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共感を引き出す「言葉の因数分解」。本気のストーリーを伝えるインタビューメディア、another life.の矜持

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インタビュー記事は、ライターにとって最もオーソドックスな執筆スタイルのひとつです。いい記事を書くためには、限られた時間のなかで情報を聞き出す「質問力」が欠かせません。でもそれって、どうすれば身につくのでしょうか。今回は、インタビュアーとして過去500人以上を取材したという島田龍男さんに話を聞きました。

(文/小村トリコ)

●島田龍男さん

ネットプロテクションズ、ソフィアバンクを経て、2014年に新條隼人さんと株式会社ドットライフを設立。同社の取締役として、人生インタビューメディア「another life.」(アナザーライフ)の運営を行う。同メディアのインタビューライターとしても活躍中。

 

 

インタビュー記事を読むと、人生が変わる?

───島田さんが所属する「another life.」では、いろんな人の生い立ちから現在までの話を、ものすごく丁寧にインタビューして書かれていますよね。

島田龍男さん(以下、敬称略):他人のライフストーリーをシェアするWebサービスとして立ち上げたんです。記事を読むことで、その人の人生を追体験してもらうのが目的です。

 

───もともと人の話を聞くのが好きだったのですか?

島田:私自身が話を聞きたいというよりは、周りの人たちにこの話を聞いてほしくてメディアを始めました。とあるマーケティングリサーチで、「日本人が夢を諦める平均年齢は24歳」というデータを見たことがあります。社会の現実と自分の限界を知って、目指すものを見失う、と。

実際、同年代にも同じことが起きていて、とても身近に感じました。だから他の人のライフストーリーを知ってもらいたいと思ったんです。

 

───他人のストーリーを聞くと、何が変わるのでしょうか。

島田:本気で自分に向き合っている人のストーリーと触れることで、「自分だったらどうするか?」と考えるきっかけになればと。

私たちみんな、知っている人生のサンプルが少ないんです。両親の人生すらよく知らなかったりします。たくさんの人の生き方を覗くことができれば、選択肢が広がり、自分の可能性に気づくことができるかもしれません。

 

───another life.の記事の中では、会社名などの具体的な情報はほとんど書かれていないですよね。インタビュー記事としては珍しいスタイルなのかなと。

島田:情報を与えることが目的ではないからです。固有名詞が文章に出てきて、もし読み手がその単語を知らなかったら、「これは自分と違う世界の話だな」と距離をとってしまうかもしれない。私たちの目的は、記事の内容に共感してもらい、「自分のこと」として受けとってもらうことです。だからインタビューでその人の感情の変遷を聞き出し、記事でそれを可視化して届けるようにしています。

 

───取材中に相手の感情を聞き出すって、すごく難しいことだと思います。コミュニケーションの秘訣はありますか?

島田:ある程度はモデル化できると思いますよ。ちょっと図にしてみましょうか。

 

質問力を磨くための「ピラミッド」とは

島田:こんなイメージです。

人から話を聞いているとき、まず一番上の「言葉」が来るでしょう。この下にあるものをいつも考えるようにしていて。言葉の下にはおそらく「思考」があります。考えるから言葉が出てくる。この思考を生み出すものは「価値観」ですよね。そして価値観は過去の「体験と感情」のサイクルに紐づいているのでは、というような考え方です。

 

───体験と感情から価値観が生まれて、それが思考を生んで、言葉になって出てくる。

島田:インタビューの最中は、今どのレベルまで聞けているのかを注意しています。たとえば、小村さんは何か好きなものはありますか?

 

───えっ、私ですか。鳥が好きです。

島田:はい。「鳥が好き」は言葉とか思考くらいの話ですね。もうひとつ深い階層の、なぜ好きなのかっていうところが見えてこない。どうして鳥が好きなんですか?

 

───子どものときから鳥と一緒に暮らしていました。

島田:そうそう、「子どものとき」とか。ちょっとずつ片鱗が見えてきた感じですよね。じゃあもう少し深くして、たとえば、小さい頃に鳥と遊んでいて思い出に残っていることはありますか?

 

───うちに鳩小屋があって、鳩のヒナがたまごからかえるところを手に乗せて見ていたんです。カラが破れて、ヒナが見えてくるのがかわいくて。

島田:手のひらで命が産まれた瞬間に立ち会えて心が動いた、ということですね。体験と感情です。ここまで聞けば読者は「それは私の経験だとこういうものに近いな」と連想することができて、小村さんの「鳥が好き」に共感できるのではないかと。

私たちは普段、いわゆる「共感しやすい言葉」に対して、表面的にだけ共感して見せがちなんですよ。「あのケーキ甘くておいしいよね」とか。でも、その甘いって、たとえばフルーツの甘さなのか、チョコレートの甘さなのか、生クリームの甘さなのか、指しているものによって意味合いが変わることがあります。インタビューでは質問して掘り下げていって、「その感覚だったらわかる」というものを探っていきます。

 

───個人の主観をひとつずつ分解して、普遍的な感覚に置き換えていくようなイメージでしょうか。

島田:因数分解に近いと思います。アレとコレを合わせると好きっていうんだね、みたいな。以前、感情の研究をしている人に「日本語には感情を表す言葉が4000語くらいある」と聞いたことがあります。その4000語のうちのどれに当たるのかを細かく見ていっている感覚に近いかなと。

 

 

 

種子島にIターン移住した農家への取材

 

インタビューに必要なのは、慣れないこと

───島田さんはこれまで500〜600人ものインタビューをされているんですよね。それだけの経験をされて、何か研ぎ澄まされるものはありますか。たとえば、初めて会って顔を見た瞬間にその人の性格がわかるとか。

島田:うーん、逆でしょうか。そういうバイアスのない状態で臨めるようになりました。だって、嫌じゃないですか。「小村さんはショートカットでメガネだから知的な人だ」とか決めつけて話されたら?

 

───たしかに……。反発したくなります。

島田:フラットな目線を持つことのほうがずっと大切です。だから経験値ってたまっていかない気がしていて。ただ、いろんな人の体験やそれに紐づく感情が頭にあるので、話を聞いていて相手の感情を理解しやすいですね。それは記事に落とし込むときに生かせていると思います。

 

───取材相手との信頼関係をつくるために気をつけていることはありますか。

島田:ふたつ意識しています。ひとつは、事前に相手についてできるかぎり調べ、その情報をインタビュー中に伝えること。どんな小さな情報でも、この人はちゃんと調べてきてくれたんだなと安心してもらえます。

もうひとつは、「あなたの話をちゃんと理解しています」というのを態度で示すことです。具体的には、相手の話を自分の言葉で言い直して伝えます。「私はこう解釈しました」とか「私だったらこういう経験に近いかもしれません」とか。理解されていると感じたとき、人はもっと話しやすくなりますし、間違っていたらその場で軌道修正できます。

 

食品の商品開発と店舗運営をする方への取材

 

───ここまでおうかがいしてきて、インタビューのスキルって何か特別なことではなくて、普段のコミュニケーションに必要なことと同じような感じがしました。

島田:そうですね。インタビュアーの役割って「テーマに沿って好きなだけ話していい場」をつくることにあると思います。私たちは場をつくっているだけで、あとは相手が自由にお話ししてくださるという認識ですね。

 

───最後に。これからインタビュー取材に臨むライターに向けてアドバイスをください。

島田:大切なのは、「人の大切な時間をもらう」という意識だと思います。たとえば新米ライターが「私は今日が初めての取材なので、うまくできないかもしれません」なんて言ってしまうと、取材を受ける相手にとってはすごく失礼ですよね。時間をいただく以上は、インタビュアーとして覚悟を持って臨まないと。

 

───今も、こうしてお話を聞くのは一瞬ですけど、それを話すまでには島田さんの長い努力があるんですよね。ライターとして、どうすればそれに応えられるでしょうか。いい記事をつくること?

島田:うまく記事にできるかは、やってみるまでわからないですけど、とにかくその時間を真剣に過ごすことじゃないでしょうか。

 

───すごく勉強になりました。島田さん、ありがとうございました!

小村トリコ

小村トリコ

シアトルの日本語新聞『SoySource』編集長を務めたのち帰国し、現在は東京で活動中。ライフワークは「人の話を聞く」こと。コトリ二羽とニンゲンのさんにん暮らし。

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