三味線ガールは海を渡る

三味線に対する壁をぶっ壊すために、先生や師匠は存在します

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飛行機の国際線で、珍しいことに三味線を使った寄席の番組と巡り合いました。三味線の演奏が入った落語は初めてで、聞きながら笑っていると、隣の欧米人のお兄さんに訝しげに見られてしまった鬼龍院花枝です。

さて、私は三味線を教え始めたのは22歳の時でした。教えられる立場と教える立場を同時進行していた私は、次第に「教える技術と自分の演奏が上手くなる技術は別なのだ!」ということに気が付きます。今回はそんな話をいたします。

 

 

「技芸は見て盗め!」がデフォルトの伝統芸能の世界

伝統芸能の世界は、教え方にも基本的なルールがあります。もちろん先生によって違いはあるのでしょうが、かつての伝統芸能の教え方は「師匠の技を見て盗め」。

現代の手取り足取り教える学校教育のような優しい指導方法はそこにはなく、少ない言葉数で必要最低限のことだけを伝えられるやり方が主流でした。

「盗む」などというスキルはファイナルファンタジーⅨの世界にしかないと思っていた私は「いや、盗むとか言われても意味がわかりませんっ!」と心の中のTwitterで毎日呟いていました。

ですが、当時の私はプロの三味線奏者としての指導を受けていたので、いわゆる「目で盗め」メソッドの指導方法にならざるを得なかったのだと思います。

 

「見て盗め!」はカルチャースクールには合わない教え方

そんな「見て盗め」メソッドの指導が通用しない場所があります。それはカルチャースクールなど、趣味で三味線を始めた人たちが集まる場です。

日々の楽しみ、また人との交流のために三味線教室を習いに来た生徒さんに、真顔で「芸は目で盗みましょう!」などと言って指導を始めると、せっかく集まった生徒さんは「やっぱり伝統芸能の世界は難しいし何だか怖いわ!」という感想だけ胸に抱いて無言で去ってしまいます。

私が始めたカルチャースクールでは、常に「分からないことを分かりやすく」、その上「丁寧に根気強く」説明するスキルが求められました。これは「見て盗め」メソッドで教えられてきた私には新たな壁となりました。

言葉をなるべく多く介して、イメージを掴みやすいものに例える…

このようなことを日々繰り広げる職業の方がいることに、ふと気付いたのです。それは幼稚園や保育園で働く保育士さんだったのです。

 

「幼稚園児にも理解できる言葉」で説明することの難しさ

そのことに気づいてからは、実際にその教育現場を見せて頂いたり、保育士の知り合いにも指導のコツなどを聞き、分かりやすさとイメージの掴みやすさを伝える指導方法を勉強しました。また、分かり易い話し方のポイントを教えてもらったり、講演会などにも赴きました。

三味線は最初の持ち方や音の出し方が最初の難関となります。ここを乗り越えてようやく三味線の面白さが少し見えてくるのです。

ですので「最初の段階で躓いて諦めて欲しくない!」という気持ちもあり、とくに初期段階の指導方法はイメージの掴みやすさとやり易いやり方に重点を置きました。

ポイントはやはり「幼稚園児にも理解できる言葉」で説明することと、もう一つ大事なことがあります。それは「どうしてこれで分からないんだ?」という考え方を捨てることでした。分からないところは違う言葉で言い直したり、例えを変えてみたり…。

色々な角度から三味線の指導を分解し、組み立て説明する作業は私にとって今でもとても楽しい作業です。

 

演奏が上手い人と、指導が上手い人は求められるスキルが違う

私が三味線教室を開くにあたり、お師匠様から頂いたお言葉で忘れられないものがあります。

「三味線を教え始めると、自分は下手になるわよ。」

その言葉の意味が、教え始めてようやく理解できたように思います。自身の技芸を向上させることと人に教えることは求められるスキルが全く違うのですから!

 

私は”指導する”というに関しては、人によって向き不向きがあると思います。また、その指導方法が生徒によって合う合わないももちろんあります。

ですが、技芸の向上だけでは普及は難しく、指導ばかりしていても技芸は磨かれません。そのあたりのさじ加減が非常に難しい…のですが、それを考えることもまた指導する側のある種の楽しみだと私は考えています。

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鬼龍院 花枝

三味線指導、演奏家。気づけば20代の9割を三味線の指導と演奏に費やし、「三味線を教えている」と自己紹介すれば二度見されることにも慣れてきました。堅苦しさ皆無で三味線の魅力を知ってもらえればと思い、執筆活動もしています。

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