世の中と信頼関係を構築することでビジネスを発展させていく“PR”が近年、注目されています。そんななか実際どのようにPRを進めていくべきか、悩んでいる方も多いのではないのでしょうか。
今回は、アパレルブランド「OneLuck」を展開する佐野幸策(さの こうさく)さんへのインタビューを通して、PRの秘訣を伺いました。
佐野さんは、ゼロからブランドの信頼を高め、PRによって売上につなげていらっしゃいます。クラウドファンディングの達成、集英社が展開する「Suadeo」やLDHが展開する「TEGTEG」とのコラボなどを果たした佐野さんから、PRを通したファン化の方法を学びましょう。
クラウドファンディング達成のポイントは、つみかさなった信用と信頼
───さっそくですが、クラウドファンディングでは1か月ほどの期間で553,245円を集め、目標金額の110%を達成されていますよね。
佐野幸策(以下、佐野):はい。僕はSNSが疎くて、Facebookしか使っていなかったんです。そのため、Facebookでのお知らせや口コミ、今までのつながりや友人への連絡を中心に告知をしました。ゼロからのスタートだったので、ブランドよりも「自分がクラウドファンディングをする」ということを伝えました。
すでにファンが多いブランドだったというわけではないので、自分の信用(自分との人間関係)が達成につながったのだと思います。
そのときに理解・支援してもらえた理由は、やっていることを正確に話すこと、絶対に嘘をつかないことでしょうか。
たとえば、多くの人が持つ「肌に優しい」生地へのイメージとしては、「柔らかい・ふわふわした素材=肌に優しい」につながります。でも、うちのブランドは和紙からできているので、すごく柔らかいというわけではありません。ハリ感があるんです。乾いている状態だと麻などに近い肌ざわりでしょうか。麻とコットンの間みたいな感じなんですよ。
リターンとして手元に届いた製品が期待外れにならないよう、そういった話もきちんとしましたね。
もちろん、和紙でできたアパレルがいかに肌に良いかというエビデンスもちゃんと公開しました。
───クラファンで多くの支援者を集めたOneLuckですが、始めたきっかけはなんだったのでしょうか。
佐野:始めたきっかけは、自分の子どもに肌の疾患があったことです。寝ながら血が出るほど引っ掻いていたんですね。それを緩和するために、自分にできることは何だろうと考えました。
僕は、今のブランドを立ち上げる以前、ずっとファッショッンブランドでパタンナーの仕事をしていたんです。だから、コットンよりも肌に優しい素材がないかを調べることにしました。
そのなかたどりついたのが、和紙でした。シルクやウールなどすべて含めて比べても、和紙がもっともよかったんです。だから、布にして服にしようと。
和紙を使いたかったわけではなく、素材としてエビデンスがよかったということがポイントですね。
良いブランドづくりとPRには「誰と」仕事をするかが重要
───コラボレーションも、PRにおいて欠かせないポイントです。OneLuckは、集英社の「Suadeo」やLDHの「TEGTEG」など、他のアパレルブランドとのコラボが実現していますよね。
佐野:そうですね。今のところ公開されているのは、その2社です。「Suadeo」は、女性向けアパレルブランド。ワンピースとTシャツを一緒につくらせていただきました。「TEGTEG」からは、赤ちゃん用の服を出したいというご要望があり、一緒に展開させていただくことになりました。
そもそもは、パタンナー時代のお取引先だったんです。どんな方であっても、会ってすぐにコラボの話をしないようにしています。ある程度の人間関係ができてからブランドの話をさせてもらうことが、信頼につながると思っているからです。
関係構築を基本としてビジネスをする“PR”においても大切な姿勢だと思います。
───OneLuckを多くの人に届けるために、意識して行動していることはありますか。
佐野:人と出会う場に顔を出してパイを増やすようにしています。とくに、いいなと思う人のイベントや会にはなるべく出向きます。なぜなら、主催者に似た価値観の人に出会える可能性が高くなるからです。そうするとどんどん良いご縁が広がっていくんですよね。
「この人と仕事をしたら面白いかも」というフィーリングや相性って重要だと思うんです。仕事って、人と人同士で行うものなので、たとえ相手がどれだけすごい人だとしても、求められていなかったり、合わないと感じたりしては意味がありません。
人の幸せって、日常にある当たり前のアベレージをあげることにあると思っていて。肌着で困っている人にはもちろん、困っていない人にも、これまで味わえなかった新しさがあるこのアンダーウェアを着用することによって、小さな幸せを感じてもらいたいんですね。
OneLuckは「生活」を作っている形の1つでありたいと思っていて。合う人や大切な人って、それを正しく理解して、共感してくれると信じています。
「この人と一緒に、仕事がしたい」と思う人と、関わりを深くしていくと、さらに良いご縁を紹介し合えたり、自然とブランドにとって良い流れができるんです。
売上だけを追わない。信念を持ってサービスを育てることがPRにつながる
───他に信頼構築のために心がけていたことはありますか。
佐野:自分がやっていることについて定期的に発信していくというのは大切だと思います。僕はそれが苦手で、外部のPRを専門としている方と定期的・短期的に組んで組織としてものが動くようにしていました。
誠実に商品やサービスをつくっていることを、ちゃんと世の中に伝えるには、組織化が重要だと思うんですよね。
自分にできることは自分がやる。そして、専門家の人たちにも相談して依頼する。そうして力を合わせることが大切です。
それから、クラウドファンディングのときもそうでしたが、「肌に優しい」と謳っている以上、「肌に優しい」についての考え方が、お客さまとずれないように気をつけています。あらかじめDMやメッセージで、素材の質感などを正確に伝えるようにしています。そうすると、到着してからのクレームがないし、少なくとも返品なんてことはありません。
素材がちゃんと伝わっているから、その後はリピート率も高く、口コミで広げてくださる方も多いです。
───最後に、これからPRをしようとしている人に向けてメッセージをお願いします。
佐野:特に0からのスタートはブランドや製品そのもののファンになってもらうために、お金儲けを入口にしないこと。なぜ自分がこのブランドを始めて、それを今後も続けていきたいか、ということの方が大切で、人の心に響くものです。
経済的なことは本来、入り口ではなく、出口。最初にそちらを目的に持ってきてしまうと、結局出れなくなってしまうんですよね。だからこそ入口は大切。
何のためにやるのかをしっかり考え、色んな人と話をすることでその意義を磨き、自分ができることを順番にやっていく、というのが理想とする売上のつくりかただと、僕は思います。
そこに嘘やよこしまな気持ちがなければないほど、大切な人の存在に気づけるし、信頼も一緒についてきて、結果的にそのPRは成功するんじゃないかなと思います。
インタビューを終えて
OneLuckの佐野さんがいかに「信頼」を味方にして同業者や顧客と良好な関係を築いてきたかがよくわかるインタビューでした。
・人それぞれの認識のズレが生じないように購入者に素材の説明をする。
・大切な人に出会うため自ら足を運び、自分がなぜやるのかをきちんと話す。
・中途半端にならないように専門家を味方に組織化し、その中で自分ができることをやる。
こうした佐野さんの誠意ある努力が、ブランドそのもののファンを増やす要因だったんですね。
クラウドファンディングや他企業とのコラボ、顧客のリピート率の高さなどPRの視点からも成功している実績を持つ佐野さんだからこそ、最後の「嘘やよこしまな気持ちがなければないほど、そのPRは成功する」という言葉に強い説得力を感じました。
PRの本質とも言える信頼構築ですが、その入口には「自分がやるべき理由」があることを忘れずに、私自身も今後の人間関係においてそれを意識して行動したいと思います。
(取材・執筆:PRライター 岡本大樹)
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