まだ残り3ヶ月ありますが、2016年ほど映画館へ足を運んだ年はなかったように思います。普段は年に2回も映画館へ行けば多いほうで、家でもあまり映画を観ない自分ですら「映画をいっぱい観た」という実感のある今年。すでに10回近くは劇場を訪れたと記憶しています。
日々、数多くの映画が封切りとなっているなか、今年は特に東宝映画の勢いが止まりません。
『信長協奏曲』『ちはやふる』といった漫画原作の実写映画をはじめ、毎年恒例の『名探偵コナン』『ポケットモンスター』などの劇場版アニメも好調。そして何より、この夏の『シン・ゴジラ』『君の名は。』両作の爆発的なヒットが話題を呼びました。
そんな2016年の東宝映画に関して、主に最近話題の後者2作品にしぼり、ヒットの理由を考えてみました。
はじめに「宣伝」ありき
まず、『シン・ゴジラ』にせよ『君の名は。』にせよ、公開前の「宣伝」活動にかなり注力していた点が共通点として挙げられるように思います。当然、映画には大なり小なり広告費が突っ込まれるわけですが、両作品に関しては特に力を入れ、街中でも目に入るような展開をしているように見受けられました。
例えば、『シン・ゴジラ』について。池袋サンシャインには「ゴジラの足」が、渋谷パルコには「巨大壁面オブジェ」が登場し、道行く人の目を引いていたのは記憶にも新しいところ。
他にも各地で展覧会が開かれたり、コラボ商品が発売されたりと、上映前からあちこちで話題になっていました。特にコラボポスターは、そのギャグにも見える絵面のインパクトがネット上でも取り上げられていましたね。
一方、『君の名は。』に関しては、『ゴジラ』と比べると大々的なコラボがあったわけではないように見えます。もちろんまったく皆無というわけでもなく、目立ったキャンペーンとしては、サントリー天然水とのコラボCM、FUN! TOKYO! のモバイルスタンプラリーなどがありました。
しかし他方では、公開前の時点で発売した原作小説がベストセラーになるなど、当初から話題性は充分にあったようにも思います。「書店へ行けば作品の名前が入る」というだけでも充分な宣伝効果が期待できますし、陳列本とあわせて作品PVを流している店舗も少なからずありました。
そしてもうひとつ、公開前の話題性として「RADWIMPSが楽曲を担当する」という要素も大きかったのではないでしょうか。
若者世代に人気のバンドが、映画の主題歌だけでなく劇伴も担当するという事前情報。RADの曲をBGMに映画のCMが流れれば気になりますし、若い層に対して作品の存在をリーチさせる効果があったのではないかと思います。
しかも、映画のターゲット層とRADのファン層が丸かぶりするだけでなく、そもそも「映画自体がRADWIMPSの楽曲ありき」だったことが、実際に作品を観るとわかります。となれば、「RAD目的で行ったけど、おもしろかったよ!」という口コミが必然的に広まり、さらなる話題を呼んだ――と考えても、あながち間違っていないのではないでしょうか。
インターネット上の「口コミ」効果も無視できない
『君の名は。』のネット上での口コミ効果に関しては、境治さんが以下の記事で分析しておられます。Twitterでのツイート数に限って見れば、『君の名は。』は『シン・ゴジラ』以上の盛り上がりを見せていた、と。
自分がタイムラインを眺めていた実感としても、普段はアニメを観ない層、強いて言えば「アニメ映画はジブリか細田守作品しか観に行かない」という、いわゆる“オタク”とは異なるクラスタの人たちが、『君の名は。』の感想を夢中になってツイートしている光景がたびたび見られました。
新海誠監督の過去作品と言うと、これまではまだ少しマイナーな印象、「深夜アニメも普通に観るようなアニメ好き」が好んで観る映画という印象が強かったのですが、今回の『君の名は。』によって一気に大衆化したように思います。そこに前述の宣伝と、ネットの口コミ効果があることは間違いないはずです。
『シン・ゴジラ』についても同様です。公開当初から「思わず語りたくなる映画」として、元来の映画クラスタやゴジラファンのみならず、たくさんの人がSNS・ブログで感想を書いており、いまだにその流れが続いています。Togetterのタグ「シン・ゴジラ」が付いたまとめの多さが、その盛り上がりを表していると言えるでしょう。
上映開始からしばらく経っても、発声可能上映をはじめとする企画があり、製作にあたって取材協力をした政治家さんたちへのインタビュー記事などもあり、今なお話題には事欠かない人気作品。それらの熱を届ける媒体としてネット・SNSが大きな機能を果たしており、映画のヒットにも結びついたと考えられます。
「当事者」として、鑑賞後も含めて映画を楽しむ
ジャンルはまったく異なる両作品『シン・ゴジラ』と『君の名は。』ですが、そのヒットの背景には公開前の「宣伝」と封切り後の「口コミ」がある――そう言えるのではないでしょうか。
先ほど引用した記事でも、次のような指摘がありました。
いい作品だから送り手が集まり、ひとつになり、力を合わせてみんなに知ってもらう。受け手は、共感できそうだと思ったら一緒になって盛り上げる。そうやって生まれたとんでもないヒットが、実際にいま巻き起こっているのだ。
知り合い同士の口コミだけでは物足りず、今や情報収集のため誰もが使うのが当然となったインターネット。そのなかでも特にSNSの存在によって、不特定多数の感想やコメントが積み重なり、大きな熱狂を生んでいるのではないか、と。いずれの作品にせよ、一方通行の「宣伝」だけでは成り立たなかった大ヒットであるように思います。
映画館で映画を観るだけでは終わらず、友人と一緒に感想を話すだけでもまだ足りず。今は誰でも、感じたことや考えたことをSNS上で共有することができます。映画はあとでDVDで観ることもできますが、おもしろかった作品をネット上で語り、その熱狂を生み出す当事者の一人として参加できるのは、今だけです。
何はともあれ、論より証拠。
まだ観ていない人は、この週末にでも映画館へ行ってみてはいかがでしょう?