先日、このような記事を書きました。若い世代の「検索エンジン」に対する考え方が変化する一方で、それぞれが独立した「アプリ」の間でも、新たな視点でユーザーと向き合う手法が模索されています。
他方では、4月7日にLINEが、4月12日にはFacebookが、各サービス上で動くbotの開発ツールの無償提供を始めたことが話題になりました。この「bot」という言葉、すっかり聞き慣れたものではありますが、聞いて何を思い浮かべるのかは人によって異なるのではないでしょうか。
最近ですと、Twitterでの定期投稿・ランダム返信などの機能を持ったそれを真っ先に想像するかもしれませんし、一方では、オンラインゲームでのチート行為やスパムなど、悪印象を持っている人も少なからずいるように思います。
特別に新しい技術でもない「bot」が、なぜにわかに注目され始めたのか。まとめました。
「bot」って何?
そもそも「bot」とは、どういったものを指すのでしょうか。
Bot(ボット)は、robot(ロボット)の短縮形・略称で、転じてコンピュータやインターネット関連の自動化プログラムの一種のこと。
一口に言えば、「インターネット上で自動的に動くプログラムの一種」という認識で問題ないと思います。あらかじめ設定された内容に従って、打てば響くように行動してくれるプログラムのこと。
事実、膨大な情報が行き交うインターネット上においてはbotが活躍するシーンも数多く、実はとても身近な存在。Googleをはじめとする検索エンジンでも日々、botがあちこちのウェブサイトを巡回して情報収集に励んでいます。
私たちにも身近なbotとしては、Twitter上に存在するアカウントが挙げられますね。Twittbotなどのサービスを使えば、誰でも簡単にbotを作ったり、設定した時間に自動投稿したりすることができます。
【速報LV1】16日 21時23分頃 茨城県南部(N36/E139.9)(推定)にて M5.7(推定)の地震が発生。 震源の深さは推定41.6km。( https://t.co/suB74geU2I ) #saigai #jishin #earthquake
— 地震速報 (@earthquake_jp) 2016年5月16日
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— 切り取り線 (@kiri_tori) 2016年5月16日
完全に自動で運用されているアカウントの一例として、このようなbotがあります。設定された時間になるとツイートをするbotや、ある情報ソースを参照して、自動でその内容を共有してくれるbotなど。後者のbotは、地震・気象系のアカウントとして広く利用されています。
また、数多くのフォロワーを抱える「名言」系のアカウントに、「bot」の文字が付いているのを見たことがある人も多いのではないでしょうか。これらbotは人気が高い一方、著作権を無視した無断転載や肖像権の問題なども指摘されており、必ずしも良い使い方だとは言えない現状もあります。
「コミュニケーションアプリ」と「bot」の組み合わせ
このような「bot」は便利である一方、その内容はあらかじめ設定された「自動投稿」であり、リアルタイムでのコミュニケーションを前提としたものではありません。
もちろん、相手のリプライに含まれる単語などから内容を想定して、まるで「中の人」がいるかのように返信してくるbotアカウントも数多く存在しています。2009年の時点で、「twitterでずっと仲良くしていた人がbotだった」と衝撃を受けていた方もいらっしゃるくらいですしね。
では、最近になって急に話題になり始めた「bot」は、何が違うのか。いくつかの視点があるとは思いますが、現状では、ユーザーとやり取りをする「企業向け」のサービスとして、このbotが注目されている印象が強いように感じます。
具体的な用途としては、例として示された画像と合わせて見ることのできる、こちらの記事が非常にわかりやすいかと。
本文では、「今までのECサイト」との違いが箇条書きでまとめられていますが、要するに、「コミュニケーション感覚で買い物ができてしまう」という点がミソだと言えるのではないでしょうか。
Amazonのワンクリック購入に慣れている人たちにとっては、「むしろ面倒だ」と感じるかもしれませんが、そもそもネット通販に敷居の高さを感じていた高齢者層などは別です。細かい文字を読んで配達先を設定するのも億劫で、スマホを購入したはいいものの、宝の持ち腐れ状態――という人も、少なからずいるのではないでしょうか。
そういった世代の方でも、聞くところによれば、仲間との交流手段として「LINE」や「Facebook」は使っているとの話。ECサイトで商品を探して、細かな設定をしてから購入することは難しくとも、ショッピングがすべて、普段使っているコミュニケーションアプリで済んでしまうとしたら……?
こうした「チャット」形式のサービスにbotを取り入れ、ユーザーの購買活動やサービス向上に努める動きは広がっており、LINEやFacebookに限らずさまざまなアプリでの利用が検討されています。
「コミュニケーション」という視点でのサービス向上を目指しつつ、プログラムである「bot」がその手段として採用されつつあるのは、なんだか異種コラボレーションのようで興味深くもありますね。
このような動きが活発になりつつある背景には、昨今の「アプリ」の氾濫も一因として挙げられます。SNSだけでも多種多彩、スマホには何十、何百とアプリをインストールして、その情報収集や使い分けに疲弊しつつある……という現状。
新しくアプリを入れるハードルが高くなりつつある今、むしろ既存の「コミュニケーション」を軸としたアプリの一機能として「購買」などの諸活動を追加し、ひとつのアプリに機能を集約するような流れが現れつつあります。
企業側にとっては、botとの会話の中からユーザーの欲しいものや要望を汲み取り、マーケティングなどにも活かすことができるかもしれない、見方によってはチャンスとも言える動きです。「今更、botなんて……」と考えず、この大きくなりつつある波に乗るタイミングが来ていると言えるのではないでしょうか。