「フリーランスになりたい!」そんな思いを実現するために、特別な準備や資格は必要なのでしょうか? また、経験値が少なくても独立はできるものなのでしょうか?これらは、フリーランスを目指す方にとって気がかりな点でしょう。
教育情報誌の編集者からライターとして独立され、現在は教育ライターとして活躍しながら、株式会社レゾンクリエイトの執行役員もされている佐藤智さんも、独立当初はそんな悩みを抱いていたそうです。
フリーランスとしてどうやって仕事を生み出せばいいのか、自分にマッチした仕事でフリーランスをつづけていくにはどうすればいいのか。
佐藤さんに、自分らしい生き方を支える働き方の追求について、PRライターの根本美紗子がお伺いしました。
フリーランスなら、「やりたいこと」が変わっても自分で仕事をつくることができる
───会社員からフリーランスになることを後押ししたものはなんだったのでしょうか。
佐藤智(以下、佐藤):ライターになりたいと思っていたときに、出版業界の交流会に参加する機会があったんです。
そこで、とある編集者さんに「書くことが好きで、ライターの仕事に興味があるんです」とお話をしました。すると、「今の時代、ブログなど書く機会はいくらでもある。まずはやってみたら?」と言っていただきました。
ちょうどその頃、私は会社の編集部から異動し、自分の仕事はこれでいいのだろうかと思い悩んでいたタイミングでした。目前の仕事にがんばってはいたのですが、やはり文章に関わる仕事がしたいと思いはじめていました。
編集者さんに言っていただいた通り、まずブログを書いてみることからスタートしました。それを読んだ友人たちが褒めてくれ、もしかしたら自分の文章が売りものになるかもしれないという期待感が生まれます。その経験が、独立を後押ししてくれました。
日本人は、「やりたい」ということを口に出すことが苦手だと思うんです。でも、声に出して言ってみることで後押ししてくれる人が現れたり、動いてみることで道が拓けたりすることは、案外多いんですよね。
何か発信をしてみる、これだと思ったことには飛び込んでみる。そうした行動が、チャンスにつながるのだと思います。
───好きなことを仕事としてつづけていくことは、案外むずかしくはありませんか。
佐藤:フリーランスであることの魅力は、自分の限られた時間や人生をどう使っていくのかを自分自身で考えられることです。仕事も1つに縛られる必要はありません。
ライターで独立したからといって、ずっとライターでありつづける必要もないのです。「好きなことを仕事にしたら、好きなままではいられなくなるんじゃないか」という相談をされることがありますが、フリーランスであれば、自分の関心に合わせて柔軟に仕事を進化させていくこともできるんです。
わたしは、ライター以外にも場作りやファシリテーションに興味があります。北九州で中高生向けのワークショップのお手伝いをしていく中で、対話の活動に興味を持つようになりました。
その活動は直接的にライターの仕事とはリンクしませんが、学校以外の教育を考えたり、他者の意見を知り自分の思考を深めたりと、自分らしく生きるためには確実にプラスになっています。
フリーランスは、2足のわらじをはこうが、3足になろうが4足になろうが、自分次第なんです。ライフスタイルを自分の好きなことで自由に組み立てながら仕事ができるのは、フリーランスの強みですね。
フリーランスをつづけていくための3つのコツ
───読者のなかには収入面が気がかりで、フリーランスに踏み出せない人もいると思います。収入を維持しながらフリーランスをつづけていくポイントを教えてください。
佐藤:フリーランスをつづけていくには、3つのポイントがあると思っています。
1つ目は縁を生み育むこと、2つ目は意識的に自分をアップデートしていくこと、3つ目は自分の仕事の基準を持つことです。
まず、縁を生み育むこと。これについては、私の実体験をお伝えします。
フリーランスになりたての時に、ある有名な編集者さんの講演に行き、名刺交換をしました。その日の夜に、「ライターとして一人前に食べていけるようになりたい。野心があります!」といったメールを送ったんです。
そして、数日後にその編集者さんから電話で依頼をいただき、5~6年経った今も定例のお仕事がつづいています。縁をつくるだけでなく、いただいたお仕事に向き合って丁寧に仕上げて、縁を育むことも重要でしょう。
2つ目は、意識的に自分をアップデートしていくことです。フリーランスは成長の機会を自らつくっていく必要があります。何もしないでいると停滞するので、今でもいろいろな講座に参加して、知識をアップデートしています。
また、ライター同士のつながりも、大切にしています。仕事の進め方を教えてもらったり、困りごとの相談をしたりして、ライター仲間と話をしていると書く意欲をチャージし、成長することができます。仕事の紹介をし合うこともできるので、心強いつながりですね。
3つ目は、自分の仕事の基準を持つことです。お金ありきで手当たり次第に仕事を受けてしまうと、疲弊することもあります。ご依頼主と仕事がしたい、あるいは、今の自分に必要な成長ができそうだなど、自分にとってプラスになることをしっかり見極めて、仕事にいどめるとよいでしょう。
フリーランスをつづけるうえでは、収入を失わないことと同時に、自分にとってその仕事がどんな意味があるのか、案件を見極めていくこともとても大事なポイントだと思います。
───フリーランスになるために、準備しておいたほうがよいことはなんでしょうか?
佐藤:自分の専門分野を持てるとすごく強いと思います。わたしは教育学部出身で、教育情報誌の編集をしていたので、教育という強みからお仕事のご依頼をいただくことが多かったです。
でも、なかには、自分の強みを発見しにくい人もいると思うので、そんなときは自分だけで悶々と悩むのではなく、人と話をしてみましょう。自分ならではの強みが見えてくるはずです。
私も独立後、教育のなかでもどのような仕事をしていけばよいか迷っていました。そのとき、ある編集者さんに自分の経験をお話しました。それがきっかけで、『公立中高一貫校選び 後悔しないための20のチェックポイント』を出版することにつながったんです。
必ず1人ひとり、オリジナルの強みを持っているはずです。強みがわかれば、まずはその領域で信頼を積み重ね、少しずつジャンルを広げていくこともできます。
私も学校教育が専門ですが、現在は人材教育などにも仕事の幅が広がっています。自身の得意を軸にしながら、成長していけるといいですね。
ただ待つのではなく自分からチャンスを掴みにいく姿勢が大事
───現在はフリーランスから、経営者になられています。どのような想いで法人化に踏み切ったのでしょうか。
佐藤:さまざまなお客さまとお仕事をするなかで、その素晴らしさを表現するお手伝いをもっと充実させたいという想いがあったんです。
そんなとき、同じ想いをもっていた共同創業者と仕事をする機会が増えていきました。彼女とわたしはお互いに得意とする分野がまったく違うので、一緒に働くことでご依頼主の期待に一層応えられるようになるのではないかと考えたのです。
社名は、フランス語の存在価値という意味の「レゾンデートル」から取りました。お客さまの存在価値をともにつくっていくという想いを込めて、「レゾンクリエイト」と名付けています。実際に、ご依頼主さんと思い描いていたような関係性を築けるようになり、成果にもつながっていきました。
法人化した今も、自分の時間をマネジメントすることはフリーランスのときと変わりませんし、フリーランス時代からのお仕事は大切に継続させてもらっています。
───最後に、フリーランスを目指す方にメッセージをお願いします。
佐藤:私は誰もが闇雲に独立した方がいいとは思っていません。会社員をつづけるのも、立派なことです。もっとも大切にすべきは、「自分の人生であることを踏まえ、自分のために時間を使えているか」という指標です。
わたしたちは現代社会で与えられすぎて育っているので、いい機会が巡ってくるのをずっと待っているようなところがあります。でも、自分で自分を幸せにしてあげる覚悟を持たなければ、結局は満足いく人生には辿りつきません。
周りに迷惑をかけてしまうと心配になることもあるでしょうが、まずは自分が幸せになるためにはどうしたらいいかを考えてください。そして、フリーランスの道が最適だと感じるならば、ぜひ1歩踏み出してみてください。
インタビューを終えて
新しいことに踏み出すときは、誰でも勇気がいるのではないかと思います。今回のインタビューで、「人生は地つづきなので、会社を辞めて一旦すべてがリセットになるわけではない」と佐藤さんはおっしゃっていました。
今できることに対して全力で取り組んでいれば、一見フリーランスにつながらなさそうなことでも決して無駄になることはないのだと私自身も希望を持てました。
佐藤さんのように自分の気持ちややりたいことに正直に向き合って、自己を掘り下げる時間を私も大切にしたいと思いました。
(取材・執筆:PRライター 根本美紗子 / 編集:PRライター 仲間亜希子)