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【編集者インタビュー】篠木和久さん(講談社) 「算額という『江戸時代の技術であり”娯楽”』を楽しんで」

書籍づくりの現場ではどのような作業が行われているのか。実際に本を出版した著者と、その担当編集者のインタビューを公開します。企画の経緯から執筆・編集・デザイン・売り方まで、生の声をお届けします。

 

書籍:算法勝負! 「江戸の数学」に挑戦

江戸時代の人々は、数学の問題を絵馬に記した「算額」を神社仏閣に掲げ、公開で算法勝負をして楽しんでいました。上は大名をはじめとする武士から、下は農民、町民といった庶民まで、身分の上下を超えて数学ファンがこぞって熱中、世界でもまれに見る独自の数学文化を花開かせていたのです。
本書では、江戸時代の算額問題から選りすぐりのものを出題。現代人が江戸人に挑戦したらどうなる!?いざ、勝負!!

 

編集者:篠木 和久さん(講談社)

 

 

 

───本書は著者の山根さんの「江戸と現代をつなげられないか」という想いから企画が生まれたと伺いました。あらためて、本書を書籍化されようと思われた理由を教えてください。

 

篠木和久さん(以下、敬称略):私は「ブルーバックス」という科学新書の編集をしているのですが、かねてから江戸時代の算法「和算」をテーマにした本が作れないかと思っていました。

鎖国された江戸時代にありながら、和算は独自に発展し、実はニュートンやライプニッツ、ガロアが活躍した同時代のヨーロッパとくらべても遜色のないくらい進んでいたのだ、ということはうっすらと知っていました。

最近は毎年のように日本人がノーベル賞を取り、世界にその科学力を示していますが、じつは江戸時代だってすごかったんですね。

ただ、ストレートに和算の方法を解説するような「数学史」のたぐいでは、きっと退屈だし、一部の好事家だけが読む本になってしまいます。別の切り口が必要だと漠然と考えていました。

 

そんなときに出会ったのが今回の企画です。著者の山根さんから本書を執筆する思いを伺ったときに、なるほどその手があったか、と膝を打ちました。江戸時代の人々が和算の問題に取り組んだように、現代人は現代人ならではの算数や数学の知識でチャレンジしてみる。「算数パズル」「数学パズル」のような切り口です。

これなら、和算についてまったく知らない人でも楽しめるのではないかと思いました。

 

また、取り上げる問題も、ただ和算であるというだけでなく、「算額」というしばりをつけています。算額とは絵馬に問題を記し、神社仏閣に掲げられた、いわば「公開問題」。武家から庶民まで、皆が腕試しにチャレンジしていたのですね。

身分制度が厳しかった江戸時代に、身分を超えて皆が楽しんだものがある、しかもそれが数学だった、というのは驚きでした。

 

───本書を拝読すると、江戸時代の数学のレベルの高さに驚かされます。篠木さんは、実際に算額に触れられていかがでしたでしょうか?

また、本書に掲載されている算額28題を選ぶ際に山根さんにアドバイスされたことがあれば教えてください。

 

篠木:担当編集者ですから、もちろん28題すべて解いてみました……と言いたいところですが、後半になると徐々に難しくなるんですよね。

最終問題は、たしかに理系大学生レベルかもしれません。私は文系出身なもので、最後のほうは著者の解説を読みながら理解していくという感じでした(汗)。

でも、数学ファンの方ならきっと最後まで楽しみながら解いてもらえると思います。

 

───タイトルや構成、表紙のデザインなど、類書と差別化するために工夫されたことを教えてください。

 

篠木:ビジネス書ではないので、すぐに何かの役に立つということはありません。かといって、数学の勉強本でもありません。

時代小説を読むような感覚、歴史ドキュメンタリーを見るような感覚で、江戸時代の空気に触れることができるのが、この本の魅力かなと思っています。

 

そこで、そのエンタメ性を訴えるために、ベストセラー『天地明察』の冲方丁さんに読んでもらったところ、二つ返事で推薦を引き受けていただきました。これは嬉しかったです。「とにかく楽しい。これは江戸時代の技術であり『娯楽』です」という一文は、まさにこの本についてうまく言い表しています。

 

タイトルについて言うと、「和算」「算額」という言葉をあえて入れていないんですが、これまでの和算紹介本とは違うことを表したかったからです。かわりに「江戸」という言葉を入れることで、「現代と江戸時代をつなげたい」という著者の思いも込めたつもりです。

装丁も、江戸の人々、老若男女、武家から庶民までがわいわい集っている漫画っぽいイラストをあしらって、ちょっとポップにしてみました。

 

───「一緒に本をつくってみたい」と思う著者はどんな人物ですか?

 

篠木:私もかつてビジネス書の編集部にいたので、これまで科学だけでなくいろんな分野の方とお会いする機会がありました。

そこで共通して言える「一緒に本を作ってみたい」と思う著者とは、自分の言葉を持っている人です。自分の言葉を持っているとは、自分なりの考え方の軸があるということ。行間からその人の経験や熱い思いや思想などが自然とにじみ出てくるような感じです。

簡単に言い換えれば「個性」かもしれませんね。概して、面白い人にはアクの強い人が多いのも、そんなところからなのかなと思います(笑)

 

───本作りにエージェントが関わることのメリットはどのようなことがあると思われますか?

 

篠木:編集者は取材するのが仕事ですから、いろいろな人に会って話を聞いて入るのですが、それでも所詮は一馬力。少しでも、よい著者やよい企画にめぐりあう可能性を高めるには、エージェントさんが関わってくれることはとてもプラスになります。

 

───篠木さん、ありがとうございました!

 

ブログをお読みの皆さんで、本にしたら絶対売れる!!という企画・原稿をお持ちでしたら、弊社あてにご応募ください。

くわしくは企画原稿検討の要項をご覧ください。検討させていただきます。

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鬼塚忠

アップルシード・エージェンシー代表。大学在学中に英国留学し、卒業後は働きながら、4年間で世界40か国を巡る。帰国後、海外の本を日本に紹介する仕事を経て、独立。「作家のエージェント」として、多くの才能を発掘している。自身でも小説を執筆し、著書に『Little DJ』『カルテット!』『花いくさ』『風の色』等がある。

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