最近、二村ヒトシ(@nimurahitoshi)さんの名前を目にする機会が増えました。AV監督であり、cakesの連載をはじめとして、恋愛・性愛に関するコラムも数多く執筆。著書『すべてはモテるためである』は1998年の刊行ですが、2012年に復刊されるやいなや各所で注目を集めました。
AVにせよ、恋愛論にせよ、ほとんど関心がない自分にとっては全く別世界・異文化に属する人という認識でしたが、その著作が高く評価されていることから、気になっていたのも事実。
そんな二村ヒトシさんの著作について、ネット上ではどういった感想と印象でもって読まれているのか。いくつかのレビューを参照し、まとめてみました。
『すべてはモテるためである』の感想
あなたはなぜモテないのか。それは、あなたがキモチワルいからです―。数ある「モテ本」のなかで異彩を放ち、各方面で話題を呼んだ名著(1998年刊)が大幅加筆修正のうえ再登場!「なぜモテたいのか」「どんなふうにモテたいのか」モテを極めるには、こうした問いからスタートし、自分を知ることである。テクニックを超えた「モテ」の本質に迫る!巻末に気鋭の哲学者・國分功一郎氏との対談を収録。
(Amazonの商品紹介ページより)
“すべての人間は本質的にはモテない”
こちらの感想記事では、本書が他の「恋愛本」と一線を画する理由として、「モテ」とはなんぞや、なぜ「モテ」たいのか、誰からどのように「モテ」ることを欲するのか――といった“前提”を、徹底的に掘り下げている点を挙げています。
加えて、そもそも「すべての人間は、本質的には“モテない”んじゃないか?」という記事筆者の視点を取り上げ、本書は「モテ」の問題を広義の「コミュニケーション」にまで落としこみ、それを暗に紐解いていた一冊なのではないか、という論調に発展させています。単なる“モテ論”に終始していないという読み方から、恋愛論に関心のない層にも響きそうなレビューだと感じました。
“兎に角モテない言い訳を全部先回りしてブッ殺してくれます”
喩えと語り口調が痛快な感想記事ですが、序盤部分を読んだだけで「あ、そういう本なのか!」と読んでみたくなる衝動に駆られました。
一口に言うなれば、「“非モテ”をそれ以前の“ただの男”にする儀式」としての役割を持つ本……なのかしら。“何処だかの名も無き非モテをぶっ殺すためのスキーストック”という言い回しが鋭利で突き刺さるように読めますが、「モテ」を考えるための第一段階として、読者をまず真っ裸にしたうえで本論へ移るような展開の本であると推測されます。
恋人持ちだろうが、妻子持ちだろうが「あるある(あったあった)」と共感できる内容なのであれば、そりゃあ多くの読者を惹きつける本なのだろうな、と。
“自分のダメな部分と向き合う不快感”
それまでの自分が薄々は気づいていたけれど、目を逸らしていた現実を突きつけるだけでなく、さらにそこから各々に考えさせるべく改善策を示した本である――という感想。上記2つのレビューとも指摘が重なることから、これが本書の肝であり、大きな魅力であると考えられます。
恋愛論に限らず、あらゆるジャンルの本について言えることですが、「問題提起と合わせて読者各々の現状を嘘偽りなく明らかにしたうえで、その具体的な改善策と考え方を納得のいく形で説明し、さらに読者ひとりひとりに考えさせる」ような本って、意外とないんですよね。
その点、本書に関しては、これらの感想記事を読むだけでも、非常に完成度の高い1冊であると読み取ることができます。世代や性別を問わず、幅広い層に読まれているという話にも納得。
『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』の感想
“女性の生き方”問題の第一人者たちも絶賛した元本を大幅増補・改題し文庫化!「心の穴」と「自己受容」をキーワードに、なぜ楽しいはずの恋愛が苦しくなるのか、の秘密に迫ります。
(Amazonの商品紹介ページより)
“ずっと避けてきた、恋愛と自分というテーマ”
まさに現在進行形で恋愛に悩んでいるという記事筆者に、“向き合うときがきた”と言わしめる1冊。それだけで本書の魅力が伝わってこようというものですが、単に読者の現状肯定をしたうえで背中を押しているだけではない――とも読み取れる感想です。
読者それぞれにある“自分”の悩みを、“優しく厳しく”説明してくれる本でありながら、それだけではないことが想像できるレビュー。自分自身の問題を論じながら、それに向き合い、立ち向かい、解決するための視点として、しっかりと“相手”にも言及しているらしい点。
『すべモテ』同様、そういった複数視点のバランス感覚が、二村さんの語る言説と文章の魅力となっているように感じました。
“穴がないと、心と心が強烈に引っかからないから、恋が始まらない”
本書紹介ページにも書かれているキーワード、「心の穴」という表現を主に参照しつつ、恋愛感情のすれ違いを説明している感想記事。女性向けの本でありながら、男性視点から読んでも気づきが得られそうな、示唆的な内容であると想像できる文章となっています。
広い意味でのコミュニケーションの形に男女の性差や恋愛感情が付与されて、感情では理解できているけれど理屈ではわからないような状態というのは、多くの人が味わったことのあるだろう感覚。それを丁寧に説明すると同時に、その解決策を考えていこう、考えさせようという構造は、前著同様の流れになっているようですね。
まとめ
さて、ここでタイトルに戻ってきて、どうしてこれほどまでに二村ヒトシさんの本が読まれているのかを考えてみると――おそらく、人間関係においていつの世も普遍的な事柄である「恋愛」という話題に関して、現代的な心性も鑑みた内容かつ完成度が高いからなのではないかと感じました。
先ほども書きましたが、「問題提起と合わせて読者各々の現状を嘘偽りなく明らかにしたうえで、その具体的な改善策と考え方を納得のいく形で説明し、さらに読者ひとりひとりに考えさせる」ような本ってあまり数がなく、探すのも大変なんですよね。
その点で、本書はその条件をクリアしながら、さらに現代の恋愛観にマッチした内容となっているのではないかと。加えて、1冊の文量も読み切るには程よく、語り口調も“優しく厳しく”、極論や一般論に走り過ぎていないらしい言説が、感想からも読み取れました。
僕が二村ヒトシさんの存在を知ったのは2年前、こちらの動画がきっかけだったのですが、この話からもそういった「普遍性」が感じられます。
「ぜんぜんモテないから大量の『モテ本』を読んだけれどまったくモテず、そんな本を読んでいるのも端から見たらキモチワルイから本をすべて売っぱらったのだけれど、これだけは捨てられなかった」と語るスピーカーさんの、おすすめの1冊として紹介されていました。
1冊で完結する普遍性をはらんでいながら、それだけでは終わらせない示唆に富んだ内容である点。恋愛論は星の数あれど、発売から時間が経った今でも、幅広い支持を集めているという事実にも納得です。まずは1冊、試しに読んでみてはいかがでしょう?
二村ヒトシさんが登壇されるトークイベントも11月に行われます。ご参考までに。