先日、Twitterで活動されている企業のアカウントをいくつかご紹介しました。
Twitter上の「企業アカウント」と言えば、今は数多くのアカウントが存在し、たびたび話題となっておりますが、今も昔も真っ先に取り上げられるのは、「@NHK_PR」さんなのではないでしょうか。
公式アカウントならぬ「軟式アカウント」として、「NHK」という真面目でお固い組織の印象からはかけ離れたツイートをしていた、NHK_PRさん。
現在は代替わりし、「2号」さんがアカウントの運営を続けていますが、先日、その初代「1号」さんのその後が記事として取り上げられ、話題となっておりました。
こちらの記事でも軽く触れられていますが、1号さんのTwitter運営は、公式アカウントとしては非常に独特のものでした。
今回は、そんな1号さんの著書、『中の人などいない@NHK広報のツイートはなぜユルい?』より、Twitterを使うにあたっての考え方、心構えといったものをご紹介させていただきます。
「宣伝」?「広報」?
Twitterを企業で利用する場合、その「目的」はどのようなものでしょう。
自社の商品・サービスを宣伝するため?
ネットと連動したキャンペーンが目的?
若い世代への認知向上を目指して?
様々な目的が考えられますが、多くの場合、「宣伝」が第一に挙げられると思います。
基本的な新商品の案内や告知から、ウェブ上でキャンペーンを展開することによって、実店舗での購買を促すような戦略まで。後者については、よく「O2O」と称されますね。
(参考:O2Oとは 「オンライン・ツー・オフライン」 (Online to Offline): – IT用語辞典バイナリ)
一方、NHKという組織に所属していながら、勝手にアカウントを開設し、Twitterを始めた1号さんは、どのような考えを持ってそのような行動に及んだのでしょうか。
本の中では、次のように書かれていました。
NHKはメディアです。そのせいで広報といっても、どうしても宣伝的な手法を多く使いがちになります。私はそれに対して少しだけ新しいことを試してみたかったのです。調節コミュニケーションをして、NHKについてこれまでと違う印象を持ってもらう……。興味を持ってもらう……。そして、みんなと仲良くなる……。宣伝ではなく広報を。
「宣伝ではなく広報を」。
この部分をどのように考えるかが、Twitterで公式アカウントを運営する第一歩だと思います。
1号さんの場合は、組織の中でも「広報局」にもともと勤められていたとのことでした。それは、アカウント名(NHK広報局/@NHK_PR)にもそのまま現れていますね。
そして、NHKの場合は、組織自体がメディアとしての役割を持つものであり、宣伝に関してはプロフェッショナルと言える集団でしょう。その中で、新しくTwitterを使って宣伝活動を始めたところで、宣伝を目的とした媒体のひとつにしかなり得ません。
そこで、1号さんは、「広報」を目的とすることにしたのです。
番組などの「宣伝」ではなく、あくまで「広報」に特化した形。
この前提がしっかりしていたからこそ、 @NHK_PR というアカウントは、時に炎上したり批判を受けたりしながらも、軸はブレずに運営が続いているのだと思います。
私は、起業の中にいる担当者の顔を見せるのではなく、実体のない「企業そのもの」に人格を感じさせてみたいと思っていました。
1号さんの語る、Twitterの基本
本書の終盤では、1号さんが後々の引き継ぎを見越して、先輩の2号さんにTwitterの基本を手解きする場面があります(ちなみに、2号先輩は現在の「中の人」です)。
そこでは、「私がいつも考えていること」という前置きをしており、割とさっくりと説明しているだけなのですが、かなりTwitterの本質を突いているように感じたので、箇条書きで引用させていただきます。
- Twitterは媒体じゃない
- 突っ込みどころを残す
- リアルタイムじゃない
以上、僕個人の考えも挟みつつ、簡単に解説してみます。
1. Twitterは媒体じゃない
「媒体だって考えてしまうと、ついつい何かの告知をしたくなるんですよ。でも告知するよりも会話をたくさんするほうがいいみたいなんです。私のツイートで言えば2割が全体への告知で、8割がリプライでの会話です」
だいたい1号さんの仰る、このとおりだと思います。
ぶっちゃけ、「告知」をするだけならば、公式サイトでもできる。それをしてしまうと、せっかくのTwitterアカウントが、ホームページの「切り取り部分」のような扱いになってしまう印象があります。
せっかくの自由度の高いツールなのだから、普通のホームページと同じ役割を持たせてしまってはもったいない。そこで、「媒体」としての意識は最小限に抑え、消費者や同業者など、他のユーザーさんとの交流にリソースを割くことを、1号さんは勧めています。
2. 突っ込みどころを残す
「ただの告知にも、ちょっとだけ自分の感想を混ぜたり、どうしてそんな告知をするのかという理由を付け加えたりする感じですね」
これは、前述の「会話」を誘発するための手法と受け取ることもできます。
あえて「隙」を残すというか、読んだ人がそれについて何か言いたくなる、「共感ポイント」を匂わせること。それによって、ユーザーさんとの交流が生まれます。
ただし、これが行き過ぎると、いわゆる「炎上」に繋がりかねないので、注意が必要ですね。何事もほどほどに。
3. リアルタイムじゃない
「ぜんぜんリアルタイムじゃないですよ。だってツイートをいつ読むのかは、フォロワーそれぞれのタイミングですから。みんなバラバラなんですよ」
Twitterは「フロー型」のメディアだと言われますが、必ずしもそうではありません。
この後に「半年前のツイートを今日読む人だっている」と1号さんも書かれているように、誰かのツイートを読む時間やタイミングは、全て読み手側に依拠されています。
自分の過去のツイートを、いつ、どこの誰が読むかは分からない。
あまり考えすぎると自由にツイートできなくなってしまいますが、そのような意識を常に持っておくことは、「炎上」を避けるためのひとつの考え方だと思います。
Twitterは「受信ツール」であり、「会話」の場
本書を通して読むと、大きなキーワードのひとつに「会話」という単語があることに気づかされます。
一方的に宣伝・告知するのではなく、他のユーザーさんの全ての意見や要望に「うんうん」と頷くのでもなく、双方向的に「会話」をすること。
これまでの記事でもたびたび書いてきましたが、この「双方向性」こそがソーシャルメディアの重要な特徴のひとつであり、本質でもあります。
一番大切なのは、これまでNHKに関心を持っていなかった人にNHKについて知ってもらう、興味を持ってもらう、考えてもらうこと。そして、できればほんの少しでもいいから好きになってもらうことです。だからまず、そのきっかけを作るために会話をするのです。接するきっかけがなきゃ、好きになってもらうどころか、関心を持ってもらうことだってできないんだから……。
「ステージ上でマイクを持って、自分の言いたいことを叫ぶのではなくて、みんなと同じ場所に立って、友達の話にうんうんと相づちを打つようなイメージです。企業とお客様という関係から、友達どうしのような関係になりたいんです」
もちろん、公式アカウントの主たる目的を「宣伝」に設定するのであれば、この考え方は当てはまりません。Twitterには明確な決まり事もないため、どのように使うかは人それぞれ。そういう意味では、1号さんの考え方は絶対に正しいとも言い切れません。
ですが、自分が他人に何かを提供しようとするのであれば、まずはコミュニケーションから始め、お互いを知ろうとすることから始まるのが自然なのではないでしょうか。
一方的に押し付けるのではなく、「自分たちはこういう者です」と提示した上で、相手の意見や批判を汲み取っていく形。その方がスムーズな交流を望めますし、相手からしても、素直に思ったことを伝えやすいのではないでしょうか。
少なくとも、自分はそのように考えているため、1号さんの主張にはとても納得がいきます。たびたび起こる炎上なども見ていましたが、その対応には真摯さを感じさせるものがありました。
「これからNHKにはたくさんのアカウントが出来ます。そのアカウントは宣伝をします。番組の宣伝です。でも、あなたのアカウントは宣伝をしません。あなたはたくさん会話をしなさい。それはソーシャルメディアの一つの正しい使い方です。それがあなたの役目です」
これは、本書で何度か登場するKさんの台詞ですが、こうして柔軟に判断し、それぞれの役割を冷静に見定めることのできる人の存在は大きいのではないでしょうか。
「Twitter」というツールをどのように捉えるかは人それぞれですが、本書『中の人などいない』の中で語られている考え方は、どれも得心のいくものでした。
ここではご紹介できませんでしたが、1号さんがどのようにTwitterと出会い、ユーザーさんと交流し、オフ会などに参加し……といった初歩的な内容から、震災時の対応や、炎上に際しての対応など、勉強になる内容が盛りだくさんとなっております。
組織で利用する場合はもちろん、個人として日常的に使う場合でも、為になる「入門書」的な要素もはらんでいる、良書です。もしよろしければ、ぜひ手にとって読んでみてください。おすすめですよ。