少し前の話になりますが、2010年にアメリカで驚きの報道がありました。
Hitwiseの調査によれば、これまで、アメリカ国内におけるウェブサイトのアクセス数で常にトップを維持してきた「Google」が、2010年3月に他のサイトに首位の座を取って代わられたとのこと。
そこでトップに立ったサイトが、「Facebook」でした。
2014年現在のデータはちょっと見つからず、2013年の調査では「Yahoo!」が首位に踊り出たという記事もありましたので、実際のところは分かりません。
しかし、いずれにせよ、これまでのように「検索エンジン」からインターネットの情報を収集するだけの時代は終わり、Facebookも含めた様々な「ソーシャルメディア」を利用した情報流通の傾向が現れ始めた、と言って間違いではないでしょう。
その流れは、現在進行形で起こっているものだと思います。
そんなソーシャル上の情報共有について、「口コミ」の重要性を中心にまとめました。
価値ある情報の共有、「キュレーション」とは?
これまでは、「ネットで情報を探す」と言えば、Googleに代表される「検索エンジン」にキーワードを打ち込んで検索するのが一般的でした。
現在も「検索エンジン」の力が衰えたわけではありませんが、一方では、ソーシャルメディア上のユーザー、個人からもたらされる情報の価値が高まりつつあるとも言われています。
この流れについて、ジャーナリストの佐々木俊尚さんは著書『キュレーションの時代』の中で、その重要性を説明しています。
キュレーション【curation】とは、無数の情報の海の中から、自分の価値観や世界観に基づいて情報を拾い上げ、そこに新たな意味を与え、そして多くの人と共有すること。
この「キュレーション」という言葉がいま、インターネットの世界を席巻しようとしています。情報の膨大なノイズの海の中から、どうやってキラリと光るあなただけに重要な情報を取り出すのか。劣化したマスメディアでなければ、無味乾燥な検索エンジンのアルゴリズムでもない。情報と人を結びつけ、そこに人と人のつながりをも生み出す新たな概念「キュレーション」。この本では、芸術や音楽、茶道、陶器、歴史などさまざまな文化的エピソードを紹介しながら、21世紀の新たな情報共有圏の世界を明らかにしていきます。
佐々木さんご自身も、Twitterアカウントで頻繁に情報発信をしています。
ウェブ上の記事のタイトルとURLをただ単にツイートするのではなく、自分なりの視点や見解を付け加えた上で、広くフォロワーに対して共有する形。その「付加価値」にこそが重要なのだ、と。
インターネット上に膨大な量の情報が溢れるようになった結果、検索エンジンを用いて、自分の求める、価値ある、質の高い情報を瞬時に見つけることは困難となってしまいました。
そこで注目され始めたのが、専門家や、ウェブ上で影響力の強いユーザーがソーシャルメディア上で発信する情報です。
どこの誰が書いているか分からない情報よりは信頼性が高く、また、独自の視点からの意見という付加価値によって、質の高い情報源として重宝されています。
口コミを循環させる人々の行動パターン
そんなキュレーションですが、言い換えれば、個人の感想や意見に過ぎないものでもあり、身も蓋もない言い方をすると、いわゆる「口コミ」の一種と捉えられなくもありません。
この広い意味での「口コミ」が拡散されていく構造について、ITビジネスアナリストの大元隆志さんは著書『ソーシャルメディア実践の書』の中で説明しています。
曰く、ソーシャルメディアにおける情報の流通の多くは、他者の「Viral(口コミ)」を通じてもたらされ、人は口コミによって「Influence(影響)」され、「Sympathy(共感)」を抱くことで「Action(購買・参加)」に繋がり、その結果を誰かと「Share(共有)」する、と。
大元さんは、この口コミを循環させる人々の行動パターンをそれぞれの頭文字を繋いで、「VISAS」と呼んで表現しています。
分かりやすい例で言えば、価格.comや食べログなど、文字通りの「口コミサービス」は明らかにこの構造を持っています。
商品を買った人、食事をした人が感想を投稿(Viral)し、それによって影響(Infruence)された人が「自分も使って(食べて)みたい!」と共感(Sympathy)し、実際に行動(Action)を起こす流れ。
そして、それが満足のいくものであれば、自分も感想を共有(Share)し、それを見た別の人が影響され……という循環構造ですね。
具体的な商品やサービスでなくとも、SNS上で拡散される単純な「情報」も同様です。
ウェブ上のある記事や動画、音楽などに関する感想・意見を読んだ人が、それに興味や関心を抱くことで、自分も実際に触れてみて、そこで心が動かされれば、さらに他者へ共有しようとする格好。
先日、「SNSで共有&拡散!話題のバイラルメディアって?」という記事を書きましたが、こちらで紹介した「バイラルメディア」が、まさにこの構造による拡散を狙ったメディアであると言えるでしょう。
個人の「口コミ」ならではの問題点
しかし他方では、個人による発信ならではの問題もあります。組織力の高いマスメディアでなく、専門的な知識を持っていない人が語る意見の「妥当性」といったもの。
一口に言えば、「情報の不確実性」ですね。
発信者がユーザー個人であるために、その情報は、主観や偏見などによって歪められる可能性が大きい物となります。もちろん、デマである可能性も否定できない。
マスメディアなどからは得られない、有益な情報を入手できる可能性をはらんでいる一方で、偏った情報に踊らされるかもしれない点も考慮しなければいけません。
そこで必要となってくるのは、情報を取捨選択し、充分に吟味する能力だと思います。
そもそもの情報ソースが正しいものなのか。
その意見は本当に筋の通っている妥当なものなのか。
情報の真偽を見極め、さらに他の意見と比較検討することができるかどうか。
Twitterなどはタイムラインの流れが早く、目に入る情報をすぐに信じて拡散してしまいがちですが、そこで一呼吸おいて、自分なりに情報を咀嚼できるかどうかが大切になってくると言えるでしょう。
日常的に「外部」からもたらされる情報量が多くなった今、それらをまずは自分の「内部」で考え、検討する作業の重要性が高まっていると感じます。
質の高い情報を見極め、ソーシャルメディアという道具に踊らされず、有益に活用していくためにも、再度、自分の頭で考えることが必要とされているのではないでしょうか。