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本音と建前の関係に終止符は訪れるのか? 人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用 篠田真貴子×川崎貴子対談(前編)

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東京糸井重里事務所の取締役・CFOの篠田真貴子さんと、ninoyaブログでもおなじみの川崎貴子との対談が実現! 外資系キャリアから出産を経て、東京糸井重里事務所へ転職した、異色の経歴を持つ篠田さんのキャリア哲学を、川崎が掘り下げます。

ALLIANCE アライアンス―――人と企業が信頼aで結ばれる新しい雇用
リード・ホフマン;ベン・カスノーカ;クリス・イェ (著), 篠田 真貴子;倉田 幸信 (翻訳)
ダイヤモンド社

(取材・文/朝井麻由美

 

会社と人との関係性の新しい形

川崎貴子(以下、川崎):今日は篠田さんと対談できるのをとても楽しみにしてきたんです。篠田さんが監訳された『ALLIANCE アライアンス―――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』を読んで衝撃を受けたもので。

 

篠田真貴子(以下、篠田):えっ、そんな、川崎さんにそう言っていただけるなんてすごく光栄です。

 

川崎:この本が提唱している事って、理想的でありながら実は本来あるべき姿と言いますか、当たり前の事なんですよね。そして、今までの日本の雇用環境が、本音と建前で騙し合いをしているというのを、この本は白日の下に晒したといいますか。

 

篠田:ええ、ええ、本当に。私がこの監訳の仕事をお引き受けした動機のひとつが、このタイプの働き方に名前をつけることで認識が広がり、不安を軽くできる人がいたらいいなと思ったからなんです。こういったキャリアの積み方をしている方は、私の周りに限らず、たくさんいらっしゃるんですよ。実際、この本を手に取って下さった方々からの感想で「これ、自分です」というのもたくさんありました。けれど、世の中で新卒一括採用・終身雇用、のイメージがあまりに強くて、そうではないタイプの働き方が認識されていないがために、何かの巡りあわせでそのルートから外れたときに、ものすごく不安になるんですよね。

 

――例えば、新卒で入った会社を辞めて別のキャリアを積む、などでしょうか? レールから外れようとすると、たいてい猛反対に遭いますよね。

 

篠田:そうですね。そこに、「こういうジャンルもありますよね」と名前が付いて認知が広がったら、結構変わるのではないか、と思ったのです。

あるシリコンバレーのメガベンチャーの創業者がおっしゃっていたのですが、『ALLIANCE』を読むまでは、自分の会社を辞めていく人を「裏切り者」のように感じていたのだそうです。創業者でいらっしゃるからこそ、愛着のある自分の事業を辞めていかれることがショックだし、自分のマネジメント力が不足していたんじゃないか、とも思ってしまうんですって。それが、『ALLIANCE』を読んだことで、「会社が巣立ちの場として優れていたから、この社員は辞めて次のステップに行けるんだ」という捉え方ができるようになったんですって。

 

川崎:わかります。ベンチャー創業者のほうが余計、自分が作った会社でもありますし、何もないけれど自分の夢や魅力でもって社員がついてきてくれただろう、という感覚がありますから余計に傷付きがちです(笑)

 

篠田:ええ、そうですね。

 

川崎:アライアンスの考え方を企業が導入するにあたって、この「会社は巣立ちの場として~」という部分はかなり大きな壁だと思います。もうひとつの壁は、会社のミッションステートメントについて。『ALLIANCE』に「(ミッションステートメントは)一部の有能な人たちに強い整合性を感じさせる一方で、他の人たちには『この会社は自分に合わない』と気づかせるほど十分に具体的でかつ厳密でなければならない」とあります。そこまで具体的で厳密なミッションを提示できる管理職を育てなければならないし、働こうとする側も自身の厳密な価値を知り、プレゼンできなければいけないというところでしょうか?

 

篠田:「自分は何が提供できるのか」について初めから明確な答えが出ている必要はないし、途中で変わっても構わない。自分に問い続けることが重要なんですよね。

 

川崎:そういった、「自分自身は本当はどうしていきたいのか?」と考える教育って誰も受けてきていないから、不得手な人が多いですよね。勉強して覚えて、テストで点数を取れば合格、というものばかりで。

 

篠田:そうそうそう。「仕事の良し悪し」って、他者が決めるわけだから、それってつまりは他者との関係性の中にあるものなんです。一方で、点数を取れば合格というのは、関係性ではなくて自分の中だけで完結している。関係性の中で自分は何をしたくて、かつ、人に喜ばれることは何なのか、を見つけましょうというのがこの本の考え方です。

 

ミスマッチ採用を防ぐためのアライアンス

篠田:今お話したのは働く人向けのことですが、採用側のお話もさせていただいてよろしいでしょうか?

 

川崎:はい。是非!

 

篠田:アライアンスには、ローテーション型・変革型・基盤型と3種類ありまして、適性や最終目標によって分けられるんですね。それで、定型的な仕事にコミットするローテーション型ですごく良い例としてご紹介したいのが、ヤマト運輸さんです。ヤマトのドライバーさんたちは、どこの営業所でも同じ仕事をしています。外から見た個人的な印象でしかありませんけれど、ドライバーさんたちが「自分が頑張らなくても替えがきくから」という意識でいるかというと、全く違う。皆さん、社訓の「ヤマトは我なり」に従って、「自分はヤマトの社員だ」と自覚してお仕事されている印象です。

 

川崎:そうなんですね。

 

篠田:私どものほぼ日刊イトイ新聞は通販をやっていまして、その通販の配送をヤマト運輸さんにお願いしています。ヤマトさんはこちらからお願いしている指示が、末端までビシッと伝わるんですよ。

 

川崎:へえ~!

 

篠田:サービスの水準が素晴らしいです。多くの社員の方が、なぜ自分はここで働いているのかをちゃんと認識していないと、こうはできないのではないでしょうか。「ほぼ日」のコンテンツにもなりましたが、震災直後、連絡経路が完全に絶たれた状態のときに、ヤマトのドライバーさんたちは、本部の指示なしに全部現場の判断で、物資を運んだり、倉庫を支援物資を捌く場所として解放したりしてらっしゃったんですよ。どうしてそういうことができたか。会社として何が大事なのかを全ドライバーずっと共有してきて、ドライバーもきちんと受け取っていたからです。

 

――「ヤマトは我なり」というと、一瞬ブラック企業のような感じを受けてしまいますが、そういうことではないんですよね?

 

篠田:ブラック企業のように高圧的に取り締まってるのではなく、信頼されるに足る経営をし、信頼されるに足る力をつける努力を社員個人がしている。1対1の普通の人間関係だったら当然やることですし、ヤマトさんは会社と社員の間できっとやっていらっしゃる。でも、なぜか多くの場合、雇用・被雇用の関係だとやらなくなってしまうんですよね。

例えば、買い手市場のときは会社の都合が優先されがちで、売り手市場のときはその逆になる。売り手と買い手がイーブンなら、アライアンスのフラットな信頼関係が作りやすいと思うんです。

 

川崎:雇用側と採用側が対等になる。

 

篠田:そうです、そうです。お互いに譲り合おうというマインドで採用の交渉に入れるんだと思います。

 

川崎:「いい人だったら採る」とかではなく。

 

篠田:「いい人」ってなんなんだ!って話ですよね(笑)。

 

川崎:もう、「いい人だったら採る」とか言っていると、存在しないようなパーフェクトな人材を探そうとしちゃうんですよ。人事にしてみたら、「この能力が欠けていたから採用を間違ったよね」なんてあとから言われるのも嫌だから。

 

――「いい人がいたら結婚したい」とか、白馬の王子様を待っているみたいな感じですね。

 

川崎:そうそうまさにそれと同じ(笑)

 

篠田:営業だったら営業の現場の人が採用する、とか、その人が所属するであろう部署が採用を担当すると、このアライアンスの考え方はかなり馴染むかもしれませんね。

 

川崎:確かにそうですね。現場の人間だからこそ、ミッションをリアリティを持って説明できますし。

 

篠田:奥の院のような人事が採用取り仕切ると、これがうまく成り立たなくなるんですよね。

 

川崎:こんな話があって、知り合いの社長が秘書を募集したんですね。それで、人事は、「社長は気性が激しいところがあるから、従順でおとなしい人がいいだろう」という基準で探した。ですから、スペックは高いのに、従順さに欠けそうな方は次々落とされて、ようやく合格者が出ました。ところが、実は社長は従順さとは真逆の、気の強い秘書を求めていて結局不合格に、という。

 

篠田:(笑)。イメージだけで的外れなことをしてしまったんですね。

 

川崎:社長の奥さんも気の強い人だったという裏話も(笑)「私はこういう考えを持っています!」としっかり主張しちゃうような人は軒並み面接で落とされたのに、本当はそっちを採用したほうがよかった。こういうのは採用あるあるでして、社長にはこういう人がよさそう、とか、今までずっとこういう人を採用してきたから、というイメージに引っ張られることは本当に多いです。

 

篠田:ありますね。極端な例なんですが、ネームバリューの高い大企業に勤めている若い知り合いに、仕事がつまらない、と相談されたことがあるんですね。そのとき思ったのが、彼はオーバースペックで、採用ミスだったんじゃないか、と。なぜその企業が大企業にまで成長したか考えてみたら、かつてのイノベーション、フロンティアの仕事を、誰もができるように“仕組み化”したからなんですよ。その結果、高学歴の彼らのスペックと、大企業の仕事がマッチしない状況が生まれた、ということがありえるわけです。

 

――なるほど。

 

篠田:彼ほど突き抜けた人材ではない方のほうが、その大企業の安定性やネームバリューを誇りに思い、心からやりがいを持って働いてくださるかもしれません。なのに、50年前からの癖でつい超高スペックな人材ばかり採るから、彼らが力を持てあましてしまうわけです。

 

川崎:もっとできるのに、やらせてもらえない、と。

 

篠田:そうそうそう。超高スペックの人たちは、仕組み化されてない仕事を生む意欲も能力もあるわけですから。

(後編につづく)

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川崎貴子

リントス株式会社代表。経営者歴21年。女性の裏と表を知り尽くし、フォローしてきた女性は1万人以上。「女のプロ」の異名を取る。プライベートではベンチャー経営者と結婚するも離婚。8歳年下のダンサーと2008年に再婚。12歳と5歳の娘を持つワーキングマザーでもある。著書に『私たちが仕事をやめてはいけない57の理由』(大和書房)、『愛は技術 何度失敗しても女は幸せになれる。』(ベストセラーズ)、『結婚したい女子のための ハンティング・レッスン』(総合法令出版)、二村ヒトシとの共著に『モテと非モテの境界線 AV監督と女社長の恋愛相談』(講談社)等がある。

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