先日、こちらの記事が各所で話題になっておりました。
きっかけとなったのは、カドカワ株式会社の代表取締役社長である川上量生さんと、Kaizen Platform, Inc.の技術顧問である伊藤直也さんの対談記事。
冒頭のブログ筆者が、対談中で登場する“エンジニア”であるということが一部の人間にはわかってしまうことから、不利益を被りかねないとして、また著しくストレス負荷のかかるものであるとして、声を上げた格好となっているようです。
2人の反応と、ネットの反応
本件に関しては、記事が投稿された翌日(当日深夜)すぐに、当の対談記事の2人から反応があった様子。伊藤さんは「不快な気持ちにさせてしまったこと」を謝罪する一方で、川上さんは「不快に思ったことについて謝罪するつもりは毛頭ありません」と否定するツイートをしています。
不快な気持ちにさせてしまったことは謝りたい。申し訳ない。
— Naoya Ito (@naoya_ito) 2015, 9月 1
しかし、ぼくは、くずは氏が記事を不快に思ったことについて謝罪するつもりは毛頭ありません。不特定多数に向けた発言で、たとえ発言にそれなりの配慮をするにせよ、すべてのひとが不満に思わないことを前提にはなにもいえないからです。だから、ぼくは思ったことを言うし、くずは氏もそうした。
— kadongo38 (@kadongo38) 2015, 9月 1
ただし、川上さんは同時に以下のようなツイートもしており、冒頭のブログで指摘されている問題点に関しても同調したうえで、「申し訳ない」とも述べています。
くずは氏の指摘する開発体制については、当時のドワンゴは意識高くがんばるエンジニアが報われない、馬鹿を見る、そういう問題がありました。(あるいは今も?) それは申し訳ないことだし、改善しなければいけなかった点です。くずは氏は聞くところによるとそういう非常に頑張っていたエンジニア。
— kadongo38 (@kadongo38) 2015, 9月 1
この問題そのものに関しては、企業あるいは当人同士の問題であり、しかも「技術職」という私自身は門外漢である分野の話題であるため、外部からどうこう言えるものではないとも考えています。
しかし一方では、ひとつの「企業」における労働問題、雇用関係という視点から見ると、一部では思うところがあるのも事実です。実際、この問題がネット上で話題になるに当たっては、主にそちらの面からツッコミが入っているようにも見受けられました。
例えば、こちらのまとめ記事では「焼きそば」をフォーカスしてツイートがまとめられていますが、ブログを読み返すと、「焼きそば」はあくまで筆者がドワンゴを辞めた理由のひとつでしかありません。
ですが、ツイートでも指摘されているように、これは労働上の「雇用関係」の問題点のひとつとして、決して看過できないポイントなのではないかとも感じました。私は“エンジニア”という視点から考えることはできませんが、「業務外業務の強制」として考えると、この指摘は妥当であるようにも思います。
あと、焼きそばを焼くのが嫌な理由を「専門家のプライド」だと決めつけてる人がいて、つまり「俺は偉いんだぞ、そんなことやってられるか」という理由だと思って文句言ってる人いるけど、そういう人や側面が無いとは言わないけど、僕が言ってるのは焼きそばを焼くのが根本的に苦手な人が居るって話。
— 尾野(しっぽ) (@tail_y) 2015, 9月 3
また、冒頭の記事や上記まとめのコメント欄を読んでいると、自身もエンジニアである人たちからは割と同情的な感想が寄せられているのに対して、「焼きそば」に関しては各々の価値観が可視化されているように見えるのは、興味深いところ。
そういったことが苦手でその職に就いている人もいるがいるかもしれない一方で、精神的に余裕があれば「焼きそばくらいなら」となるのかもしれない。本文を読むかぎりでは、いろいろな不信感とストレスが合わさった結果、「焼きそば」が退職の一因となったようにも読めます。
さまざまな問題が積み重なったうえでの退職であり、そのような事情を認識していないがための対談での言及となった可能性も否めないため、「これが原因だ!」と決定づけるのは難しいのかな、とも思いました。
そのような複雑性がありながらも、読者各々の経験に照らし合わせて考えることもできる身近な問題でもあったこの話題。それがゆえに、このように多種多彩なコメントが書き込まれることとなったのかもしれません。
「パスタ」を切り取られたツッコミ
“口直し”ではありませんが、同時期には以下のような話題もあったようです。
まとめの趣旨としては、「ナンパ師の発言に対してなぜか「パスタ」が槍玉に挙げられて盛り上がってしまった」といった内容でしょうか。
発言元のツイート主自らがまとめているため、恣意性が高い記事だと想像できなくもないですが、取り上げているツイートを見るかぎりでは賛否(&ネタ)も含めてバランスよく抜粋されているようにも読めます。
大学ごろまでは女のほうが男より大人でしっかりしてる。しかし社会人になって男が将来や家族のことを考えて(多分)大人びてくのに、女は服、コスメ、パスタ、ヨガあたりで止まっちゃう量産型が多い。私はこれをチャンネー型成長曲線と名付けることにした、私の元カノもそうw
— clubtropixxx1 (@clubtropixxx1) 2015, 8月 30
きっかけとなったのは、こちらのツイート。
男女による性格の違いや傾向をカテゴライズする言説は、雑誌をはじめとするメディアなどでもよく見られるもの。ですがツイート主によれば、この呟きに対してどうも一部から過剰な反応、しかも「え!?そこにツッコむの!?」と軽く驚く反応が返ってきた……ということらしいです。
元となった呟きを前後を含めて読んでみると、「メディアや環境に規定されて流されるだけの『消費者』になってしまうのはどうかと思う」くらいのスタンスであると読めるようにも思います。しかし、そこに「男女」や「パスタ」といった要素を加えたところ、煽り気味に受け取られてしまった、という格好でしょうか。
主張する側・批判する側のいずれにせよ、当人の捉え方によっては一部分を切り取ってどうとでも意見を言えてしまうという、インターネットの短文コミュニケーションの特色を色濃く反映した出来事と言えるかもしれません。
まとめ:問題の本質を見極めるための視点
ネットに限った話ではありませんが、このように、ある問題について一部だけを抜粋して批判するという行為は、日頃からよく見られるものです。
有意義な議論をするためにはもちろん、そういった部分部分から問題を明らかにしていくのも重要な視点ではあるのですが、そこで感情的になってしまってはどうしようもありません。この点、特にネットでは“感情的なツッコミ”が多いようにも感じます。
自分の意見を発信するのは意義あることだと思います。ですが、感情が先立った結果、発信者の意図を汲み取らないまま「揚げ足取り」のようなツッコミをしてしまうのは避けたいところ。そんなときには、冷静に全体を見通そうとするか、賛否に偏っていない他者の意見を読むようにしてみてはどうでしょうか。
また、逆に発信者側として何らかの言説を発信するときにも、そういった点は注意したいところでもあります。いたずらに不特定多数、あるいは特定個人を怒らせても、何も良いことはありませんので。