作家を目指すあなたへ

【編集者インタビュー】市川有人さん(ダイヤモンド社)「読者の人生とダイレクトにつながれる。それが“編集”の醍醐味」

書籍づくりの現場ではどのような作業が行われているのか。実際に本を出版した著者と、その担当編集者のインタビューを公開します。企画の経緯から執筆・編集・デザイン・売り方まで、生の声をお届けします。

 

書籍:『だから、僕らはこの働き方を選んだ』(ダイヤモンド社)

だから、僕らはこの働き方を選んだ 東京R不動産のフリーエージェント・スタイル
馬場正尊 林厚見 吉里裕也
ダイヤモンド社
売り上げランキング: 63,140

 

編集者:市川 有人さん(ダイヤモンド社)

 

 

 

───今回は「働き方」についての企画ですが、市川さんは、もともとこのテーマについて関心があったのですか?

 

市川有人さん(以下、敬称略):以前、「ノマド」という言葉がまだ広まっていないときに、『「どこでもオフィス」仕事術』という本を作ったのですが、それ以来、ノマドワーキングやコワーキング、フリーエージェントなどの新しい働き方についてずっと追いかけていました。

終身雇用が崩壊して以来、ビジネスパーソンにとってのワークスタイルは、ライフスタイルを考える根幹になってきていると感じています。

 

───本書の企画があがってきたときに、市川さんご自身は「東京R不動産」をご存知でしたか?

また、このワークスタイルについてどんな印象をお持ちになりましたか?

 

市川:もちろん本を作る時は知っていましたが、最初に東京R不動産(以下、R不動産)を知ったのは4年前。個人的にも中古物件のリノベーションをしようと思っていたときに、アップルシードさんからR不動産を教えてもらってサイトを見ていました。

彼らの働き方は、個が基本となっていながら組織としても機能するという、日本ではまだめずらしいフリーエージェントスタイルだという印象でした。

それが実現できている上に、組織や事業としても成功していたので、最初からかなり魅力を感じました。

 

───著者である3人が運営する「東京R不動産」の働き方は、とてもユニークなものですが、それが読者にとって参考になると思われた点はどんなところでしょうか?

「出版しよう」と思われたポイントと合わせて教えてください。

 

市川:フリーエージェントはアメリカでは一般的になっていますが、日本ではまだ現実的には難しいのが事実です。

けれど、ワークスタイルとライフスタイルが同一になりつつあるなか、今後必ず、こうした働き方へのニーズは高まると思っていました。

今はサラリーマンでも、いずれ違う方向性を考えたいという声は同世代でもよく聞きます。

そうした人に対して、単にアメリカ型のスタイルを導入するのではなく、自分たちのスタイルを開発しようとするR不動産の新しいモデルケースを示せれば、読者にとってすごくヒントになると思いました。

 

───「東京R不動産」の“フリーエージェントスタイル”という働き方を読者にわかりやすく伝えるために、工夫されたことは何でしょうか?

 

市川:フリーエージェントという仕組みはわかりにくいし、ともすればバラバラなフリーランスの集団とも取れるので、抽象的な定義をするより、とにかく彼らの働き方の具体例や組織マネジメントの実践事例を出そうと心がけました。

R不動産は、フリーエージェント組織として成功しているめずらしいケースですし、うまくいっていることも、現在試行錯誤していることも含めて、いかにリアルに出すかを意識しました。

 

───著書の1人である林さんは前回のインタビューで、執筆中に「どうしても建築や不動産の話に寄ってしまったり、「東京R不動産」のメインビューワーであるクリエーターたちに向けての話に偏ってしまった」ため、エージェントや編集の方から指摘されたとおしゃっていました。

市川さんからは、具体的にどのような指摘やアドバイスをされたのでしょうか?

 

市川:すべての文脈を「働き方」という軸に持ってくることが大変だったと思います。

R不動産は不動産の仲介業者というだけでなく、様々な戦略を持った一つのメディアでもあり、不動産を通して新しい街や日本をつくろうとするプロジェクトでもあります。

だから、彼らの思想的な部分を掘り下げれば掘り下げるほど、どんどんテーマは拡散していきます。

でも、この本はあくまで「新しい働き方」についてまとめたビジネス書なので、普通のビジネスパーソンが自分事として読めて、かつ役立てられるようなつくりに落としていく必要がありました。そのあたりのやり取りが結構あったと思います。

 

───今回著者が3人ということで苦労された点はありましたか?

またそれぞれの著者に書き方や進め方でアドバイスされたことがあれば教えてください。

 

市川:やはり、意見のすり合わせが一番大変だったと思います。

何を決めるにしても、3人分の合意は必要ですし、R不動産の方は特に話し合いを大切にするため、誰かが知らないところで勝手に進むというのはなかったです。

一人でも違和感を覚えたら、またゼロから戻ってみんなで考え直すという感じでした。

著者だけでなく私もかなりこだわりが強いほうなので、一筋縄ではいかなかったです(笑)。

ただ、全員とも目指しているベクトルは同じなので、方向性を決めるのに時間はかかるけど、決まれば早かったですね。

 

───今回の書籍のデザインはスープデザインの尾原史和さんと伺いました。

市川さんは編集者としてデザイナーにどんなイメージを伝えていたのですか?

また、今回は紙や加工なども工夫されていますが、その点についても、経緯やデザイナーとのやりとり、苦労された点などお聞かせください。

 

市川:基本的に狙っていたのは、R不動産が持っているブランドイメージを「働き方」とリンクさせるということです。

R不動産を知っている人でも、知らない人でも、このブランドの持つイメージは、新しい働き方を打ち出す上では有効だと思っていました。

つまり、凝ったギミックでごまかすのではなく、大声で叫ぶものでもなく、シンプルさとウィットさがあり、その中でどこか新しさがあり、誠実さというか、一つずつ丁寧に仕事をしている感じもにじみ出るという。

加工については、すべて尾原さんの提案です。

カバーの裏面を印刷して裏から色を透かすという方法は、印刷所は泣いていましたが、R不動産の誠実さやウィットさがにじみ出る感じ。

「どうだ、どうだ!」という感じではない、さりげない違和感はまさにコンセプト通りでした。

厳しいスケジュールで紙の確認をしたり刷見本に合わせて用紙を変えたりと、その辺は結構大変でしたが(笑)。

 

───タイトル、書店での売り方などは、どのような工夫をされましたか? また、この本を告知していくにあたって、どのようなことを実施されていますか?

その反響なども併せて教えて下さい。

 

市川:タイトルは最後の最後まで悩みました。

私はこれまで9割は自分でタイトルを付けていますが、この本は違います(笑)。

新しい働き方をうまく表現できる言葉があればよかったと思いますが、それを出すのが本当に難しかったです。

販促では、「ほぼ日刊イトイ新聞」(以下、ほぼ日)さんと弊社の「ダイヤモンド・オンライン」、そして「東京R不動産」の3つのサイトを使ったコラボ連載が新しい試みだったと思います。

ほぼ日さんとR不動産はブランド的にも少し似たイメージがありますが、ほぼ日さんのメンバーと著者で座談会をしたり、ほぼ日さんにR不動産を取材してもらったりしました。

記事はTwitterやfacebookで拡散されてPVもよかったですし、R不動産ファンやほぼ日ファンから、ダイヤモンド・オンラインを読むビジネスパーソンまで、幅広い読者に告知できました。

 

───今回の本も含めて、編集者という仕事をされているなかで「やっててよかった」と思えるのはどんな瞬間ですか?

また編集者の仕事で「これだけは大変」「こんなときは困る」という点と合わせて教えてください。

 

市川:月並みですが、やっぱり読者から「役に立った」とか「今後の働き方について参考になった」と言われるのが、一番嬉しい瞬間です。

読者の考え方や生活を少しでも前進させたいという思いで本を作っているので、こういう反応が一番嬉しいですね。

見ず知らずの読者の人生とダイレクトでつながれる仕事というのは、そうはないと思います。

編集者として大変なのは、何より公私分けができないことでしょうか。すべての出来事や出会いが企画につながるので、休日でも仕事から離れられないし、結局いつも本づくりのことを考えている気がします。

それも本が好きで編集者をやっているのに、好きな本はなかなか読めず、仕事のための読書ばかりしている感じで、そのへんのストレスはやっぱりありますね。

 

───普段はまず企画を考えてから著者の方を探されるほうですか?

もしくは著者(候補)を含めていろんな方とお会いするなかで、企画を考えていかれるほうですか?

 

市川:8割は自分で企画を考えて、著者を探すというスタイルです。意図的にそうしようと思っています。

もちろん、いろいろな出会いがあった上で企画というのは生まれますので、出会いから始まって本が生まれることは多いですが、基本的に自分の中で温めていた企画や切り口をいかに活用するかという視点で考えています。

これはエージェントさんから企画をご紹介いただいた時でも同じです。

最初から問題意識のないテーマで何となく売れそうと、本を作ることは絶対ないです。

 

───最近読まれた本のなかで、参考になった、タイトルやつくりも含めて、影響を受けた本があれば教えてください。

 

市川:本づくりにおいては『グレイトフルデッドにマーケティングを学ぶ』や『僕は君たちに武器を配りたい』は参考になりました。

両方とも従来のビジネス書とは違うつくりになっていて、その違和感が新しさを上手に演出していました。

店頭でもつい目がいくし、読みながら、これはこれまでの本とは何かが違うという感覚が芽生えるのに成功していたと思います。

『僕は君たちに~』の帯にはほとんど情報も入っていないですよね。

もちろん、単に違和感を出すだけなら簡単ですが、それが本の内容と絶妙に合っていたことが勉強になりました。

 

───最近、市川さんが手がけられた本や、これから出る本についてどんな企画がありますか?

メルマガ読者でまだ読まれていない方に向けてご紹介ください。

 

市川:最近つくったものだと、『「超」入門 失敗の本質』という本があります。

おかげさまで、発売1か月で10万部を超えました。

これは弊社から出ていた『失敗の本質』という、大東亜戦争の敗因を分析した30年前の古典的名著を、現代日本の諸問題と重ね合わせながら解説した書籍です。

原著は名だたる経営者をはじめ、多くのファンを持つ52万部のロングセラーなのですが、非常に難解で、私自身も過去に三度ほど挫折していました。

震災以降の原発対応やソニーをはじめとする日本企業の凋落から、「『失敗の本質』を読み返すべき!」という意見が噴出していましたが、挫折組の人間として、「超訳版」を読めないかと思い作った本です。

原著に挫折した編集者がつくった本ですので、とても読みやすいと思います。

ぜひ読んでみてください。

 

本日はどうもありがとうございました。

 

ブログをお読みの皆さんで、本にしたら絶対売れる!!という企画・原稿をお持ちでしたら、弊社あてにご応募ください。

くわしくは企画原稿検討の要項をご覧ください。検討させていただきます。

ご意見・ご感想は(info@appleseed.co.jp)までお願いいたします。

アバター画像

鬼塚忠

アップルシード・エージェンシー代表。大学在学中に英国留学し、卒業後は働きながら、4年間で世界40か国を巡る。帰国後、海外の本を日本に紹介する仕事を経て、独立。「作家のエージェント」として、多くの才能を発掘している。自身でも小説を執筆し、著書に『Little DJ』『カルテット!』『花いくさ』『風の色』等がある。

記事一覧はこちら

鬼塚忠 からのお知らせ

採用される書籍企画書 作成講座

不定期開催のため、ご興味のある方はリンク先フォームよりお問い合わせください。

ninoya inc.のお知らせ

この記事はいかがでしたか?

いいね!と思ったらボタンを何度でもタップ!いいね数はライターに届きます。

0LIKE

LIKE

ライターへ感想を送るライターへ感想を送る

Share

Follow on SNS

SNSとメルマガでninoyaの最新情報を配信中

メルマガ登録

メルマガ登録

週1回&酒と泪と女と女更新時にメルマガをお届けしています。

pagetop