この数ヶ月ほど、ウェブライターの報酬・記事単価に関する話題が各所で挙がっていました。
「1記事500円は安すぎる」「2,000円でも明らかに安い」「ライターがもっと稼げる仕組みを作るべきだ」など論調はさまざまですが、ギャラが問題視されるようになった前提として「ライターの数もメディアの数も増えすぎた」ことが一因としてあるような気がします。
ウェブライターの単価問題に関して、ざっくりとまとめてみました。
お小遣い稼ぎとしての「ライター」
冒頭の記事の佐々木俊尚さんの言説を読むと、「もうライターがどこにもいない」という言葉とは裏腹に、現代のウェブ上にはピンからキリまで多種多彩な「ライター」が跋扈している、というのが個人的な実感です。
パソコンとネット環境があり、ある程度のまとまった文章が書ける人間ならば、誰でも「ライター」を名乗れてしまう現状。言うなれば、実績や経験、技術を鑑みない「自称ライター」があちこちに溢れかえっている状態と言えるのではないでしょうか。
安価で記事執筆を発注できるクラウドソーシングサービスの普及も手伝って、本業や家事の傍らで文章を書くような、お小遣い稼ぎとしてライターを兼業している人も数多くいます。僕自身、そのような「自称ライター」の一人ですし、あまりどうこう語れる立場ではないのですが……。
一方、この数年で「メディア」の数も増大しました。キュレーション系のメディア、いわゆる「バイラルメディア」などでは、短文かつ既存コンテンツの再構成・リライトのことを「執筆」と呼んでいるような趣もあり、そこでは特別な能力は必要とされません。そうしたコンテンツの流用に対しては著作権の問題などもあり、それら新興メディアを良いものとして見る動きは少ないようです。
要するに――言い方は悪いですが――最近のウェブ界隈では、「なんちゃってライター」と「なんちゃってメディア」が着々と数を増やしており、それが全体としての執筆料の低価格化に結びついているのではないでしょうか。参入障壁が下がり、間口が広がりすぎたゆえの価格破壊。そういった見方も、一部にはあるような気がします。
メディア人、出版業界、ブロガー……各々の考える「ライター」像が違う?
その上で冒頭の「もうライターがどこにもいない」の意味を考えてみると、おそらく「ライター」という言葉の前に省略されている言葉があるのではないかと思います。「技術のある」「知識豊富な」「時流に対応できる」――などなど。
共通しているのは、何らかの「能力」。大手メディア、ポータルサイトからすれば、求めているのは専門性のあるライター。あるいは、どのような記事も書けるオールラウンダー。もしくは、取材能力に秀でたジャーナリスト。はたまた、個性豊かなオンリーワン。
かつての「ライター」は何かしらのそうしたスキルを持ち、それゆえに文章も高く評価され、報酬も悪くなかったのではないでしょうか。もちろん、メディアの規模や取り上げる分野、連載か単発か、といった点にも左右されるとは思いますが。
ところが、昨今の「ライター」が何を求められているかと言えば、そして「メディア」が何を求めているかと言えば、全体的に「質より量」といった印象が強くなっています。「質」が求められるとしても、それは記事の内容というよりも拡散力。数字を稼げるかどうか、バズれるか否か、といった点に集約されているように見えます。
他方、現在も稼げるライターは当たり前に稼いでいますし、取材能力や文章構成力が秀でている人はひと目でわかります。泡沫ライターに過ぎない、僕自身が受け持っている案件だけでも単価はピンからキリまでありますし、大手メディアであればあるほどその点はしっかりしています。
当然、「紙」と「ウェブ」では求められる能力も、記事の内容や執筆方法ですら変わってきます。同じ「ウェブ」でも媒体によって全く違ったアプローチが必要になってくるでしょうし、こうなってくると、一括りに「ライター」を語るのも難しくなってくるのではないかと。
まとめ:どんな「ライター」になりたい/欲しいの?
大手ポータルサイト、バイラルメディア、企業のオウンドメディア。どこで書くかによって必要とされる能力は異なりますし、文体や構成も自然と調整することになるでしょう。ですが、それらで募集しているのは等しく「ライター」です。――とくれば、単価がピンキリなのも、当然と言えば当然なのかもしれません。
メディア側からすれば、「質より量」なのか「量より質」なのかといった違いで、求める「ライター」像も変わってくることでしょう。ライター側はそれを鑑みた上で、自分に何ができるか、何をやりたいかを考え、仕事に取り組む必要があると思います。
そういう意味で、先ほどの記事でLIGブログ編集長の朽木誠一郎さんも仰っていましたが、自分の「ブログ」で情報発信をするのはひとつの手段と言えるのではないでしょうか。
もっとも手軽に実績を作れる個人媒体であると同時に、「自身に何が書けるか」を試行錯誤する実験場として活用することだってできます。もちろん、活躍したいのならそれだけでなく営業も必要になってくるでしょうが、現在は、そうした多彩な切り口から攻めることのできる環境が整っているように感じられます。
自分は、どのような「ライター」になりたいのか。メディア側は、どのような「ライター」を欲しているのか。実際問題、一部では安く買い叩かれている現状もありますが、そういったスキルと期待を擦り合わせつつ、この報酬単価については考えていきたいですね。