新聞社さんやテレビの編集の方に電話をしてアポを取るといいと思います。
たとえば新聞なら、自社の情報がマッチしそうなコーナーの署名欄を確認して、直接その記者さんに「この前の記事を読みました。うちの商品もこういうのがありまして、このコーナーにぴったりだと思っています。ぜひお会いしませんか?」と、連絡してアポを取ります。
インターネットなら、お問い合わせ先にプレスリリースを添付してメールを送ることで掲載していただけることもあります。メディアの方も情報を求めているので、まずは自社の適地を学んでから、その媒体に連絡をしてみてください。
メディアリレーションを築くコツは、時間をかけてお互いを理解し合うこと
───メディア関係者の方に知ってもらうために工夫したことはありますか?
交流会や勉強会でお会いしたメディアの方々には、後日お礼メールに次回お会いする日程の候補を3つほどいれてすぐにアポイントを取るようにしました。私の場合は1回めのアポでは、「掲載してください」というお願いではなく、お互いのことを知るためにほとんど日常会話をしています。
一方的に自社の話をするのではなく、お互いのことをよく知ることが大切だと思います。もちろん取り上げていただければ嬉しいですが、何よりもまず相手の気持ちを優先して考えるようにしています。
いま全力で自社アピールするのではなく、今後のためにも時間をかけて仲良くなるようにするとよいですよ。すぐに掲載とはならなくても、今後よい商品がでたら提案できますし。
メディアの方たちは、世の中がどういう流れで動いているのかを消費者の方にお伝えしたいという想いを持っていらっしゃいます。だからこそ情報を求めているので、私たちも、とくに専門分野のトレンドや動向はくまなく把握して、世の中の流れや傾向にあわせた商品の提案をすることが大事。
それほど考えられたものであれば、すぐに記事に出してくださることが多いです。そのためにも、情報をつねに積極的に取り入れることは欠かせませんね。
───メディアの方々と仲良くなれば、必ず取材していただけるわけではありませんよね?
そうですね。100発100中ではないです。「取材していただけたらいいな」くらいに思っています。
そもそも「PRするぞ!」と思うよりは「この人と仲良くなろう」と思ってお会いするほうが自分も楽しいし、人と関わって話をするだけで知識も深まって勉強になりますから。
ただ、100発100中の仕事ではないからこそ、社内の人に理解してもらうことって大事だと思うんです。ここに載ってほしいと思ってもメディア次第で叶わないこともあります。
広告ならお金を払って確実に載せられますが、広報はメディアの方が掲載するべきだと思わなければ露出しないので、そういったことを社内の人に理解してもらうために社内報や全体会議で少しずつ広報の仕事について発信しています。
そうやってメディアの人たちとも、社内の人たちとも、お互いのことを理解しながら関係性をつくっていくことこそが広報・PRのお仕事だと思っています。
PRの意味を考えながら周りの人たちと関係を築けば、もっと視野が広がる
───マスメディアで取り上げられることが多くなった今、次の目標はなんでしょうか?
マスメディアだけでは自社の伝えたいことを全部は伝えられません。そのため、SNSやオウンドメディアを使って直接お客さまと関係をつくることが次の目標なんです。
たとえば、テレビに10秒出演したとして、実際の撮影時間は1時間だったということは、よくあります。そうなると伝えられなかった部分を直接お客さまに伝えたくなるんですよね。
そこでメディアリレーションだけじゃなくPR全般について学び、Webの知識もつけられれば、テレビなどを見て検索してくださる方に、自社が伝えたいことをしっかり届けることができます。PR全体の知識やWebの知識は、今の時代欠かせないなと思っています。
Web検索で上位に自社の記事を掲載できれば、テレビや新聞を読まない方にも知ってもらえる可能性がでてきます。また、SNSを使いこなせれば、若い方にも知ってもらえると思うんです。
だから、今はPRとWeb、それからライティングスキルを磨いて、幅広い人たちに自社の情報を届けられるようになりたいです。そして、私の大好きな和菓子を、大好きになってくれる人が増えれば嬉しいです。
───広報・PR初心者は、どこから取り組めばよいのでしょうか?
企業の広報担当者なら、社内での評価としてメディアに露出された件数や媒体名を聞かれることが多いのでメディアリレーションは大事だと思います。
でも、それだけが広報・PRのお仕事ではありません。そもそものPRの意味を考えて、取り組んでほしいと思います。
以前、聞いた言葉で心に残っているものがあります。「広報の最終目的は社員を幸せにすること」と言っている方がいたんです。
メディアに取り上げられることで、情報発信できるだけではなく、それを見た社員やその家族まで喜んでくれたりしますよね。「自分と関わるすべての人との関係づくり=PR」なんだなと、より腑に落ちました。
また、社外の情報や知識があれば自社の商品のPRに取り入れることもできるので、自社の中だけにとどまらず、視野を広く持つことが広報の仕事なんじゃないかなと思います。
まずはいろんな人に出会い、幅広く人と話し、焦らず地道に相手とのゼロからの関係づくりをしていけば必ず成果につながっていきますよ。
インタビューを終えて
実は、PRのお仕事に関わるまでは、メディアリレーションをするには「マスメディアの方に気に入ってもらうために頑張らないといけないのかな?」と疑問がありました。
でも、メディアの方は情報を求めていて、お互いに対等であり、売り込むのではなく信頼関係が大事ということがわかりました。
メディアの方と長期的に仲良くなること、社内の人に広報のお仕事を知ってもらうように時間をかけて伝えることが大事という点から、「PR=すべてのステークホルダーと良好な関係を築く」という意味を改めて実感しました。
メディアリレーションを行うときはもちろん、どんな仕事においてもまず相手を知って仲良くなることからはじめて、長期的に関係をつくることが大事ですよね。私も改めて、意識しようと思いました!
(執筆:PRライター Eri Inoue)